【完結】エレクトラの婚約者

buchi

文字の大きさ
64 / 72

第64話 本物の義姉見つかる

しおりを挟む
ととても心配だったが、ある日三人は突然いなくなってしまった。ソンプ家の田舎にある別邸に移ったとのことだった。セバスが教えてくれた。

「家と畑だけはあるそうです」

厳格そうな顔に取り繕っているセバスの口角が、勝手にニンマリと上がっていた。

「畑?」

私は聞き返した。

「自給自足が可能らしいですよ。これからは自分で畑を耕して食べていくんですな」

事情通の使用人たちがせせら笑った。

「いつだったか、お嬢様に洗濯を強要しましたね」

「そんなこともあったわね」

「あれほどまで他人の心配ができる人たちです。今度は自分の心配をちゃんとするでしょうよ」

なんでも、持っていた宝飾品やドレスなどはほとんど全部売りに出されたらしい。でないと、ドレスメーカーやルテイン家から借りていたお金を返せないそうだった。

「ハーマン侯爵家が代わりに返すわけには絶対にいきませんから」

セバスが断固とした口調で言い放った。

その道のプロたちの取り立て方は徹底していて、高いドレスはもちろん下着まで取り上げたそうだ。ちょっとびっくりした。文字通り、着の身着のままになってしまったらしい。

「男爵家からの結婚指輪や、嫁入りの時の記念の銀の写真立ても全部ね。ハンカチ一枚残さなかった。そんなこと、私たちにはできませんからね」

他人に任せると言うのはそう言うことか。

「かわいそうではないですか? ここへ来た時より貧乏になって帰るのですよ」

私は言ってみた。

「かわいそうというのは、少しくらいなら恵んでやれとでも言いたいのですか? それはダメです。そもそもあの人たちのためになりません。支払い能力があると思えば、また悪い人たちがお金を貸すでしょう。彼女たちは愚かなんです。懲りずに、またお金を借りるでしょう。私たちは手を切ったのです」

セバスに叱られた。全くその通りだった。モートン様が言っていた通りだった。彼女たちはバカなのだ。自分で自分を助けることができなかった。




そして私たちは彼女たちのことを忘れていった。

だって、それどころではなかったのですもの。

ソンプ家の未亡人とその娘の三人が田舎に行ってしまってから、私は大きな驚きに直面した。

一つ目は、マチルダ様の婚約者がヘイスティング侯爵その人だったと言うことで。

女友達同士がお互いに自分の婚約者を紹介することは、滅多にない。
だから、婚約者の名前すら教えてもらえなかったのは多少不自然だったが、そこまで気にしていなかった。

しかし、事情がわかれば、これはもう、やむなし。
マチルダ様がヘイスティング侯爵の婚約者と分かれば、ソンプ男爵夫人とアンとステラが、マチルダ様相手に何をやり出すか知れたもんじゃない。

「黙っていてごめんなさい。元はと言えばヘイスティング家が原因なのですけど、何かの拍子にあの人たちに婚約を知られると、何か更によくないことが起きる気がして」

マチルダ様はご存じないが、アンとステラをお友達にするために紹介しろと義母に何回もせっつかれていた。何かよくないことが起きることは確実だ。

「お気になさらず」

あれ以上騒ぎを起こさないと言うのは、賢明な判断だとしか言いようがない。それに生家はうちだ。つまり、発生源はこちらにある。
生家って嫌な役割だわ。悪臭の元みたいだわ。

「あなたが大迷惑をこうむっている様子を見聞きして、事情はアンドリュー様に報告していましたの」

うーむー。ヘイスティング家に筒抜けだったわけか。まあ、その方が対応のやりようがあると言えばあるような気はする。



次の大きな驚きは、ローズマリー様の婚約者だった。

「私の婚約者を紹介しますわ。ヘンリー・ハワード様。ハワード侯爵家のご長男の方ですわ」

ローズマリー様はわざわざ自邸に招いてくださったうえで、ご自分の婚約者を連れてきて紹介した。

「えっ?」

私はまじまじとその男性を見据えた。

「お兄様?」

キリッとしゃちほこばっているのは、どう見てもウチの兄だ。いつの間に婚約した?

兄は、こともあろうに私(妹)相手に照れた。

「まあいろいろあって」

何がいろいろだ。いろいろで済むか。

「お前が大迷惑をこうむっている様子を聞いて、これはダメだと思って、直接隣国の父に報告して婚約を決めた」

そう言えば、私はすごく困っていた時、兄に相談を持ち掛けようとしたけど、兄は仕事だとか言って隣国に行っていて、いなかったことがあった。

「あの時ですか?」

「どの時かわからないけど、多分、その時だな」

それに兄はあの一家がハワード家の屋敷にやってきた時以来、忙しいからとか言って、一度も帰宅しなくなった。

「妹が困った時に不在……」

「だって、あのソンプ男爵夫人が、俺にあの太った二人の娘を勧めてくるんだ。どういう神経だろうと思ったよ。俺も父が再婚したのだと信じていたからね。確かに血はつながっていないのだけど、一応義妹だ。そんな婚約、変だろう。それにせっかく婚約が決まりそうだったのに、ソンプ夫人が変な手紙を侯爵家に出すものだから、婚約が一時暗礁に乗り上げたよ」

ローズマリー様の婚約に時間がかかったのって、あの人たちのせいか!

「ほんとうにごめんなさい。あなたばかりが被害に遭って。でも、私たちが名乗りを上げると余計に事態が悪くなりそうだったので、黙っているしかなかったのよ」

兄が横で深くうなずいていた。

「申し訳ないわ。だけど、おかげで傾向と対策ができて本当に助かったわ」

ローズマリー様が心を込めて感謝の言葉を述べた。

「あの人たち、あなたのおかげでドレスを買いまくって借金漬けになってくれたし、あなたの謙虚な姿勢のおかげで勝手に増長して学園での評判も散々だったし、その結果、最後は自滅して田舎に戻ったわ。あなたでなければ無理だった。本当に助けられました」















しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

処理中です...