55 / 72
第55話 今度はモートン様劇場
しおりを挟む
そのほかグラント伯爵の健康を祈念しましょうと親しくなった聖職者が、実は詐欺師だったことが判明したり、効果抜群という触れ込みの健康食品が、グラント伯爵に関わると効果がないどころか毒だったことがバレた事件もある。
これが数回続くと、詐欺師たちはグラント伯爵家を避けるようになった。
しかし今度は、なぜグラント伯爵家に健康食品などを売りに行かないのか疑問視され、グラント伯爵のところへは、何々と言う名前の健康食品はご利用ですか?と言う問い合わせが入るようになった。グラント伯爵が使っていると答えると、安心して売り上げが伸びると言う怪現象が起きるようになった。
まるで試金石扱いである。
ところが、皆が安心して食べたり飲んだりした後で、急にグラント伯爵が体調を崩し、医者たちが細かく話を聞いて症状と合わせていくと、やっぱり彼の健康食品は毒だったと言う事実が判明するケースが多かった。
しかも、普通この程度でここまで体調を崩すことはあり得ないのに、伯爵は見事なまでに瀕死に陥り、買った人たちに恐怖を与え、業者は逮捕される事態を招いた。
さらに始末が悪いことに、伯爵は祈祷や健康食品、健康法に興味があり、自からその手の情報を集め、ガラクタ商人や偽祈祷者を呼ぶのである。
こんな伯爵に試されたくない。だけど、断ると疑われる。したがって断れない。
その上、逮捕案件のあとに、芋づる式に被害者が詐欺師だったり、被害者の友人が殺人事件の犯人だったり、不思議なくらい全く明後日の方向に事件は拡大した。
グラント伯爵本人は純粋で悪気がないのにもかかわらず、何かとお騒がせが次から次へと起きる不思議な体質の持ち主だった。
全体をひっくるめて、グラントの不幸と呼ばれるようになった。
偽聖職者や悪徳商人などが捕まったことは、社会全体に対しては望ましいことだが、捕まった当人たちは、あの伯爵に関わったばかりに起きた不幸と嘆いたと言う。
自業自得だと思うんだけど。
グラントの不幸は有名だ。
自らが重体になるくらいならともかく、他人に不幸をお配りするようでは付き合いきれない。一体、グラントの不幸がどれくらいの範囲まで有効なのかわからないけど、そのせいでモートン様はこの話題には触れなかったと言う意味なのね。
「それは仕方ないですわね」
私は深く納得した。死後、高僧に祈りをささげてもらって、なるたけ立派な葬儀を営んだ。そのせいか、数週間が経ってもグラントの不幸は発動せず、親族一同胸をなでおろしたそうだ。
「あなたは理解が速いので助かります」
そう言うとモートン様はニコリとほほ笑んだ。
「あなたの義姉の皆さんに、グラントの不幸がまとめてやってくることを祈ります。伯父は死後の話をされるのをことのほか嫌いましたので」
「そうですわね。何か不敬なことを言ってましたわね。亡くなった方のことをとやかく言うものではありませんわ」
モートン様は私の方に向き直り、手を取った。
「そうですとも。でも、僕が今宵、ここに来たのは、グラント伯爵の話をするためではなく、あなたに婚約を申し込むためです」
私は猛烈に緊張した。
あの。
嬉しいのはとても嬉しいのですが。
なぜかギャラリーがいます。
ダンスホールの真ん中に連れ来られたせいか、先ほどまでモートン様の周りを取り囲んでいた令嬢たちや、無関係なはずの騎士学校や貴族学園の生徒だとかが、なぜか固唾を飲んで見守ってくれているのですが?
「行けー! マーク」
なぜか飛ぶ声援。
「頑張ってー! エレクトラ様あ」
誰? これは?
モートン様は私の足元に跪いた。
「結婚してください」
え。
私はこっそり周りを見回した。にこにこ笑顔で、ハッピーエンドの期待に満ちて見守る顔、顔、顔……。
これ、断ったら、モートン様の顔をつぶすことになるのかしら。
「は、はぃ」
蚊が鳴くような声で返事した。私のような者に求婚してくれるだなんて、嬉しいけど、猛烈に恥ずかしいのですが。
「聞こえない! もう一度!」
ギャラリーが檄を飛ばす。
「では! もう一度、申し込みましょう!」
跪いたまま、私の顔を見上げるモートン様。キラキラした瞳で、挑発に乗らないでください!
