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第85話 庭師ウィルキンソンさんのハゲ治療
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その日のうちに、忙しいはずの殿下が公爵邸に雪崩れ込んできた。
「ポ、ポーシャアア!」
殿下は馬を早駆けしてきた。
なぜ、魔法の絨毯を使わない?
「殿下ああ」
そう叫んだのは私ではない。
ウチの使用人たちである。
ヤツらは汗臭い殿下を歓喜して迎え入れ、私は殿下をじろりと白い目で見た。
「あなたが雇ったんですってね、この人たち」
「はう? そんな言葉を聞きにきたのではないっ」
「だから、なんでもバレバレだったのねえ。きっと今もそうね」
私はため息をついた。殿下が来るのが早すぎる。
「アランソンに忠実なのは、バスター君だけじゃない」
殿下はここに至って、やっと使用人が全部自分の紹介だったことがバレたことを悟ったらしい。
「庭師は前からの使用人だ。あとカールソンと」
言い訳した。
「その庭師が、率先して殿下をお薦めしてきたのよ。私、悲しくなっちゃったわ。この家には、殿下の部下はいても、私の使用人はいなかったのねえ」
「いや、あの、ええと、それはその、全部、あなたを思えばこそ、安全で忠実な者をつけたのだ」
逆効果。
「あなたに忠実な人たちばかりですわ」
私はもう一度ため息をついてみせた。殿下は目に見えて焦り出した。
「そんなことはどうでもいい。それよりなんで、グレイ殿のお誘いを受けることにしたのだ?」
それを聞く? それに、お誘いではありませんわ!
私は挑戦状を受け取ったのだ。
逃げるなんて性に合わない。
ここは正々堂々受けて立つべきところだろう!
「敵に背中を見せるような卑怯なマネはしないわ!」
「間違ってる」
「なに?」
「完全に間違ってるから、それ」
「負けろと言うの?」
「ポーシャ、グレイ殿が何者なのか、わかっている?」
チッチッチと殿下は指を振ると、メイフィールド夫人を振り返った。
「お茶とお菓子。喉が渇いた。それから人払い」
固唾を飲んでいた使用人たちが、まるで潮が引くようにサアーっといなくなった。
なんなんだ、お前ら。誰の使用人だ。殿下の言うことなら聞くのか。
私はプンプンだったが、殿下は言った。
「手紙を送ったよね? 毒殺未遂は犯罪だ。いくら、アデル嬢がポーシャには毒が効かない体質だって知ってたなんて言っても、毒を盛れば、本来、人は死ぬ。殺人未遂だ。侯爵家全体も疑われる。今、司法の手が調査中だ。そっちはいい」
「よくないわ!」
「よくないけど、僕たちができることは何もない。問題は毒の入手先とされるグレイ殿だ」
殿下は真顔で聞いた。
「あなたにデートを申し込んだそうだな」
「デート?」
手紙には会いたいと書いてあった。
デートだなんて、金輪際書いてない。
そう言うと、殿下はもどかしげに首を振った。
「会って何をしたいと書いてあった?」
殿下はこれまでみたこともないような渋面をしていた。
面白くないらしい。安心させてあげなくては。私は説明した。
「話をしたいって。つまり、今回の毒殺事件について、何らかの話があるんだわ」
「このバカ者。あんなすごいバラの花束を贈ってきた人間が、自分は毒殺事件に関与してますって言いに来ると思うのか?」
「え?」
「毒殺事件なんか、口の端にも出さないだろう。やさしく口説いて、たらし込む気満々に違いない! グレイ殿は、あなたと親密になって得はするが、損はない人間だぞ?」
「む?」
「やつは侯爵家の三男坊だが、実際のところは商人だから、敵は作りたくないだろう。商売に差し支える。アランソン家と敵対したいだなんて思ってもいないだろう。あのバラを見たらわかる」
私は振り返ってバラの花を凝視した。
金貨六十枚のバラだった。枯れてしまうものに、そんな大金をかけるだなんて、元平民の小心者はビビりまくりだ。ゴージャスだけど。
「今頃、あなたの毒殺未遂の話は、あちこちにバレているだろう。毒をリーマン家に渡したグレイ殿は、絶対疑われたくない。うまい具合にあなたとは以前から知り合いだ。もし、会ってもらえるなら、女性との付き合いには自信のある男だ。被害者のあなたに好意を持ってもらえたら、一安心だ」
「つまり、グレイ様は有罪だと言いたいの?」
「それはわからない。大体毒を欲しがる人間は使う目的があるはずだ。そしてグレイ殿が、その目的を知っていたら共犯になるだろうな」
それはそうね。例えば、逆に、害虫用の薬を売ったのに、別な目的(この場合は私の毒殺用)に使われたと言うなら、それはグレイ様のあずかり知らぬ話だ。罪には問われない。
「アデル嬢は、僕の婚約者ががアデル嬢に決まったので、あなたが嫉妬に駆られてアデル嬢の紅茶にお得意の毒を入れたが、間違って自分で飲んでしまったのだと言っていた。あなたが毒肉ポーションで有名だから、それで通ると思ったらしい」
「その話、なんだか、むかつきますわ」
私のポーションは人助けのもの。そんな使用目的を想像されるだなんて、名誉毀損で訴えたいくらいよ。
それから殿下が自分の婚約者だなんて、何を厚かましい。殿下にそんな気はないわよ。少なくとも、アデル嬢はないわ。
「グレイ殿だって、今回のことは失敗したと思っているんじゃないかと思う。まさかあんな幼稚なやり方でポーシャを毒殺しようとするだなんて、想像していなかっただろう。とはいえ、金さえもらえれば、そんな物騒なものを平気で売る男だ。会うのは止めた方がいい」
殿下は大テーブルの大輪のバラをチラリと見た。
「あんな凄い花を贈って来るとは、それ相当の理由があると言うことだよ。無駄金を使う男ではない」
無駄金は使わないとな? なかなか合理的な男だ。悪くない。
「会ってみますわ」
「止めなさい。あなたでは対抗できないから」
「でも、殿下、一体グレイ様があの毒をどこから入手したのか知りたくありません? それから、節操なくそんな物騒なものを売り歩く商人は封じてしまった方がよくありません?」
殿下はグッと言葉に詰まった。
「言いたいことはわかるが、あなたには無理だ。あなたに何かあったら僕は死んでしまう」
私は高笑いした。
「心配することなど、何もありませんわ。それに、もう、返事は出してしまいました。後は対決あるのみですわ」
しかしながら、その日のうちに憔悴しきった様子のセス様が公爵邸に現れ、私のことをバカ呼ばわりした。
「あんたが余計なことをするから、また俺が殿下にこき使われることになったろ」
「は?」
「俺もデートについていく」
「いりませんけど?」
「俺だって、行きたくない」
セス様はため息をついた。
「だけど、毒の入手経路については、あの男に聞くのが一番早い。言うわけないがね。だから、考えたら、あんたにくっついていくのが一番の早道だ。バカ相手なら本音を吐くだろうからな」
バカって誰のことよ。
「いやでも、セス様は行きたくないんでしょ?」
「当たり前だ。三人デート。聞いたこともない。グレイ殿だってお断りだろう」
「じゃあ、どうやってついてくるつもりなのですか?」
「俺は気配を消せる」
「あ……」
夏の終わりの大舞踏会……あの時、私以外セス様に気がつかなかったのは、そのせいだったのか。
「だけど、あんたはダメだ。俺がどんなに気配を隠してもごまかせない。あんたの魔力量は殿下に匹敵する。感知能力も高めだ。俺の今の心配は、あんたが変な反応をして、グレイに俺の存在がバレることだ。俺の存在を無視するだけの芝居力があんたにあるかな?」
できるわよ。人をバカにしないでちょうだい。
それにしても、三人でデート?だなんて、聞いたこともないわ!
セス様がデートにくっついてくる件に関しては、使用人一同も、大歓迎だった。
あんた達の意見は聞いてないわよ!
