56 / 72
第56話 強引かもしれないけど優しい
しおりを挟む
「僕と結婚してください。永遠の愛を誓います」
「はぃ」
「聞こえない。もっと大きな声で!」
モートン様が跪いたまま手をギュッと握り締めた。
「はい!」
私はやけくそで会場中に響き渡るような大声で返事した。もう顔が真っ赤になっているに違いない。
周りから拍手が沸き上がり、おめでとう! マーク! と言う声が次々に聞こえた。思っていたより大勢王立高等学院の生徒が来ているな? 留学していたくせに。
恥ずかしすぎる。
「よくやった!」
「おめでとう!」
モートン様は嬉しそうだ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
立ち上がってふわりと抱きしめられた。彼の腕のおかげで突き刺さるような視線が和らいだが、誰かが声をそろえて叫んだ。
「エレクトラ様、おめでとう!」
女性の声だ。これってアイリス嬢とアラベラ嬢?
腕の隙間から見ると、アイリス嬢とアラベラ嬢が満面の笑顔なのが目についた。
あれ? アーネスティン様がいる。笑っている。マチルダ様もだ。ローズマリー様は何と泣いてる?
「さあ、踊りましょうか」
ダンスの前の音楽が流れ始めて、大勢の人たちが動き始めた。
私たちは、まるでずっと前からの婚約者みたいに踊って、その晩ずっと一緒にいた。そして全然緊張はしなかった。
さすが十ページもある手紙を書いてよこすだけだけあって、モートン様のたいていの話題に私はついて行けたし、ついこの間まで何かあるとモートン様に愚痴をこぼしていただけあって、モートン様も私の事情をよくご存じだった。
「ねえ、もう、モートン様と言うのはやめませんか?」
モートン様は耳元でささやいた。
「僕の名前も変わりますので」
「なんとお呼びすれば?」
グラント伯爵かしら? 正式にお披露目はまだしていないらしいけど。なにしろ、グラントの不幸がありますからね?
「マークと」
私は途端に真っ赤になってしまった。どうしよう。
「僕も次から手紙には愛しいエレクトラって書きます。マークって呼んでください」
年下なんだけれどね? 押しが強いな。強すぎる。
「マ、マーク様」
「ん? 聞こえない。もう一度。あと、様は要りません」
聞こえてるじゃないの!
「マーク?」
真っ赤になってしまって、モートン様ではないマーク様の顔を見ると、彼も真っ赤な顔をしていた。にもかかわらず、彼は言った。
「聞こえないな。耳元で言ってください」
ダメだわ、この人。
「いい加減にして。もう帰りましょう」
「なんてことを言うの? 僕はまだあなたのドレスを褒めていない」
私は突然気が付いた。もっと前に気づいていなければいけなかったのに!
「ドレスを……ありがとうございました」
「当然のことです。今の僕には簡単なことですから」
グラント伯爵が広大な領地を持つ大領主だと言うことを思い出した。マーク様はお金を得たのだ。それでドレスを買うことができるようになったのだ。
私は自分のドレスとマーク様の服を見た。見事に色合いが合っている。誰が見ても、彼が贈ったドレスを着ているのだと一目でわかるだろう。
「あなたはお金持ちなのね」
「僕がお金持ちなら、あなたもお金持ちですよ」
彼はやさしく言った。
私はその言葉に動揺した。
だって、母が亡くなって義母が来てからというもの、私は自分が気を遣ったり仕事を受け持ったりすることはあっても、誰かに大事にされた記憶がない気がする。
彼の言葉は、私を受け止めてくれる。頼っていいんだと言ってくれている。
一人でも底なしに甘えていい人がいる。
うっかり涙が出そうになって、マーク様があわてた。
「ありがとう、マーク様。お気持ちが嬉しいですわ」
その晩は私たちは一番遅くまで残って、最後に彼が私を王弟殿下のお屋敷まで送ってくれた。
馬車を降りるとき、マーク様が言った。
「僕は、今回、あなたのお父様のお供で帰ってきたのです」
「え?」
私はびっくりした。父が帰ってきた?
「あなたを王弟殿下のお屋敷に送らなくてはならないとは残念なことです。でも、明日からは事情が変わると思います」
それは、どういうこと?
