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第43話 不用意な言葉
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イザーの左腕が無くなっていることに気付いていないわけはないのだが、みんなが指摘するのはイザーが学校指定の体操服を着ているという事だけなのだ。
もしかしたら、イザーが左腕を失っている事についてあえて触れていないのかもしれないが、それにしても誰も何も言わないのはおかしな話だ。視線すら左腕に向いていないのも何か理由があるのかもしれない。工藤珠希がそう感じてしまうくらいにクラスメイト達は皆いつもと変わらない様子でイザーに接していたのだ。
「明日からの野生のサキュバスとの戦いは案外早く決着がついちゃうかもね。今年最初の外部勢力との戦争って事もあるけど、冬場にため込んだ兵器の数々が日の目を見る日がついにやってきたって事だもんね。約半年もかけた成果が試される時がついにやってきたんだよ」
「兵器だけじゃなくて、対人戦闘に特化して訓練してきた私たちの技もやっと実践で試すことが出来るんだからね。今年からの取り決め通りで、うちもらしたやつを追撃するのは禁止だからね。一発で仕留められなかったのは失敗じゃなくて私たちに任せるためだって思っていいから。なんだったら、一体も倒さないで全部私たちに任せてくれてもいいんだよ」
「そうは言っても、俺たちが仕掛けた罠もあるんだから生き延びたやつがそこまでたどり着けるかもわからんけどな。今回は今までと違って古典的な罠ばかりだから簡単に見破られるかもしれないけど、そんな罠の方が引っかかるんじゃないかって話もあるくらいだ。銃弾を抜けてきたやつらもそんな古典的な罠があるなんて思ってないから効果的って事なんだよ」
「一年生サキュバスの子たちには先日のレジスタンス戦とは違う戦いをするように指導しているからね。野生のサキュバス連中はレジスタンスの子と違って統率なんて言葉を知らないんじゃないかってくらい好き勝手に暴れてるだけだからね。私たちが言うのもおかしな話だけど、そうやって好き勝手に暴れるような奴にはきっちりとした決まり事を持って戦った方が勝てるってのを教えてやるいい機会かもね。規律を持った死を恐れない軍団がどれほど恐ろしいか会長たちも知っていると思うけど、今年もそれを指導する季節になったって事だね」
「出来ることなら俺も秘伝を使いたいところなんだけど、秘伝だから人前で使うことが禁じられているんだよな。相手が一人だけで誰も目撃者がいないところじゃないと使えないんだけど、監視カメラだらけのこの学校じゃそれは不可能なんだよな。かと言って、俺の家でやっちゃうと生き返らせるのも面倒なことになっちゃうし、ただの殺人犯になってしまう恐れもあるんだよな。こんな事なら秘伝なんて教わりたくなかったよ」
野生のサキュバスとの戦争に向けて各自の戦意が高揚しているのと対照的にイザーの表情が段々と暗くなっているのは左腕を失った事だけが原因ではない。
みんなが楽しみにしている野生のサキュバスとの戦争がもうすでに終戦してしまっているという事実を伝えなくてはいけないのだが、普段はそんな事を気にもかけないイザーにとってもみんなの努力を無駄にしてしまったという事に対して申し訳なさと後悔と言う思いがあったりするのだ。
このまま明日になればすぐにバレてしまうのだから今すぐにでも言った方がいいとは思うのだけど、みんなが楽しそうに明日の事を話しているのを見ているととてもではないが言い出せる雰囲気ではない。たぶん、みんなはイザーがやってしまった事を責めたりなんてしないと思うのだが、半年分の努力を無駄にしてしまった事に対する責任をどうとればいいのかわからないのだ。
「みんな張り切って準備してきたんだな。そこまで頑張ってきたのにソレを俺が観測出来ないというのはちょっと悲しいことだな」
それまで楽しそうに話をしていたみんなではあったが、野城君の言葉に全員が動きを止めたのだ。とても小さな声で独り言のように言っていたはずの声だったと思うのだが、クラス中の生徒がその手を止めて黙って野城君を見ていた。その様子を見た工藤珠希は一瞬で何かとんでもないことになってしまったという事を感じ取っていた。
「ごめん、はっきり聞こえなかったんだけど、観測出来ないって言わなかったかな?」
「うん、そう言ったよ」
「それって、どういう意味なのかな?」
「どういう意味って、明日は野生のサキュバスが責めてこないって事だけど?」
戦闘に参加することのない観測者で傍観者の野城君が観測出来ないと言った言葉には工藤珠希が考えているよりもずっと重い意味が込められている。栗宮院うまなも栗鳥院柘榴も鈴木愛華もみんなその言葉を聞いて取り乱してしまっていた。
普段冷静な人達が自我を失う程に取り乱している姿を見るのは心に来るものがあるのだが、それを目の当たりにしたイザーの顔色は完全に血の気も引いていて向こう側が透けて見えてしまうのではないかと思うくらいに真っ白になっていた。
「あ、ごめん。俺からじゃなくてイザーちゃんから言うべきだったね。気が利かなくてごめんよ」
野城君に向いていた全員の視線が一瞬でイザーに向いたのだが、その視線を避けるようにイザーは物凄い速さで教室を出ていってしまった。