「これで、一安心でございます。セス様がおいでなら、きっとなんとかしてくださいます」
「やはり男性がご一緒なら、万一の力技にも対抗できますから」
私とセス様は微妙な顔をした。
セス様に戦闘能力はない。
なにかあったら、戦うのは私だ。
闇の帝王、自称魔王だが、幻覚、錯乱、相手の思考読み、など魔王にふさわしい数々の魔術が使えるが、物理攻撃は球根を投げつけるくらいしか出来ないのだ。
「セス様、そう言えば殿下ファンの庭師、ハゲが広がってましたけど」
「え? ああ、最初、飯作らせたり、買い物に行かせてたやつか」
「ウィルキンソンさんて、言う人よ」
私はうなずいた。庭師を料理番代わりにこき使おうとは、見当違いも甚だしい。絶対ムリだ。
「ハゲ、じわじわ進行してましたよ。そろそろ治してあげたらどうですか?」
「俺にハゲは治せない」
「はっ?」
私は力一杯驚いた。
「治せないんですか?」
気の毒に。道理でセス様が現れた時、使用人一同に緊張が走ったわけだ。
「治せないくせに、あんな魔術かけちゃったの?」
「俺に逆らうからだ」
「無茶言いなさんな。自分だって、戦闘強いられたら困るくせに」
「ポーシャ様が治せるだろ。ポーシャ様が治せるの知ってたから、ハゲ魔法も好きなだけ使えるんだ。なんでまだ治してやってないんだ」
無慈悲魔王。
「俺は、昔、攻撃魔法を必死になって勉強したんだ。だけど、ようやく出来るようになったのは、ハゲ魔法だけだったんだ」
セス様は悲しそうに告白した。
「あんなショボい魔法だけなんて……」
なに卑下してるの! どんな呪いよりも悪どいと思うわ!
私はグレイ様との会見の打ち合わせの後、殿下の味方をした庭師を呼んだ。
畏まってやってきた庭師の頭部をつくづく観察した。
あまり覚えてないけど、確かにじわじわって言うより、劇的に拡大している気がする。元々ハゲる傾向がある頭だったのかも知れない。
「私の結婚にケチをつけないでちょうだい!」
庭師は悲しそうに私の顔を見た。
「ですが、お嬢様……どう考えても殿下はおすすめですで」
どこの田舎の出身なのかしら。
「ええ人ですわ。苦い顔して愛想のカケラもないけど、あら、ええ男です。顔もええし、性格がええ。お嬢様を不幸にするようなこた絶対ありませんで」
聞き苦しいわ。
「私の結婚は私が決めます! 呼んだのはそんな話を聞きたいわけじゃないのよ! その頭よ!」
私はハゲ特効薬を渡した。
「それで治るから。セス様ったら、治し方なんか知らないって言うのよ」
「ポ、ポーシャアア!」
殿下は馬を早駆けしてきた。
なぜ、魔法の絨毯を使わない?
「殿下ああ」
そう叫んだのは私ではない。
ウチの使用人たちである。
ヤツらは汗臭い殿下を歓喜して迎え入れ、私は殿下をじろりと白い目で見た。
「あなたが雇ったんですってね、この人たち」
「はう? そんな言葉を聞きにきたのではないっ」
「だから、なんでもバレバレだったのねえ。きっと今もそうね」
私はため息をついた。殿下が来るのが早すぎる。
「アランソンに忠実なのは、バスター君だけじゃない」
殿下はここに至って、やっと使用人が全部自分の紹介だったことがバレたことを悟ったらしい。
「庭師は前からの使用人だ。あとカールソンと」
言い訳した。
「その庭師が、率先して殿下をお薦めしてきたのよ。私、悲しくなっちゃったわ。この家には、殿下の部下はいても、私の使用人はいなかったのねえ」
「いや、あの、ええと、それはその、全部、あなたを思えばこそ、安全で忠実な者をつけたのだ」
逆効果。
「あなたに忠実な人たちばかりですわ」
私はもう一度ため息をついてみせた。殿下は目に見えて焦り出した。
「そんなことはどうでもいい。それよりなんで、グレイ殿のお誘いを受けることにしたのだ?」
それを聞く? それに、お誘いではありませんわ!
私は挑戦状を受け取ったのだ。
逃げるなんて性に合わない。
ここは正々堂々受けて立つべきところだろう!