これが数回続くと、詐欺師たちはグラント伯爵家を避けるようになった。
しかし今度は、なぜグラント伯爵家に健康食品などを売りに行かないのか疑問視され、グラント伯爵のところへは、何々と言う名前の健康食品はご利用ですか?と言う問い合わせが入るようになった。グラント伯爵が使っていると答えると、安心して売り上げが伸びると言う怪現象が起きるようになった。
まるで試金石扱いである。
ところが、皆が安心して食べたり飲んだりした後で、急にグラント伯爵が体調を崩し、医者たちが細かく話を聞いて症状と合わせていくと、やっぱり彼の健康食品は毒だったと言う事実が判明するケースが多かった。
しかも、普通この程度でここまで体調を崩すことはあり得ないのに、伯爵は見事なまでに瀕死に陥り、買った人たちに恐怖を与え、業者は逮捕される事態を招いた。
さらに始末が悪いことに、伯爵は祈祷や健康食品、健康法に興味があり、自からその手の情報を集め、ガラクタ商人や偽祈祷者を呼ぶのである。
こんな伯爵に試されたくない。だけど、断ると疑われる。したがって断れない。
その上、逮捕案件のあとに、芋づる式に被害者が詐欺師だったり、被害者の友人が殺人事件の犯人だったり、不思議なくらい全く明後日の方向に事件は拡大した。
グラント伯爵本人は純粋で悪気がないのにもかかわらず、何かとお騒がせが次から次へと起きる不思議な体質の持ち主だった。
全体をひっくるめて、グラントの不幸と呼ばれるようになった。
偽聖職者や悪徳商人などが捕まったことは、社会全体に対しては望ましいことだが、捕まった当人たちは、あの伯爵に関わったばかりに起きた不幸と嘆いたと言う。
自業自得だと思うんだけど。
グラントの不幸は有名だ。
自らが重体になるくらいならともかく、他人に不幸をお配りするようでは付き合いきれない。一体、グラントの不幸がどれくらいの範囲まで有効なのかわからないけど、そのせいでモートン様はこの話題には触れなかったと言う意味なのね。
「それは仕方ないですわね」
私は深く納得した。死後、高僧に祈りをささげてもらって、なるたけ立派な葬儀を営んだ。そのせいか、数週間が経ってもグラントの不幸は発動せず、親族一同胸をなでおろしたそうだ。
「あなたは理解が速いので助かります」
そう言うとモートン様はニコリとほほ笑んだ。
「あなたの義姉の皆さんに、グラントの不幸がまとめてやってくることを祈ります。伯父は死後の話をされるのをことのほか嫌いましたので」
「そうですわね。何か不敬なことを言ってましたわね。亡くなった方のことをとやかく言うものではありませんわ」
モートン様は私の方に向き直り、手を取った。
「そうですとも。でも、僕が今宵、ここに来たのは、グラント伯爵の話をするためではなく、あなたに婚約を申し込むためです」
私は猛烈に緊張した。
あの。
嬉しいのはとても嬉しいのですが。
なぜかギャラリーがいます。
ダンスホールの真ん中に連れ来られたせいか、先ほどまでモートン様の周りを取り囲んでいた令嬢たちや、無関係なはずの騎士学校や貴族学園の生徒だとかが、なぜか固唾を飲んで見守ってくれているのですが?
「行けー! マーク」
なぜか飛ぶ声援。
「頑張ってー! エレクトラ様あ」
誰? これは?
モートン様は私の足元に跪いた。
「結婚してください」
え。
私はこっそり周りを見回した。にこにこ笑顔で、ハッピーエンドの期待に満ちて見守る顔、顔、顔……。
これ、断ったら、モートン様の顔をつぶすことになるのかしら。
「は、はぃ」
蚊が鳴くような声で返事した。私のような者に求婚してくれるだなんて、嬉しいけど、猛烈に恥ずかしいのですが。
「聞こえない! もう一度!」
ギャラリーが檄を飛ばす。
「では! もう一度、申し込みましょう!」
跪いたまま、私の顔を見上げるモートン様。キラキラした瞳で、挑発に乗らないでください!
440
あなたにおすすめの小説
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる