【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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番外編 

南街特別訓練・3「変な奴」

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 大通りを歩きながら、ファイスは出店の食べ物をいくつか買い食いしていく。

「こっちも食べるか?」

「食べる。……ん、刺激が舌に刺さるような味だ……」

「それは辛いって言うんだぞ。これはどうだ?」

「……塩分が多く感じられる」

「塩辛いかぁ。辛いのと味の濃いのは苦手なんだな」

 ネウクレアはファイスが買ったものをひと口だけ味かじっては味見をしたが、どれも『美味しい』とは言わず、それ以上は欲しがらなかった。

 最初に食べていた串肉は、食べきれずにずっと手に持ったままなのを見かねて、ファイスが残りを引き受けた。

 ……食べているうちに脂身がくどくなってしまい、喉を通らなくなっていたのだ。

「うーん、肉もそんなに食べられないのかぁ……。ネウはどういうのが食べたいんだ?」

「甘い味がいい」

「おっ? 甘い物が好きなのか」

「砂糖菓子」

 複数の食べ物を摂取してみたが、どれもそれほど多く食べたいとは感じなかった。やはり、砂糖菓子が一番、もっと摂取したくなる味だとネウクレアは感じていた。

「そうかぁ。よし、それじゃ、菓子屋に行こう! 甘い物いっぱいだぞ!」



 菓子屋を目指し、大通りを抜けて鍛冶師たちが集う武器屋通に入ると、けたたましい音が聞こえてくる。

「騎士団の剣なんかは、ここら辺で研ぎをやってもらっているんだぞ」

「そうか。これは何の音だ」

「金槌で鉄を叩いている音だな。ほら、あそこだ」

 激しい火花を散らしながら、真っ赤に焼けた鉄を鍛冶師が金づちで叩く様子を眺めたり、武器や防具などを物色しながら歩いていく。

「菓子屋はもっと奥だ。もうちょっと歩くぞ」

「了解」


 武器屋通りに入ってから、何件か進んだ先にある横道へと曲がる。

 薄暗く複雑に入り組んだ裏通りを通り抜けた先にある、静かな場所に目指す菓子店はあった。

 深い赤茶色の屋根と、白壁の組み合わせが美しく、上品で清楚な佇まいだ。脇には木立に囲まれた喫茶用のテラスがあり、何人かの客がテーブルを囲んでのんびりと茶と菓子を楽しんでいる姿があった。

「ここだぞ!」

 夢中になって菓子屋を目指していたファイスは、背後に注意を払うのをすっかり忘れていた。

「あれっ? ……ネ、ネウ……?」
 
 振り返ったファイスの視界に、ネウクレアの姿はない。

 いつの間にはぐれたのか……まるで気づかなかった。

「ネウー! どこだー!」
 
 呼べど叫べど、返事がない。

 事の異常さに気付いたファイスの顔からは笑顔が消えて、顔色が変わった。


「ど、どこ行ったんだよ! ネウ―!」


 焦り混じりの大きな声が、裏通りに響き渡った。






































「――お前たちは、変な奴か」


 ネウクレアは、自身を抱え上げている大柄な男に尋ねた。

「あっは! 変な奴ってなんだ? 変わってるなこのガキ!」

 男の代わりに、目の前にいる細身の男がけたたましい声を上げた。……なんとも耳障りな声だ。

「どうだっていいだろ。どっかのお坊ちゃんだろうな。高く売れるぞ」

 抱えている男が、声を低く潜めてそれに返す。

 どうやらネウクレアのことを令息とでも勘違いしているようだが、売れるというのはどういう意味か。自分は商品ではない。

「皇国の子どもってだけで、他国じゃ珍獣扱いだからな……」

 三人目の男がネウクレアのフードを突く。

 ……なぜかとても不快だ。

 触れられることは温かくて心地いいことで、嫌いではないと思っていたが、この男達のそれは許容できそうにない。

 総合的に見てまるで品位がなく、風体の怪しい男たちに、ネウクレアは警戒を強める。

 ファイスの後を追いかけて菓子屋へと向かっている途中、唐突に体を横合いから抱き上げられて捕獲されたのだ。

 暗く湿り気を帯びた狭い路地で、不快な三人の男に囲まれたこの状況、良好とは言い難い。


 これは、セディウスに報告すべき案件か。


 三人いる『変な奴』は屈強な体つきで、ネウクレアを見下ろす目はぎらついている。前線部隊の面々やファイスとは、全く違う人種だった。


 笑い声も、この視線も不快だ。


 状況によっては排除対象だ。ネウクレアは無暗に抵抗することはせず、ひたすら淡々と冷徹に彼らを観察し続けていた。

「暴れるんじゃないぞ。お前の腹に攻撃術式ブッ込むくらい余裕だ。……小綺麗な顔してそうだな。ちょいと拝んでやろうか」

 凄みを利かせた声音で言いながら、正面にいた男がネウクレアのフードに手を掛けようとする。

「生身は極力晒すなと、指示されている」

「あ? なんだって? なんか生意気だな……殴られたいのかこいつ……」


 言動から危険分子と判断。武力行使。


 ネウクレアは無言のうちに、次の行動を決定した。ぶらりと下げられていた華奢な手が、男の手首に食い込む。

 ――バンッ! 


 派手な音を立てて、小さな爆発術式が光を放って手首に炸裂する。

「ぐぎゃあっ!」

 苦痛にまみれた奇怪な悲鳴が上がった。

「ひいっ、は、放せっ! ぐっ、があっ!」

 白く細い手が、情け容赦なく男の手首を奇妙な形に曲げると、体が回転しながら激しく路地に叩きつけられた。

「なっ、なにしやがった! このガキ……!」

 ネウクレアを抱えている男の驚愕した声よりも先に、全身を脱力させて腕から下へと抜け出し、素早く転がって距離を取る。

「待ちやがれ!」

 こちらに向けて術式を発動した男の右腕に、臆することなく飛び付き肘を抱え込む。

「ぎゃっ!」

 強烈に関節を痛めつけながらひと息に捻り倒し、がら空きの腹に拳と同時に攻撃術式を叩き込んだ。

「ごっはぁ……!」

 打撃音とともに軽く血反吐を吐き、男が苦悶の表情を浮かべてのたうち回る。それに巻き込まれないよう、そばから飛びのいて離れ、次の攻撃に備えて身構えた。

「く、くそっ! ちょ、調子に乗るなぁっ!」

 掴み掛かって来た最後の一人を、魔導防壁で身を守りながら受け流す。勢いを逸らされた男は、古ぼけた煉瓦の壁に顔面から突っ込んだ。

「がはっ! ……ぐ、ううっ、くそっ……! こ、殺してや……ぎゃあっ!」

 鼻血を出しながら怒り狂って術式を発動させようとした男を、足元に発動させた爆発術式で盛大に弾き飛ばした。

「ぐはっ!」

 激しく壁に叩きつけられて、それきり動かなくなった。

 

 ネウクレアは無言のうちに、全てを終わらせた。

 昏倒、あるいは手首や腹を押さえてのたうつ彼らは、もはや逃走することさえできないだろう。

 一時的ではあるが危険分子ではなくなったのを確認して、構えを解いた。




「……制圧、完了」




 普段と変わらない無感情で涼やかな声が、男たちの呻き声に混ざって薄暗い路地に響いた。
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