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ゴールデンウィーク編後半
僕っ娘伊吹ちゃんとの戦い
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「お兄ちゃんと結婚したいってどういうことなの?」
「どういう事って、真弓ちゃんからいっぱい聞いてたお兄さんが僕の目の前にいるんだからさ、プロポーズしなくちゃダメでしょ」
「しなくちゃダメでしょって、しちゃダメでしょ。お兄ちゃんの事何も知らないのに、伊吹ちゃんはどうかしてるよ」
「でもさ、真弓ちゃんはいっつも僕とお話ししてくれる時にお兄さんの良いところばっかり教えてくれるんだもん。そんなのを毎日聞いてたら僕もお兄さんの事を好きになっちゃうでしょ。これは僕が悪いんじゃなくて、真弓ちゃんが悪いんだからね。ね、そんなわけだから、大人になったら僕と結婚してもらえますか?」
「いや、結婚とかしないよ。君は僕の事を真弓から聞いてるみたいだけど、僕は君の事を何も知らないしね。知ってるとしても気持ちに答えるつもりはないけどさ」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよ。そうか、お兄さんって呼ばれるのが嫌だったら、先輩って呼びますから」
「呼び方の問題じゃなくてさ、お互いに何も知らない同士なのに結婚とか早すぎるでしょ。ほら、僕だけじゃなくてみんなひいちゃってるよ」
「ええ、僕は周りの人の目を気にしないから大丈夫ですけど、先輩はそういうの気にするタイプですか?」
「僕も人の目は気にしないタイプではあるけど、そういう事ではないんだよね。でもさ、なんで真弓の話を聞いただけでそんな風に思い込めるの?」
「だって、真弓ちゃんがいっつも先輩の良いところを教えてくれるんですよ。僕は別に聞きたいって言ってないのに学校にいる時は休み時間の度に教えてくれるし、家にいる時でも一杯お兄さんの良いところと写真を送ってくれるんですよ」
「写真?」
「ああああ、ちょっと伊吹ちゃん。余計な事は言わなくていいからね。お兄ちゃんのどんなところが好きなのか教えてもらってもいいかな?」
「あ、写真の事は内緒だったんだね。でも、僕が一番好きな先輩の姿は、寝顔かな。なんだか守ってあげたくなるような可愛い寝顔なんですよね。最近じゃ、真弓ちゃんから送られてくる先輩の寝顔を見ないと朝が始まらないって思ってるんですよ」
「寝顔って、隠し撮りって事?」
「僕はわからないですけど、承諾を取ってないって事はそういう事なんじゃないですかね。でも、先輩の寝顔は可愛いから大丈夫ですよ」
「大丈夫って、それはどういうことなのかな?」
「どういう事って、そんなの送った記憶ないんだけどな。伊吹ちゃんの勘違いなんじゃないかな」
「ええ、そんな事ないよ。毎朝違う写真を送ってくれてるじゃない。今日だってさ、いつもと違う布団だったから驚いたよ」
「へえ、今日も隠し撮りをしてたんだ。真弓はそれを人に見せてるって事だよね?」
「もう、伊吹ちゃんは余計な事を言わないでよ。お兄ちゃんにバレちゃったじゃない。最悪だよ」
「最悪って、昌晃の寝顔なんて撮って何が楽しいのよ。それにさ、伊吹ちゃんもこんなのより良い人がいっぱいいるんだから真弓の言ってることを真に受けないでもう少し考えた方が良いと思うよ」
「そうかもしれないですけど、先輩はきっと私にとって理想の男性だと思うんです。真弓ちゃんは優しくて頼りになって素敵だって言ってるし、話を聞いてるだけでも素晴らしい人なんだなって思ってますもん。それに、こんな僕を受け入れてくれる男性は先輩しかいないと思うんですよね。ねえ、真弓ちゃんもそう思うよね?」
「伊吹ちゃんの事を好きな男子はクラスにもいると思うけど、どうしてそんなに自己評価が低いの?」
「どうしてって、僕はどんなに頑張っても何をしても今まで一番になったことが無いんだよ。学校でも友達と遊んだ時でも一番に慣れないなんてさ、価値なんて無いものだと思うんだよね。テストでもずっと満点の真弓ちゃんに並ぶにはテストで満点を取り続けなければいけないんだけど、そんなのって僕には無理だもん。運動だって別に得意じゃないし、歌だってダンスだって上手くないし、料理はちょっと自信あるけど一番って事でもないしさ。そんな僕の事を先輩は好きになってくれますか?」
僕は何度も断っていると思うのだけれど、この子にはそれが伝わっていないようだ。どうやったら僕が断っているという事が伝わるんだろうと思っていたけれど、今のままでは何も変わることは無いと思う。
陽香もクレアさんも伊吹ちゃんの迫力に若干押されているように見えるし、真弓に至っては自分が僕の事を隠し撮りしていたことを無かったことにしようと言い訳に終始していた。こんな時に沙緒莉姉さんがいれば何か頼りになるのではないかと思っていたけれど、今日は予定も無いから夕方過ぎまで起きてこないんだろうなとは思う。
「先輩って、何でも得意だって聞いてるんですけど、ゲームで勝負しませんか?」
「ゲームで勝負?」
「はい、僕が先輩に勝ったら僕とデートしてください。あ、二人っきりじゃなくて真弓ちゃんも一緒で良いですから。僕も真弓ちゃんも食べたいピザがあるんですけど、二人じゃ食べきれなくて」
「ピザくらいだったらいいけど、僕が勝ったらどうするの?」
「その時は、僕と二人っきりでどこかで遊びましょう」
「え、二人っきりで遊ぶって、そっちがデートって言うんじゃないの?」
「そうなんですか。僕はそういうのあんまりよくわかってないんで間違ってたかもしれないけど、先輩が僕とデートしたいって言うんだったらそれでもいいですよ」
「いや、僕は一言もデートしたいなんて言ってないよね?」
「言ってないですけど、先輩は僕の事嫌いなんですか?」
「いや、嫌いとか聞かれてもさ、全然君の事知らないし」
「あの、君じゃなくて伊吹って呼んでください。ダメですか?」
「ダメですかって言われてもダメじゃないけど、陽香はどう思う?」
「どう思うって、なんで私に聞くのよ。昌晃の事なんだから昌晃が決めればいいでしょ。私は伊吹ちゃんとデートしても良いと思うよ。だってさ、昌晃って学校でも女子と二人っきりで何かしているときあるでしょ。だから、そんなの気にする事でもないんじゃないかなって思うんだけどな」
「え、学校で女子と二人っきりって、そんなの真弓聞いてないんだけど。お兄ちゃん、どういうことなのかな?」
「どういう事って、普通にクラス代表と副代表の話し合いをしているだけだよ。別にそれだけだから」
「真弓の勘違いだったら申し訳ないと思うけど、それって毎週水曜日に話し合いをしているの?」
「え、なんで?」
「なんでって、いつもは制服にお兄ちゃんの匂いしかしないのに、毎週水曜日は陽香お姉ちゃんの匂いがしてるからさ」
「制服の匂いって何を言ってるの?」
「何をって、木曜の朝だけお兄ちゃんの匂いに交じって陽香お姉ちゃんの匂いがしているって言ってるんだよ。でも、陽香お姉ちゃんだけじゃないような気もするんだよね。ねえ、お兄ちゃんのクラスの代表って、女の子だったりするのかな?」
「僕のクラスの代表は女子だけど、それが何か関係あるのかい?」
「ううん、ただ聞いただけだよ。真弓はお兄ちゃんの事を信じているからね。伊吹ちゃんの事も信じているけどさ」
「じゃ、じゃあ、みんなでゲームでもしようか。何のゲームが良いかな。あんまり時間がかからないやつの方がいいよね。そうだ、僕が洗い物をしておくからその間に三人でやりたいゲームでも決めておいてね」
僕はテーブルの上に残っていた食器をまとめてキッチンに持っていった。僕の寝顔が盗撮されていたのは驚いたけれど、それ以上に真弓が僕の制服の匂いを嗅いでいたというのも驚きだった。
陽香が僕の制服に匂いを付けていてくれなかったらどうなっていたんだろうと考えてみたけれど、僕はやましい事なんてしていない。そう言い切れないのが辛いところではあるけれど、寝顔を盗撮したり制服の匂いを嗅いでいる真弓に怒られる筋合いなんて無いように思えた。
