【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

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第86話 グレイ様とのデート(監視付き)

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そして、問題のデート当日。

私と殿下と監視役のセス様は、グレイ様がアランソン侯爵邸まで迎えに来てくださるというので、公爵邸に集まる事になっていた。

別に殿下が来る必要はないんじゃない?と聞いたけど、何があっても来てくれるらしい。何しに?

セス様はいつもの自由自在な格好で現れた。魔王だか冥王だかのコスチュームである。

最近は慣れてしまって、何を着てきても、ああセス様だなあで終わってしまっている。でも、本人はそれが不満らしい。

「今回は、靴先に飾りをつけてみたんだけど」

セス様は足元を指して注意を促した。

でも、殿下は、それ、要るか?と突っ込みを入れただけで、私に向かって、こんなヤツと一緒で大丈夫かと尋ねた。

「私、すっかり慣れちゃって、途中で笑い出したりしないから大丈夫ですよ」

「そうか。それだけがちょっと心配でね。セスの魔術は完璧で、絶対気取られないだろうけど、隣のポーシャの態度でバレるんじゃないかと思って」

そう言うと、殿下はしみじみと私を見た。

街歩きする令嬢らしく、短めの上着と短めのスカートに、歩きやすい靴だ。ただ、金貨六十枚に敬意を表して、おしゃれになっている(自分では)。

「ポーシャ、いつにも増してきれいだ。相手がグレイ殿だなんて嫌すぎる。やつを抹殺して、今日は代わりに僕がデートしよう」

「今日はデートじゃないって何回言えばわかるんです。今日は、セス様と一緒に毒の入手経路の調査でしょう」

私も最初はタイマン対決かと思ってたから、人のこと言えないけど。

「それに抹殺してってなんなんです。アデル嬢と同じレベルに堕ちないでください」

「失礼な。僕なら遺体の跡形も残さない。なんなら馬車も護衛も焼却出来る。全部なかったことに出来るぞ。アデル嬢のレベルと一緒にしないでくれ」

殿下は体をユラユラさせ始めた。真剣にデートプランのお相手の抹殺プランを検討しているらしい。

これが、ウチの使用人一同の超おススメ物件とは、嘆かわしい。
あの連中、殿下に騙されてるわ。

「とにかく殿下はもう出て行ってください。そろそろグレイ様が来られますわ」


グレイ様は、約束の時間ぴったりに、相変わらず肩の力が抜けた、しかし素晴らしく粋な格好で公爵邸に来られた。

スラリと足長だが、均整が取れている。背が高すぎて猫背のセス様に比べると、背筋がスッと伸びていてカッコいい。

しかも横並びされると、セス様の衣装が安っぽく見えると言う効果付きだった。

自分もドレスを選ぶときは考えなくちゃ。

「レディ、この前の約束を覚えてらっしゃいますか?」

「約束? あっ……」

そう言われれば、香水をプレゼントされたのだった。そして、その香水が似合う女性になれと言われていた。

「まだまだ、その域ではないと自分では思いますの」

香水だけそんな高いものを付けていたら、ドレスやネックレスなどと釣り合いが取れないだろう。

「でも、公爵家の令嬢、ご当主ともあろうお方ならどんな衣装でも不釣り合いではございますまい」

フッと人の気配を感じて後ろを振り向くと、セス様がブツブツ言いながら、メモを取っていた。
殿下に言いつける気らしい。

「どうしました?」

「いいえ、なんでも。つい、余りにもグレイ様がステキすぎて……」

「私がステキでもどうでもいいじゃありませんか」

グレイ様は意外なことを言い出した。こんなに自分を飾っている男は、きっと自意識過剰で、自分に関心を持ってもらいたがっているに違いないと言う考えは間違っていたらしい。

「私が今考えているのは、あなたのことですよ」

「私ですか?」

真剣な様子で、グレイ様はうなずいた。

「あなたほど、美しい人を見たことがない。この世で初めて会った美の結晶のようだ」

私は驚いて一歩後ろに下がった。その途端、すぐ後ろにいたセス様の足に靴のかかとをっ刺してしまったらしかった。

(「痛でえ!」)

セス様の叫びは、グレイ様には聞こえない仕様らしい。
よかった。踏み放題……違う、無視しよう。いや、無視しなくっちゃ。

「美の結晶?」

「私の家は貧乏で、両親は見栄と体裁と貴族の格式にこだわる人たちで、侯爵家の体面を保つのに必死でした。それだけが価値観だったのです。私が好きで興味があったのは、美しいもの、美しいフォルムのドレスや、見事なカッティングのきらめく宝石が大好きでした」

私は目を見張った。

「男のくせに、おかしいでしょ?」

私がポーションに興味を持つのがオカシイと言う人だって多い。女性なら、ドレスや宝石に興味を持つべきだと説教されることも多かった。主に殿下から。

「そんなこと、ありませんわ」

グレイ様はフフッと声に出して笑った。

「あなたなら、そう言うと思っていましたよ。何の偏見もなさそうですからね。でも、私の両親は偏見に満ちていました。私の子ども時代はつらい思い出ばかりでした。だから、私は金儲けに邁進することに決めたのです」

ほう……かねもうけ

「なんだかステキな響きですわね」

実は私も金儲けに邁進している。だって、面白いではないか。
ポーションのことしか出来ないけど、がんばればお金と言う形で成果がついてくる。
儲かれば、それだけやるぞーって気になるし。

どうやって、お金を作ったのかしら? 猛烈に気になったのだけど、グレイ様の話は肝心のところをすっ飛ばして、結果を語り始めた。

「この国でも有数の金持ちになった時、私は服を買いました。だって、買いたかった、作りたかった。着たいものを着たかった。いわば自分の表現ですよね」

服は自分の表現だったのか。

実は、あなたの背中のところにも一人、服で自己表現に勤しんでいる方がいますのよ? ご紹介申し上げたいわ……私はセス様の顔を見ないように、振り向きたい衝動を必死で抑えた。

「結局、自分が着たい服と似合う服は別と言う教訓を得ただけでしたがね。でも、ポーシャ様、あなたを見付けた時、私は私の理想が現実となって現れたような気がしたんです。嘘のようなその体つき、夢のような顔立ち、それなのに妖艶な雰囲気がある。素のあなたは、全然色っぽくなくて、服なんかどうでもいい人なのに」

なんだか失礼なような発言だけど、ほんとのことだろう。

「だから、服を買いましょう。あなたが最高に引き立つ服を。あなたが知らないあなたの魅力を引き出すドレスを」

「誰がお金を払うんですか?」

私は用心深く尋ねた。

「お金の心配はしなくていい。私が私の夢をかなえたいだけなんだ」

したがって、デート先のドレスメーカーは、全然知らない店だった。
おばあさまのリストにはない、新進気鋭のデザイナーさんなのだと言う。

そのドレスメーカーの人間とグレイ様は相当親しいようで、すっかり打ち合わせが出来ていたらしく、私は、斬新な色合いの美しいドレスを着つけられて困惑した。

不思議な光沢のある濃い赤のドレスは裏打ちが真紅のサテンで、スカートさばきのたび、チラリとのぞいて人目を引く。

ドレスに負けないように、化粧は濃いめ。赤く口紅を引き、まつげと眉と目元に色を足すと、いつもの自分とは全然違っていて、本気で誰だかわからなかった。

「美の女神だ」

(「うおうっ!」)

仕度が出来上がるのをじっと待っていたグレイ様は、私が出てくると、本当に嬉しそうだった。

同時に変な声が上がっていた。

だけどそっちは見るわけにいかない。



「思った通りだ。ね? 好きな服と似合う服は違うって言ったでしょ?」

似合うと言うか……なんだか嬉しそうな店員に促されて覗き込んだ鏡の中には、匂い立つような美女が立っていた。
人の心を駆り立てるような、その顔や化粧やパーツの一つ一つが何を意味しているのか、ずっと見つめ続けてその正体を知りたくなるような美人。