その様子を全員で黙って見送っていたのだが、野城君の言葉の意味を理解した栗宮院うまなは下を向いて涙を流していた。それにつられるように他の人も何人か泣いていたのだが、誰もイザーを責める事は無かったのだった。
もしかしたら、イザーが左腕を失っている事についてあえて触れていないのかもしれないが、それにしても誰も何も言わないのはおかしな話だ。視線すら左腕に向いていないのも何か理由があるのかもしれない。工藤珠希がそう感じてしまうくらいにクラスメイト達は皆いつもと変わらない様子でイザーに接していたのだ。
「明日からの野生のサキュバスとの戦いは案外早く決着がついちゃうかもね。今年最初の外部勢力との戦争って事もあるけど、冬場にため込んだ兵器の数々が日の目を見る日がついにやってきたって事だもんね。約半年もかけた成果が試される時がついにやってきたんだよ」
「兵器だけじゃなくて、対人戦闘に特化して訓練してきた私たちの技もやっと実践で試すことが出来るんだからね。今年からの取り決め通りで、うちもらしたやつを追撃するのは禁止だからね。一発で仕留められなかったのは失敗じゃなくて私たちに任せるためだって思っていいから。なんだったら、一体も倒さないで全部私たちに任せてくれてもいいんだよ」
「そうは言っても、俺たちが仕掛けた罠もあるんだから生き延びたやつがそこまでたどり着けるかもわからんけどな。今回は今までと違って古典的な罠ばかりだから簡単に見破られるかもしれないけど、そんな罠の方が引っかかるんじゃないかって話もあるくらいだ。銃弾を抜けてきたやつらもそんな古典的な罠があるなんて思ってないから効果的って事なんだよ」
「一年生サキュバスの子たちには先日のレジスタンス戦とは違う戦いをするように指導しているからね。野生のサキュバス連中はレジスタンスの子と違って統率なんて言葉を知らないんじゃないかってくらい好き勝手に暴れてるだけだからね。私たちが言うのもおかしな話だけど、そうやって好き勝手に暴れるような奴にはきっちりとした決まり事を持って戦った方が勝てるってのを教えてやるいい機会かもね。規律を持った死を恐れない軍団がどれほど恐ろしいか会長たちも知っていると思うけど、今年もそれを指導する季節になったって事だね」
「出来ることなら俺も秘伝を使いたいところなんだけど、秘伝だから人前で使うことが禁じられているんだよな。相手が一人だけで誰も目撃者がいないところじゃないと使えないんだけど、監視カメラだらけのこの学校じゃそれは不可能なんだよな。かと言って、俺の家でやっちゃうと生き返らせるのも面倒なことになっちゃうし、ただの殺人犯になってしまう恐れもあるんだよな。こんな事なら秘伝なんて教わりたくなかったよ」
野生のサキュバスとの戦争に向けて各自の戦意が高揚しているのと対照的にイザーの表情が段々と暗くなっているのは左腕を失った事だけが原因ではない。
みんなが楽しみにしている野生のサキュバスとの戦争がもうすでに終戦してしまっているという事実を伝えなくてはいけないのだが、普段はそんな事を気にもかけないイザーにとってもみんなの努力を無駄にしてしまったという事に対して申し訳なさと後悔と言う思いがあったりするのだ。
このまま明日になればすぐにバレてしまうのだから今すぐにでも言った方がいいとは思うのだけど、みんなが楽しそうに明日の事を話しているのを見ているととてもではないが言い出せる雰囲気ではない。たぶん、みんなはイザーがやってしまった事を責めたりなんてしないと思うのだが、半年分の努力を無駄にしてしまった事に対する責任をどうとればいいのかわからないのだ。
「みんな張り切って準備してきたんだな。そこまで頑張ってきたのにソレを俺が観測出来ないというのはちょっと悲しいことだな」
それまで楽しそうに話をしていたみんなではあったが、野城君の言葉に全員が動きを止めたのだ。とても小さな声で独り言のように言っていたはずの声だったと思うのだが、クラス中の生徒がその手を止めて黙って野城君を見ていた。その様子を見た工藤珠希は一瞬で何かとんでもないことになってしまったという事を感じ取っていた。
「ごめん、はっきり聞こえなかったんだけど、観測出来ないって言わなかったかな?」
「うん、そう言ったよ」
「それって、どういう意味なのかな?」
「どういう意味って、明日は野生のサキュバスが責めてこないって事だけど?」
戦闘に参加することのない観測者で傍観者の野城君が観測出来ないと言った言葉には工藤珠希が考えているよりもずっと重い意味が込められている。栗宮院うまなも栗鳥院柘榴も鈴木愛華もみんなその言葉を聞いて取り乱してしまっていた。
普段冷静な人達が自我を失う程に取り乱している姿を見るのは心に来るものがあるのだが、それを目の当たりにしたイザーの顔色は完全に血の気も引いていて向こう側が透けて見えてしまうのではないかと思うくらいに真っ白になっていた。
「あ、ごめん。俺からじゃなくてイザーちゃんから言うべきだったね。気が利かなくてごめんよ」
野城君に向いていた全員の視線が一瞬でイザーに向いたのだが、その視線を避けるようにイザーは物凄い速さで教室を出ていってしまった。
その様子を全員で黙って見送っていたのだが、野城君の言葉の意味を理解した栗宮院うまなは下を向いて涙を流していた。それにつられるように他の人も何人か泣いていたのだが、誰もイザーを責める事は無かったのだった。
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