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第63話 使用人たちがザマァを叫ぶ
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私は、そのあと書斎から出された。ヘイスティング侯爵と父は、その後も書斎でしばらく密談していた。対策を練っているのだろう。
私が書斎を出ると、ウチの使用人たちがやきもきしながら待ち構えていた。
「エレクトラ様!」
半泣きになりながら、侍女頭が飛んできた。
「王弟殿下のお屋敷に招かれてらしたのだとセバスに聞きました」
「私たちが至らぬばかりに、お嬢様にお辛い思いをさせてしまって!」
叫んだのはレイノルズ夫人だ。アンとステラの家庭教師じゃなかったかしら? つまり偽義母の自称ヘイスティング公爵夫人一家の味方じゃないの?
セバスが物陰から、ぬっとあらわれて説明した。
「ソンプ男爵夫人が、レイノルズ夫人の給料を滞納しまして」
「え?」
びっくりした。酷いわ。でも、偽義母にお金がないと言うのは本当だったのね。
「ハワード侯爵家の方で支払いいたしましたのです。旦那様もそれでよろしいと言うことでして」
得意そうに侍女たちがうなずいていた。
「これで名実ともにレイノルズ夫人は我々の陣営です」
セバスが宣言した。
陣営? いや、まあ、それは結構なのかもしれないけど。
「それで、私たちはお嬢様がグラント伯爵からの求婚を受けられ、伯爵夫人となられることを聞きまして大喜びしております」
私は顔を真っ赤にした。
「旦那様が帰ってこられて、事実もわかりましたし」
意味深にセバスが書斎のドアの方に視線を向けると、他の使用人たちは深くうなずいた。
「さすがは旦那様でございます。あの音、しかと聞きました」
何の話かと思ったら、怒った父がうっかりソンプ夫人に平手打ちをかました話だった。
「ご婦人にあれはないわ」
私は言ったが、使用人たちはブウブウ抗議した。
「お世話になっている家のお嬢様に、したい放題、厚かましいにも程があることばかりやっていました。あれくらいは、数のうちに入りませんよ」
「次はどうなることでしょうね。ソンプ一家に天誅が下ることを期待していますよ!」
洗濯女が言うと、他の使用人たちが期待値マックスでうなずいていた。
結構、みんな熱いな!
だが、それからどうなったのかは、はっきりとは知らない。
父は弁護士に丸投げし、ヘイスティング侯爵も同様に誰かに委任したらしい。
「もう、家族の中の話ではなくなってしまったのですよ。家族だと思うから勝手なことが言えるのです。旦那様たちは他人に入ってもらって、粛々と責任を取ってもらうおつもりのようです」
セバスが簡単に教えてくれた。
とにかく、義母のはずだった女性とその娘の三人はとても静かになった。
デイジーは退職してしまった。
「沈む船から逃げるネズミのようだ」と料理番は評したが、的を得ているかもしれない。レイノルズ夫人はお給料を払ってもらっていなかった。デイジーに支払うお金もなかっただろう。
ヘイスティング侯爵は、花嫁が来る前にこの問題を片付けなくてはと必死だったようだ。
気持ちはものすごくよくわかる。
もし、ヘイスティング家に居座られたら、たまったものではない。
マチルダ様がお嫁に来られても、あの三人がにこやかに迎え入れるとか、おとなしく言うことを聞くだなんて考えられない。いない方がずっと気分がいい。
そうかといって、私も父もソンプ男爵家一家の滞在はお断りだ。使用人全員も断固拒否である。
それでも置いておく場所がなかったので、彼女たちはしばらく私の屋敷内にいた。
ただ、別に愛想よく接する必要もなくなったので、みんながみんな、それはもう冷たかった。
早々と辞めたデイジーは正解だった。
結婚契約書の正当性についてはやはり問題視されたし、婚家先のソンプ男爵家はいなくなってくれてせいせいしたと言う態度だった。
そうなると、あの三人はこの家に居付くのかしら? 父の叔母なのは確かだし。
とても心配だったが、ある日三人は突然いなくなってしまった。ソンプ家の田舎にある別邸に移ったとのことだった。セバスが教えてくれた。
「家と畑だけはあるそうです」
厳格そうな顔に取り繕っているセバスの口角が、勝手にニンマリと上がっていた。
私が書斎を出ると、ウチの使用人たちがやきもきしながら待ち構えていた。
「エレクトラ様!」
半泣きになりながら、侍女頭が飛んできた。
「王弟殿下のお屋敷に招かれてらしたのだとセバスに聞きました」
「私たちが至らぬばかりに、お嬢様にお辛い思いをさせてしまって!」
叫んだのはレイノルズ夫人だ。アンとステラの家庭教師じゃなかったかしら? つまり偽義母の自称ヘイスティング公爵夫人一家の味方じゃないの?