洗い物をさっさと終わらせて向こうに戻った方が良いのかもしれないけど、今すぐに戻るのも何か居心地が良くないのだ。だからと言っていつまでもキッチンにこもっているわけにもいかないし、なんでこんなことになってしまったんだろう。とにかく、どんなゲームだとしても全部引き分けに持ち込んでしまえばいいだけの話だ。
「やるゲームは決まったかな?」
「うん、お兄ちゃんの運命を決めるゲームはスマブラだよ。お兄ちゃんは結構強いしいいんじゃないかな?」
「僕は別にかまわないけど、ルールとかどうする?」
「そうだね。真弓が勝ったらお兄ちゃんと真弓がデートで、伊吹ちゃんが勝ったらお兄ちゃんと真弓と伊吹ちゃんでデートね。お兄ちゃんが勝ったら特になしでいいよ。それ以外は、お兄ちゃんと伊吹ちゃんがデートね」
「それ以外って、引き分け持って事?」
「そうだよ。お兄ちゃんは上手だから引き分けに持ち込むんじゃないかなって思ってさ。本当は真弓とデートでも良かったんだけど、今日だけは伊吹ちゃんに譲ってあげてもいいかなって思ってね。でも、真弓は負けたりしないからね」
「僕も先輩とデートするために頑張りますよ。でも、このゲームやったことないんですよ。だから、手加減してくださいね」
「ちょっと伊吹ちゃん。そんな風に手を握って見つめて色仕掛けするなんてずるいよ。お兄ちゃんが嬉しそうにしてるじゃない」
「そんな事はないよ。だって、僕は本当にこのゲームをやったことが無いもん。また一位に慣れないことが増えちゃったな」
「ま、まあ、そんな事は気にしないで楽しくゲームをしようよ。僕はいつも通り勇者を使おうかな」
「じゃあ、真弓はカービィね」
「僕はポケモンをやってるからピカチューにしようかな」
「それなら、私はドンキーコングにするね」
「え、クレアさんもやるの?」
「うん、陽香ちゃんがやるよりも私がやった方が良いって言われたからね。私は誰が勝っても得しないんだけど、楽しませてもらうね」
クレアさんが参戦したことは意外だったのだけれど、僕はそんな事を気にしてはいないのだ。真弓はまだ知らないと思うのだが、僕はこのゲームを相当やりこんでいる。オンライン対戦でも勝ち星の方がだいぶ先行しているくらいのレベルではある。いつもみんなでやる時は使わないが、僕が本気で対戦をする時は勇者を使うと決めているのだ。
いざ対戦が始まると、クレアさんと伊吹ちゃんがさっそくリングアウトしてしまったのだが、真弓はそんな事を気にせずに僕に向かってきていた。僕は上手いことそれをかわしつつ出てきたアイテムを使って真弓を追い込んでいた。そこに伊吹ちゃんも突っ込んでいったのだけれど、真弓はそれを冷静にかわすと伊吹ちゃんのピカチューはそのまま二回目の落下を終えていた。
クレアさんの出方も気になるので一応警戒はしていたのだけれど、みんなから離れてウロウロしているだけで何かをしようという意思は感じられなかった。
僕と真弓の戦いに時々クレアさんも参加してきてはいたのだけれど、いつの間にか離れていて逃げ回っていた伊吹ちゃんをあっさりと敗退させていた。クレアさんはそこそこうまいのではないかと思ってしまったのだが、目の前にいる真弓に集中しなくては僕も負けてしまう。
僕の攻撃を耐えている真弓に集中していたのだけれど、わずかなスキをついて僕はクレアさんの攻撃に沈んでしまった。でも、まだ一機減っただけなので問題はない。このままだと真弓に負けてしまうので何とかしなくてはいけないと思っていると、クレアさんはそのまま真弓も落としていたのだ。
この展開は願っても無い展開で、残り時間を考えても僕が勝ち残る可能性は高くなっているように思えた。
だが、そこから先はクレアさんの一人舞台となっていた。
何をやっても僕は後手に回ってしまっていたし、それは真弓も一緒だった。最後は引き分け狙いでメガンテを発動させたのだが、クレアさんはそれをサラリを回避して真弓を巻き込んで終了したのだった。
僕と伊吹ちゃんのデート決定したのだが、当事者の伊吹ちゃんは何が何だかわからずに戸惑っているし、真弓はなんだか放心状態になっていた。
陽香とクレアさんは嬉しそうにニヤニヤしていたのだが、僕の再戦要求をクレアさんは飲むことなく帰ると言い出した。