二度見と言う言葉の意味が理解できたような気がする。

ただの美女ではない。自分でもびっくりした。これで夜会にでも出ようものなら……夜会になんか行ったこともないけれど、全員から注目されるだろう。

「顔を上げて。胸を張って。もっと自信たっぷりな表情をして」

グレイ様から注文が入った。

無理。

元々ガリの痩せ体型。
ほっそりと……といえば聞こえはいいが、早い話が胸がスカスカだ。

胸を張れとか、絶対無理。
せめて胸に詰めろとか言って欲しい。詰め物ください。

「うん。まだまだだけど、いいね」

彼はくるくると私の周りを回り言った。

「じゃあ、行こうか」

「どこへ?」

「食事だよ。これも勉強さ」

なぜ、こんな格好で食事に行かなくてはならないのか、よくわからなかったけど、街歩きの服と違い、コルセットで締め付けられ、ヒールが高くなったので、うまく身動きができない私はそのままグレイ様に運ばれていった。

「さあ」

なるほど。これでは馬車にも乗れない。エスコートが必要だ。

ちょっとフラついたところで、めちゃくちゃに嬉しそうなグレイ様から手が差し伸べられた。

「この上なく自尊心の高そうな、傲慢にさえ見える美人。頭脳も一流で非の打ち所がない。でも、体は華奢で風にも耐えられそうになくて、男の手を必要とする」

風にも耐えられないって、コルセットのせいでしょうがっ。

(「……男の手を必要とする……と」)

背中で声がした。セス様がメモってるんだ。やめて。それ、あとで殿下に報告するんでしょう? 殿下が変な反応しそう。

それと、馬車に乗れないセス様はどうするんだろう?

それだけは気になって、横目で確認すると、セス様は堂々と馬車の上によじ登っていった。

なんと! そんなことできるんだ。

確かに街中だからスピードは出ないわ。

「モロゾフで食べましょう」

馬車に気を取られている私に向かって、グレイ様が親しげに言った。

「モロゾフで?」

私だってモロゾフの名前くらい知っている。

その店は、暇で金のある貴族階級の社交場だってこと。

いや、いかがわしいという意味ではない。それどころか有名な老舗で、かなり裕福な貴族でないと利用できない。
サロンが併設されていて、食後、軽くお酒やカードを楽しみながらおしゃべりできるのが売りだ。

自宅でパーティを開かなくても、気楽に社交が楽しめる。自宅でパーティを開くのは、なかなか大変だもの。

サロンの方は、会員制で、紹介者がいないと会員になれない。

それだけ聞くと、あたかも上品な高級貴族限定の社交の場のように聞こえるが、モロゾフはそれだけではなかった。
なんだかわからない。
例えば、真の大貴族、名声や血筋や財力だけでなくて、多くの人たちから尊敬されている大貴族は、断り切れなかったか何かして会員になることはあっても、頻繁に利用はしなかった。

ちなみに私はもちろん会員ではない。学生だし。

「私、モロゾフの会員ではありませんので!」

必死でそう言ったが、グレイ様はどこ吹く風だ。

モロゾフなんかに行ったら、客全員から大注目を浴びるに決まっている。

「私が会員ですから。その同伴者なら入れます。それにこれほどまでに美しい方をお連れするのですもの。店だって大歓迎でしょう」

「店が大歓迎なのは、私が公爵だからでしょう!」

私は思わずペロっと本音を言ってしまった。

グレイ様は私の顔にチャッと素早く目を走らせたが、大声で笑い出した。

「ポーシャ様。私、あなたが大好きなんです。美の権化だと思っていたのですが、それだけじゃ全然ない。あなたと一緒なら、一生飽きないと思う。僭越で厚かましいことは重々承知ですが、あなたの結婚相手の候補者として名乗りをあげたいものです」

私は思わず、馬車の窓に張り付いているセス様の顔を見た。

なんとかしろ。

何のためについてきた。

セス様は首を振った。

ええい、この役立たず。

「窓に外に何があるって言うんですか?」

グレイ様は楽しげに言った。

「お腹が空いたでしょう。従僕を先に店に走らせました。準備が整っていることと思います」

私は、生贄の羊が、祭壇に連れて行かれるような気分を味わいながら、なんとも嬉しそうな表情のグレイ様にエスコートされて、重厚な豪華さを誇るサロン・モロゾフの階段を一歩一歩登っていった。



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