「敵に背中を見せるような卑怯なマネはしないわ!」
「間違ってる」
「なに?」
「完全に間違ってるから、それ」
「負けろと言うの?」
「ポーシャ、グレイ殿が何者なのか、わかっている?」
チッチッチと殿下は指を振ると、メイフィールド夫人を振り返った。
「お茶とお菓子。喉が渇いた。それから人払い」
固唾を飲んでいた使用人たちが、まるで潮が引くようにサアーっといなくなった。
なんなんだ、お前ら。誰の使用人だ。殿下の言うことなら聞くのか。
私はプンプンだったが、殿下は言った。
「手紙を送ったよね? 毒殺未遂は犯罪だ。いくら、アデル嬢がポーシャには毒が効かない体質だって知ってたなんて言っても、毒を盛れば、本来、人は死ぬ。殺人未遂だ。侯爵家全体も疑われる。今、司法の手が調査中だ。そっちはいい」
「よくないわ!」
「よくないけど、僕たちができることは何もない。問題は毒の入手先とされるグレイ殿だ」
殿下は真顔で聞いた。
「あなたにデートを申し込んだそうだな」
「デート?」
手紙には会いたいと書いてあった。
デートだなんて、金輪際書いてない。
そう言うと、殿下はもどかしげに首を振った。
「会って何をしたいと書いてあった?」
殿下はこれまでみたこともないような渋面をしていた。
面白くないらしい。安心させてあげなくては。私は説明した。
「話をしたいって。つまり、今回の毒殺事件について、何らかの話があるんだわ」
「このバカ者。あんなすごいバラの花束を贈ってきた人間が、自分は毒殺事件に関与してますって言いに来ると思うのか?」
「え?」
「毒殺事件なんか、口の端にも出さないだろう。やさしく口説いて、たらし込む気満々に違いない! グレイ殿は、あなたと親密になって得はするが、損はない人間だぞ?」
「む?」
「やつは侯爵家の三男坊だが、実際のところは商人だから、敵は作りたくないだろう。商売に差し支える。アランソン家と敵対したいだなんて思ってもいないだろう。あのバラを見たらわかる」
私は振り返ってバラの花を凝視した。
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「今頃、あなたの毒殺未遂の話は、あちこちにバレているだろう。毒をリーマン家に渡したグレイ殿は、絶対疑われたくない。うまい具合にあなたとは以前から知り合いだ。もし、会ってもらえるなら、女性との付き合いには自信のある男だ。被害者のあなたに好意を持ってもらえたら、一安心だ」
「つまり、グレイ様は有罪だと言いたいの?」
「それはわからない。大体毒を欲しがる人間は使う目的があるはずだ。そしてグレイ殿が、その目的を知っていたら共犯になるだろうな」
それはそうね。例えば、逆に、害虫用の薬を売ったのに、別な目的(この場合は私の毒殺用)に使われたと言うなら、それはグレイ様のあずかり知らぬ話だ。罪には問われない。
「アデル嬢は、僕の婚約者ががアデル嬢に決まったので、あなたが嫉妬に駆られてアデル嬢の紅茶にお得意の毒を入れたが、間違って自分で飲んでしまったのだと言っていた。あなたが毒肉ポーションで有名だから、それで通ると思ったらしい」
「その話、なんだか、むかつきますわ」
私のポーションは人助けのもの。そんな使用目的を想像されるだなんて、名誉毀損で訴えたいくらいよ。
それから殿下が自分の婚約者だなんて、何を厚かましい。殿下にそんな気はないわよ。少なくとも、アデル嬢はないわ。
「グレイ殿だって、今回のことは失敗したと思っているんじゃないかと思う。まさかあんな幼稚なやり方でポーシャを毒殺しようとするだなんて、想像していなかっただろう。とはいえ、金さえもらえれば、そんな物騒なものを平気で売る男だ。会うのは止めた方がいい」
殿下は大テーブルの大輪のバラをチラリと見た。
「あんな凄い花を贈って来るとは、それ相当の理由があると言うことだよ。無駄金を使う男ではない」
無駄金は使わないとな? なかなか合理的な男だ。悪くない。
「会ってみますわ」
「止めなさい。あなたでは対抗できないから」
「でも、殿下、一体グレイ様があの毒をどこから入手したのか知りたくありません? それから、節操なくそんな物騒なものを売り歩く商人は封じてしまった方がよくありません?」
殿下はグッと言葉に詰まった。