セバスが物陰から、ぬっとあらわれて説明した。
「ソンプ男爵夫人が、レイノルズ夫人の給料を滞納しまして」
「え?」
びっくりした。酷いわ。でも、偽義母にお金がないと言うのは本当だったのね。
「ハワード侯爵家の方で支払いいたしましたのです。旦那様もそれでよろしいと言うことでして」
得意そうに侍女たちがうなずいていた。
「これで名実ともにレイノルズ夫人は我々の陣営です」
セバスが宣言した。
陣営? いや、まあ、それは結構なのかもしれないけど。
「それで、私たちはお嬢様がグラント伯爵からの求婚を受けられ、伯爵夫人となられることを聞きまして大喜びしております」
私は顔を真っ赤にした。
「旦那様が帰ってこられて、事実もわかりましたし」
意味深にセバスが書斎のドアの方に視線を向けると、他の使用人たちは深くうなずいた。
「さすがは旦那様でございます。あの音、しかと聞きました」
何の話かと思ったら、怒った父がうっかりソンプ夫人に平手打ちをかました話だった。
「ご婦人にあれはないわ」
私は言ったが、使用人たちはブウブウ抗議した。
「お世話になっている家のお嬢様に、したい放題、厚かましいにも程があることばかりやっていました。あれくらいは、数のうちに入りませんよ」
「次はどうなることでしょうね。ソンプ一家に天誅が下ることを期待していますよ!」
洗濯女が言うと、他の使用人たちが期待値マックスでうなずいていた。
結構、みんな熱いな!
だが、それからどうなったのかは、はっきりとは知らない。
父は弁護士に丸投げし、ヘイスティング侯爵も同様に誰かに委任したらしい。
「もう、家族の中の話ではなくなってしまったのですよ。家族だと思うから勝手なことが言えるのです。旦那様たちは他人に入ってもらって、粛々と責任を取ってもらうおつもりのようです」
セバスが簡単に教えてくれた。
とにかく、義母のはずだった女性とその娘の三人はとても静かになった。
デイジーは退職してしまった。
「沈む船から逃げるネズミのようだ」と料理番は評したが、的を得ているかもしれない。レイノルズ夫人はお給料を払ってもらっていなかった。デイジーに支払うお金もなかっただろう。
ヘイスティング侯爵は、花嫁が来る前にこの問題を片付けなくてはと必死だったようだ。
気持ちはものすごくよくわかる。
もし、ヘイスティング家に居座られたら、たまったものではない。
マチルダ様がお嫁に来られても、あの三人がにこやかに迎え入れるとか、おとなしく言うことを聞くだなんて考えられない。いない方がずっと気分がいい。
そうかといって、私も父もソンプ男爵家一家の滞在はお断りだ。使用人全員も断固拒否である。
それでも置いておく場所がなかったので、彼女たちはしばらく私の屋敷内にいた。
ただ、別に愛想よく接する必要もなくなったので、みんながみんな、それはもう冷たかった。
早々と辞めたデイジーは正解だった。
結婚契約書の正当性についてはやはり問題視されたし、婚家先のソンプ男爵家はいなくなってくれてせいせいしたと言う態度だった。
そうなると、あの三人はこの家に居付くのかしら? 父の叔母なのは確かだし。
とても心配だったが、ある日三人は突然いなくなってしまった。ソンプ家の田舎にある別邸に移ったとのことだった。セバスが教えてくれた。
「家と畑だけはあるそうです」
厳格そうな顔に取り繕っているセバスの口角が、勝手にニンマリと上がっていた。
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