「じゃあ、機会があったらまたスマブラで遊ぼうね。他のゲームでもいいけど、きっと負けないと思うよ。じゃあ、昌晃君と伊吹ちゃんはデート楽しんでね。どんなことをしたか教えてよ」
「どういう事って、真弓ちゃんからいっぱい聞いてたお兄さんが僕の目の前にいるんだからさ、プロポーズしなくちゃダメでしょ」
「しなくちゃダメでしょって、しちゃダメでしょ。お兄ちゃんの事何も知らないのに、伊吹ちゃんはどうかしてるよ」
「でもさ、真弓ちゃんはいっつも僕とお話ししてくれる時にお兄さんの良いところばっかり教えてくれるんだもん。そんなのを毎日聞いてたら僕もお兄さんの事を好きになっちゃうでしょ。これは僕が悪いんじゃなくて、真弓ちゃんが悪いんだからね。ね、そんなわけだから、大人になったら僕と結婚してもらえますか?」
「いや、結婚とかしないよ。君は僕の事を真弓から聞いてるみたいだけど、僕は君の事を何も知らないしね。知ってるとしても気持ちに答えるつもりはないけどさ」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよ。そうか、お兄さんって呼ばれるのが嫌だったら、先輩って呼びますから」
「呼び方の問題じゃなくてさ、お互いに何も知らない同士なのに結婚とか早すぎるでしょ。ほら、僕だけじゃなくてみんなひいちゃってるよ」
「ええ、僕は周りの人の目を気にしないから大丈夫ですけど、先輩はそういうの気にするタイプですか?」
「僕も人の目は気にしないタイプではあるけど、そういう事ではないんだよね。でもさ、なんで真弓の話を聞いただけでそんな風に思い込めるの?」
「だって、真弓ちゃんがいっつも先輩の良いところを教えてくれるんですよ。僕は別に聞きたいって言ってないのに学校にいる時は休み時間の度に教えてくれるし、家にいる時でも一杯お兄さんの良いところと写真を送ってくれるんですよ」
「写真?」
「ああああ、ちょっと伊吹ちゃん。余計な事は言わなくていいからね。お兄ちゃんのどんなところが好きなのか教えてもらってもいいかな?」
「あ、写真の事は内緒だったんだね。でも、僕が一番好きな先輩の姿は、寝顔かな。なんだか守ってあげたくなるような可愛い寝顔なんですよね。最近じゃ、真弓ちゃんから送られてくる先輩の寝顔を見ないと朝が始まらないって思ってるんですよ」
「寝顔って、隠し撮りって事?」
「僕はわからないですけど、承諾を取ってないって事はそういう事なんじゃないですかね。でも、先輩の寝顔は可愛いから大丈夫ですよ」
「大丈夫って、それはどういうことなのかな?」
「どういう事って、そんなの送った記憶ないんだけどな。伊吹ちゃんの勘違いなんじゃないかな」
「ええ、そんな事ないよ。毎朝違う写真を送ってくれてるじゃない。今日だってさ、いつもと違う布団だったから驚いたよ」
「へえ、今日も隠し撮りをしてたんだ。真弓はそれを人に見せてるって事だよね?」
「もう、伊吹ちゃんは余計な事を言わないでよ。お兄ちゃんにバレちゃったじゃない。最悪だよ」
「最悪って、昌晃の寝顔なんて撮って何が楽しいのよ。それにさ、伊吹ちゃんもこんなのより良い人がいっぱいいるんだから真弓の言ってることを真に受けないでもう少し考えた方が良いと思うよ」
「そうかもしれないですけど、先輩はきっと私にとって理想の男性だと思うんです。真弓ちゃんは優しくて頼りになって素敵だって言ってるし、話を聞いてるだけでも素晴らしい人なんだなって思ってますもん。それに、こんな僕を受け入れてくれる男性は先輩しかいないと思うんですよね。ねえ、真弓ちゃんもそう思うよね?」
「伊吹ちゃんの事を好きな男子はクラスにもいると思うけど、どうしてそんなに自己評価が低いの?」
「どうしてって、僕はどんなに頑張っても何をしても今まで一番になったことが無いんだよ。学校でも友達と遊んだ時でも一番に慣れないなんてさ、価値なんて無いものだと思うんだよね。テストでもずっと満点の真弓ちゃんに並ぶにはテストで満点を取り続けなければいけないんだけど、そんなのって僕には無理だもん。運動だって別に得意じゃないし、歌だってダンスだって上手くないし、料理はちょっと自信あるけど一番って事でもないしさ。そんな僕の事を先輩は好きになってくれますか?」
僕は何度も断っていると思うのだけれど、この子にはそれが伝わっていないようだ。どうやったら僕が断っているという事が伝わるんだろうと思っていたけれど、今のままでは何も変わることは無いと思う。
陽香もクレアさんも伊吹ちゃんの迫力に若干押されているように見えるし、真弓に至っては自分が僕の事を隠し撮りしていたことを無かったことにしようと言い訳に終始していた。こんな時に沙緒莉姉さんがいれば何か頼りになるのではないかと思っていたけれど、今日は予定も無いから夕方過ぎまで起きてこないんだろうなとは思う。
「先輩って、何でも得意だって聞いてるんですけど、ゲームで勝負しませんか?」
「ゲームで勝負?」
「はい、僕が先輩に勝ったら僕とデートしてください。あ、二人っきりじゃなくて真弓ちゃんも一緒で良いですから。僕も真弓ちゃんも食べたいピザがあるんですけど、二人じゃ食べきれなくて」
「ピザくらいだったらいいけど、僕が勝ったらどうするの?」
「その時は、僕と二人っきりでどこかで遊びましょう」
「え、二人っきりで遊ぶって、そっちがデートって言うんじゃないの?」
「そうなんですか。僕はそういうのあんまりよくわかってないんで間違ってたかもしれないけど、先輩が僕とデートしたいって言うんだったらそれでもいいですよ」
「いや、僕は一言もデートしたいなんて言ってないよね?」
「言ってないですけど、先輩は僕の事嫌いなんですか?」
「いや、嫌いとか聞かれてもさ、全然君の事知らないし」
「あの、君じゃなくて伊吹って呼んでください。ダメですか?」
「ダメですかって言われてもダメじゃないけど、陽香はどう思う?」
「どう思うって、なんで私に聞くのよ。昌晃の事なんだから昌晃が決めればいいでしょ。私は伊吹ちゃんとデートしても良いと思うよ。だってさ、昌晃って学校でも女子と二人っきりで何かしているときあるでしょ。だから、そんなの気にする事でもないんじゃないかなって思うんだけどな」
「え、学校で女子と二人っきりって、そんなの真弓聞いてないんだけど。お兄ちゃん、どういうことなのかな?」
「どういう事って、普通にクラス代表と副代表の話し合いをしているだけだよ。別にそれだけだから」
「真弓の勘違いだったら申し訳ないと思うけど、それって毎週水曜日に話し合いをしているの?」
「え、なんで?」
「なんでって、いつもは制服にお兄ちゃんの匂いしかしないのに、毎週水曜日は陽香お姉ちゃんの匂いがしてるからさ」
「制服の匂いって何を言ってるの?」
「何をって、木曜の朝だけお兄ちゃんの匂いに交じって陽香お姉ちゃんの匂いがしているって言ってるんだよ。でも、陽香お姉ちゃんだけじゃないような気もするんだよね。ねえ、お兄ちゃんのクラスの代表って、女の子だったりするのかな?」
「僕のクラスの代表は女子だけど、それが何か関係あるのかい?」
「ううん、ただ聞いただけだよ。真弓はお兄ちゃんの事を信じているからね。伊吹ちゃんの事も信じているけどさ」
「じゃ、じゃあ、みんなでゲームでもしようか。何のゲームが良いかな。あんまり時間がかからないやつの方がいいよね。そうだ、僕が洗い物をしておくからその間に三人でやりたいゲームでも決めておいてね」
僕はテーブルの上に残っていた食器をまとめてキッチンに持っていった。僕の寝顔が盗撮されていたのは驚いたけれど、それ以上に真弓が僕の制服の匂いを嗅いでいたというのも驚きだった。
陽香が僕の制服に匂いを付けていてくれなかったらどうなっていたんだろうと考えてみたけれど、僕はやましい事なんてしていない。そう言い切れないのが辛いところではあるけれど、寝顔を盗撮したり制服の匂いを嗅いでいる真弓に怒られる筋合いなんて無いように思えた。
洗い物をさっさと終わらせて向こうに戻った方が良いのかもしれないけど、今すぐに戻るのも何か居心地が良くないのだ。だからと言っていつまでもキッチンにこもっているわけにもいかないし、なんでこんなことになってしまったんだろう。とにかく、どんなゲームだとしても全部引き分けに持ち込んでしまえばいいだけの話だ。
「やるゲームは決まったかな?」
「うん、お兄ちゃんの運命を決めるゲームはスマブラだよ。お兄ちゃんは結構強いしいいんじゃないかな?」
「僕は別にかまわないけど、ルールとかどうする?」
「そうだね。真弓が勝ったらお兄ちゃんと真弓がデートで、伊吹ちゃんが勝ったらお兄ちゃんと真弓と伊吹ちゃんでデートね。お兄ちゃんが勝ったら特になしでいいよ。それ以外は、お兄ちゃんと伊吹ちゃんがデートね」
「それ以外って、引き分け持って事?」
「そうだよ。お兄ちゃんは上手だから引き分けに持ち込むんじゃないかなって思ってさ。本当は真弓とデートでも良かったんだけど、今日だけは伊吹ちゃんに譲ってあげてもいいかなって思ってね。でも、真弓は負けたりしないからね」
「僕も先輩とデートするために頑張りますよ。でも、このゲームやったことないんですよ。だから、手加減してくださいね」
「ちょっと伊吹ちゃん。そんな風に手を握って見つめて色仕掛けするなんてずるいよ。お兄ちゃんが嬉しそうにしてるじゃない」
「そんな事はないよ。だって、僕は本当にこのゲームをやったことが無いもん。また一位に慣れないことが増えちゃったな」
「ま、まあ、そんな事は気にしないで楽しくゲームをしようよ。僕はいつも通り勇者を使おうかな」
「じゃあ、真弓はカービィね」
「僕はポケモンをやってるからピカチューにしようかな」
「それなら、私はドンキーコングにするね」
「え、クレアさんもやるの?」
「うん、陽香ちゃんがやるよりも私がやった方が良いって言われたからね。私は誰が勝っても得しないんだけど、楽しませてもらうね」
クレアさんが参戦したことは意外だったのだけれど、僕はそんな事を気にしてはいないのだ。真弓はまだ知らないと思うのだが、僕はこのゲームを相当やりこんでいる。オンライン対戦でも勝ち星の方がだいぶ先行しているくらいのレベルではある。いつもみんなでやる時は使わないが、僕が本気で対戦をする時は勇者を使うと決めているのだ。
いざ対戦が始まると、クレアさんと伊吹ちゃんがさっそくリングアウトしてしまったのだが、真弓はそんな事を気にせずに僕に向かってきていた。僕は上手いことそれをかわしつつ出てきたアイテムを使って真弓を追い込んでいた。そこに伊吹ちゃんも突っ込んでいったのだけれど、真弓はそれを冷静にかわすと伊吹ちゃんのピカチューはそのまま二回目の落下を終えていた。
クレアさんの出方も気になるので一応警戒はしていたのだけれど、みんなから離れてウロウロしているだけで何かをしようという意思は感じられなかった。
僕と真弓の戦いに時々クレアさんも参加してきてはいたのだけれど、いつの間にか離れていて逃げ回っていた伊吹ちゃんをあっさりと敗退させていた。クレアさんはそこそこうまいのではないかと思ってしまったのだが、目の前にいる真弓に集中しなくては僕も負けてしまう。
僕の攻撃を耐えている真弓に集中していたのだけれど、わずかなスキをついて僕はクレアさんの攻撃に沈んでしまった。でも、まだ一機減っただけなので問題はない。このままだと真弓に負けてしまうので何とかしなくてはいけないと思っていると、クレアさんはそのまま真弓も落としていたのだ。
この展開は願っても無い展開で、残り時間を考えても僕が勝ち残る可能性は高くなっているように思えた。
だが、そこから先はクレアさんの一人舞台となっていた。
何をやっても僕は後手に回ってしまっていたし、それは真弓も一緒だった。最後は引き分け狙いでメガンテを発動させたのだが、クレアさんはそれをサラリを回避して真弓を巻き込んで終了したのだった。
僕と伊吹ちゃんのデート決定したのだが、当事者の伊吹ちゃんは何が何だかわからずに戸惑っているし、真弓はなんだか放心状態になっていた。
陽香とクレアさんは嬉しそうにニヤニヤしていたのだが、僕の再戦要求をクレアさんは飲むことなく帰ると言い出した。
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