「言いたいことはわかるが、あなたには無理だ。あなたに何かあったら僕は死んでしまう」
私は高笑いした。
「心配することなど、何もありませんわ。それに、もう、返事は出してしまいました。後は対決あるのみですわ」
しかしながら、その日のうちに憔悴しきった様子のセス様が公爵邸に現れ、私のことをバカ呼ばわりした。
「あんたが余計なことをするから、また俺が殿下にこき使われることになったろ」
「は?」
「俺もデートについていく」
「いりませんけど?」
「俺だって、行きたくない」
セス様はため息をついた。
「だけど、毒の入手経路については、あの男に聞くのが一番早い。言うわけないがね。だから、考えたら、あんたにくっついていくのが一番の早道だ。バカ相手なら本音を吐くだろうからな」
バカって誰のことよ。
「いやでも、セス様は行きたくないんでしょ?」
「当たり前だ。三人デート。聞いたこともない。グレイ殿だってお断りだろう」
「じゃあ、どうやってついてくるつもりなのですか?」
「俺は気配を消せる」
「あ……」
夏の終わりの大舞踏会……あの時、私以外セス様に気がつかなかったのは、そのせいだったのか。
「だけど、あんたはダメだ。俺がどんなに気配を隠してもごまかせない。あんたの魔力量は殿下に匹敵する。感知能力も高めだ。俺の今の心配は、あんたが変な反応をして、グレイに俺の存在がバレることだ。俺の存在を無視するだけの芝居力があんたにあるかな?」
できるわよ。人をバカにしないでちょうだい。
それにしても、三人でデート?だなんて、聞いたこともないわ!
セス様がデートにくっついてくる件に関しては、使用人一同も、大歓迎だった。
あんた達の意見は聞いてないわよ!
「これで、一安心でございます。セス様がおいでなら、きっとなんとかしてくださいます」
「やはり男性がご一緒なら、万一の力技にも対抗できますから」
私とセス様は微妙な顔をした。
セス様に戦闘能力はない。
なにかあったら、戦うのは私だ。
闇の帝王、自称魔王だが、幻覚、錯乱、相手の思考読み、など魔王にふさわしい数々の魔術が使えるが、物理攻撃は球根を投げつけるくらいしか出来ないのだ。
「セス様、そう言えば殿下ファンの庭師、ハゲが広がってましたけど」
「え? ああ、最初、飯作らせたり、買い物に行かせてたやつか」
「ウィルキンソンさんて、言う人よ」
私はうなずいた。庭師を料理番代わりにこき使おうとは、見当違いも甚だしい。絶対ムリだ。
「ハゲ、じわじわ進行してましたよ。そろそろ治してあげたらどうですか?」
「俺にハゲは治せない」
「はっ?」
私は力一杯驚いた。
「治せないんですか?」
気の毒に。道理でセス様が現れた時、使用人一同に緊張が走ったわけだ。
「治せないくせに、あんな魔術かけちゃったの?」
「俺に逆らうからだ」
「無茶言いなさんな。自分だって、戦闘強いられたら困るくせに」
「ポーシャ様が治せるだろ。ポーシャ様が治せるの知ってたから、ハゲ魔法も好きなだけ使えるんだ。なんでまだ治してやってないんだ」
無慈悲魔王。
「俺は、昔、攻撃魔法を必死になって勉強したんだ。だけど、ようやく出来るようになったのは、ハゲ魔法だけだったんだ」
セス様は悲しそうに告白した。
「あんなショボい魔法だけなんて……」
なに卑下してるの! どんな呪いよりも悪どいと思うわ!
私はグレイ様との会見の打ち合わせの後、殿下の味方をした庭師を呼んだ。
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あまり覚えてないけど、確かにじわじわって言うより、劇的に拡大している気がする。元々ハゲる傾向がある頭だったのかも知れない。
「私の結婚にケチをつけないでちょうだい!」
庭師は悲しそうに私の顔を見た。
「ですが、お嬢様……どう考えても殿下はおすすめですで」
どこの田舎の出身なのかしら。
「ええ人ですわ。苦い顔して愛想のカケラもないけど、あら、ええ男です。顔もええし、性格がええ。お嬢様を不幸にするようなこた絶対ありませんで」
聞き苦しいわ。
「私の結婚は私が決めます! 呼んだのはそんな話を聞きたいわけじゃないのよ! その頭よ!」
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