「はぃ」
「聞こえない。もっと大きな声で!」
モートン様が跪いたまま手をギュッと握り締めた。
「はい!」
私はやけくそで会場中に響き渡るような大声で返事した。もう顔が真っ赤になっているに違いない。
周りから拍手が沸き上がり、おめでとう! マーク! と言う声が次々に聞こえた。思っていたより大勢王立高等学院の生徒が来ているな? 留学していたくせに。
恥ずかしすぎる。
「よくやった!」
「おめでとう!」
モートン様は嬉しそうだ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
立ち上がってふわりと抱きしめられた。彼の腕のおかげで突き刺さるような視線が和らいだが、誰かが声をそろえて叫んだ。
「エレクトラ様、おめでとう!」
女性の声だ。これってアイリス嬢とアラベラ嬢?
腕の隙間から見ると、アイリス嬢とアラベラ嬢が満面の笑顔なのが目についた。
あれ? アーネスティン様がいる。笑っている。マチルダ様もだ。ローズマリー様は何と泣いてる?
「さあ、踊りましょうか」
ダンスの前の音楽が流れ始めて、大勢の人たちが動き始めた。
私たちは、まるでずっと前からの婚約者みたいに踊って、その晩ずっと一緒にいた。そして全然緊張はしなかった。
さすが十ページもある手紙を書いてよこすだけだけあって、モートン様のたいていの話題に私はついて行けたし、ついこの間まで何かあるとモートン様に愚痴をこぼしていただけあって、モートン様も私の事情をよくご存じだった。
「ねえ、もう、モートン様と言うのはやめませんか?」
モートン様は耳元でささやいた。
「僕の名前も変わりますので」
「なんとお呼びすれば?」
グラント伯爵かしら? 正式にお披露目はまだしていないらしいけど。なにしろ、グラントの不幸がありますからね?
「マークと」
私は途端に真っ赤になってしまった。どうしよう。
「僕も次から手紙には愛しいエレクトラって書きます。マークって呼んでください」
年下なんだけれどね? 押しが強いな。強すぎる。
「マ、マーク様」
「ん? 聞こえない。もう一度。あと、様は要りません」
聞こえてるじゃないの!
「マーク?」
真っ赤になってしまって、モートン様ではないマーク様の顔を見ると、彼も真っ赤な顔をしていた。にもかかわらず、彼は言った。
「聞こえないな。耳元で言ってください」
ダメだわ、この人。
「いい加減にして。もう帰りましょう」
「なんてことを言うの? 僕はまだあなたのドレスを褒めていない」
私は突然気が付いた。もっと前に気づいていなければいけなかったのに!
「ドレスを……ありがとうございました」
「当然のことです。今の僕には簡単なことですから」
グラント伯爵が広大な領地を持つ大領主だと言うことを思い出した。マーク様はお金を得たのだ。それでドレスを買うことができるようになったのだ。
私は自分のドレスとマーク様の服を見た。見事に色合いが合っている。誰が見ても、彼が贈ったドレスを着ているのだと一目でわかるだろう。
「あなたはお金持ちなのね」
「僕がお金持ちなら、あなたもお金持ちですよ」
彼はやさしく言った。
私はその言葉に動揺した。
だって、母が亡くなって義母が来てからというもの、私は自分が気を遣ったり仕事を受け持ったりすることはあっても、誰かに大事にされた記憶がない気がする。
彼の言葉は、私を受け止めてくれる。頼っていいんだと言ってくれている。
一人でも底なしに甘えていい人がいる。
うっかり涙が出そうになって、マーク様があわてた。
「ありがとう、マーク様。お気持ちが嬉しいですわ」
その晩は私たちは一番遅くまで残って、最後に彼が私を王弟殿下のお屋敷まで送ってくれた。
馬車を降りるとき、マーク様が言った。
「僕は、今回、あなたのお父様のお供で帰ってきたのです」
「え?」
私はびっくりした。父が帰ってきた?
「あなたを王弟殿下のお屋敷に送らなくてはならないとは残念なことです。でも、明日からは事情が変わると思います」
それは、どういうこと?
422
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
たいした苦悩じゃないのよね?
ぽんぽこ狸
恋愛
シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。
潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。
それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。
けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。
彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる