【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

文字の大きさ
43 / 59
番外編 

南街特別訓練・2「串肉」

しおりを挟む
 レゲムアーク皇国北端、第一騎士団駐屯地からもっとも近い位置にある街……それがストラディアだ。


 騎士を相手に商売をしていた村が、その増員とともに発展した街である。

 駐屯地の南に位置することから騎士の間では通称『南街』と呼ばれているこの街は、皇都並みとまではいかないが食や娯楽が豊富で嗜好品の類も手に入りやすい。

 騎士たちにとって、貴重な憩いの場だ。

 

 そんな南街の大通りを、ファイスはネウクレアを引き連れて歩いていた。

「人がいっぱいで凄いだろ。びっくりしたか?」

「……驚異的な人間の多さだ」

「だろ! なんか楽しいよな!」

 赤や青、鮮やかな飾り布に彩られた通りを行き交う人々は、老若男女多種多様な姿をしていた。

 あちこちから、嗅いだことのない匂いがする。

 笑い声や話し声、荷馬車の車輪や馬のひづめの音など、耳から入る情報も多い。

 研究機関や駐屯地とは違う、あらゆる情報が溢れ返った波の中で、ネウクレアは少し混乱していた。

 こうした場所には、慣れていないのだ。

「よそ見してるとはぐれるぞ」

 足元がおろそかになって人波に飲まれそうになり、ファイスに手を掴まれた。

「ほら、こっちだ」
 
 そのままぐいぐいと引っ張られて、大きな串肉を焼いている出店の前に立つ。

「肉食おう! 甘しょっぱくてすごく美味いやつだぞ。おっちゃん、二本くれ!」

「あいよ!」

「おっ、でっかいのくれたな。ありがとな!」

「おまけだ。沢山食って大きくなれよ副団長殿!」

「もう食ってもでっかくならないぞ!」

「はっはっは! なるかもしれねぇぞ!」

 店主とゲラゲラと陽気に笑い合いながら勘定を済ませたファイスは、受け取った串肉の片方をネウクレアに突き出した。

「ほら、お前の分だぞ。持ってくれ」

 言われて受け取ってみると、なかなかの重さだった。

 茶色のタレが付いていて、こんがりと焼かれた串肉だ。食欲をそそる脂とタレの焦げた匂いが、鼻孔をくすぐる。大通りの屋台で人気の食べ物のひとつだ。

「……これは、なんだ」

「串肉だぞ。肉、食べたことないのか?」

「ない」

 研究機関ではこんな物体は見たことがなく、固形食と飲料液しか口にしていなかった。

「……ほんとお前、あっちでどんな生活してたんだよ。絶対に美味いから食べてみろよ!」

 ……ネウクレアにとっては、てらてらと油がまとわり付いる上に、少し炭化した茶色の物体にしか見えなかった。鼻先を近付けて、すん……と匂いを嗅いでみると、独特の甘い香りの中に炭化した物質や塩分の匂いを強く感じた。

「これは本当に、摂取可能なのか」

「食べられるものだぞ。俺はこれ、大好きだ」

「『大好き』……『好き』よりも、もっと好きということか」

「そうだぞ! いきなり食うのが怖いなら、ちょっとだけ齧って味見してみるといいぞ。食えなきゃ俺が食うし」

 言うなりガブリと豪快に串肉にかじり付いて、肉の塊をひとつ頬張るファイス。口元は脂とタレで汚れ放題だ。

「うん、美味い!」

 ぺろりと口の周りをひと舐めして、また次の塊にかじり付いていく。それを見た店主が「相変わらず、いい食いっぷりだな!」と言って、嬉しそうに笑った。

「……食べて、てみる」

 ネウクレアは二人の笑顔に促されるようにして、串肉の端を少しだけかじり取ってみた。

「甘い……だけではない。これは……」

 様々な刺激がある。

 欠片を口の中で咀嚼して、じっくりと味を確かめる。ピリッとした刺激や砂糖菓子に似た甘み、肉の脂、炭化物や塩気……それらが混じり合い複雑な味を形成していた。

 咀嚼するごとに、口の中に唾液が出てくる。これは摂取できそうな味だ。ファイスが『大好き』な味だと言う要因が理解できた。砂糖菓子ほどではないが……『美味しい』。

「甘しょっぱくて美味いだろ」

「これが、甘しょっぱい味……甘いだけではない。複雑な味だ。しかし……『美味しい』」

「そうかぁ! よかったな。もっと色んな美味いもの食べてみるといいぞ」

「了解した。美味しい物を複数、摂取する」

 少しずつ肉をかじるネウクレアに対して、ファイスは「そんな食べ方だと、肉が減らないぞ!」と、笑いながら、あっと言う間に自分の串肉を食べ終えてしまった。

 そんな彼を真似て肉を頬張ってみるが、ネウクレアは最初の塊すら平らげられない。

「副団長殿、今日はどこかのお坊ちゃんの護衛かい? ずいぶんと上品な子じゃないか」

 串肉屋の店主が、少しずつ肉をかじる様子を微笑まし気に見ながら聞いてくる。

「いや、お坊ちゃんじゃないぞ。こいつは騎士で、俺の友達だ」

「ほー、騎士様かい! それにしちゃ、小綺麗で細いなぁ」

「ネウはすごく強いぞ」

「へええ、見かけによらねぇな! けどな、最近は何かと物騒だ。面倒なやつに無駄に目ぇ付けられんように気をつけてやんな」

「そんな奴がいたらボコボコにする!」

 ネウクレアは二人が話している間ずっと、もぐもぐと口を動かし続けていた。頬張った肉が、なかなか口内からなくならないのだ。

「じゃ、またなおっちゃん! ネウ、食いながらでいいから、次行こうな」

 結局、串肉を食べ終われなかった彼は、次の出店に向かおうとするファイスの言葉に咀嚼を続けながらコクリと頷いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...