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〜第四章 変わりゆく時代〜
79話✡︎夢の街✡︎
しおりを挟む翌朝、いつもの様にユリナとトールは剣を振っていた……ユリナはトールの時だけ師弟関係の様に真剣に教わっている。
その姿を見てエレナはユリナに弓を教えてた時の事を思い出していた。
カナは朝食の支度をしている、野営地にしては調理器具を揃えているので作るには困らない。
アヤとピリアが手伝いにくる、無論ここにはバータリスの王宮から調理する為に二十人程のオークの女性が来ている。
ここだけは女性の領土である……オークの女性達もカナの料理の力の入りようは昨日とは全く違うのを理解していた、ただ料理に力を入れている訳ではなく、しっかりと朝に相応しい料理を作っている。
そしてその日の会談も無事に進み、ベルリス温泉はクリタス、アグド、セレスで共同で都市開発を進める事になった。
資金的におぼつかない面もあるアグドは国の再建中であるし、クリタスのゴブリン達もそこまで資金に余裕がある訳では無い、そこをセレスが出資する形を取る。
セレスは経済的に恵まれ過ぎている。
南部には海があり、漁業も盛んであり、乾物なども作り、海の宝石などもサランを経由してパルセスと交易もしている。
豊かな経済を誇るセレスにはフェルミンの様に移り住むドワーフも多い、開発と物作りによって最高の経済力を誇るのはパルセスかも知れないが、セレスはエルフらしく自然と共に作り上げた経済力も負けては居ない。
そしてその夜に、エレナ達がいつものように焚き火を囲んでいる。
「やっぱりここに居たか、エレナ達は外が好きだな」
ベルガルがトルミアとトール、オプスとゴブリンの護衛数名を連れお酒とつまみを持って来る。
トールがトルミアに話した様で、その時にベルガルがトルミアの天幕に来てその話を聞いた様らしく一緒に来たのだ。
「エルフだからかな?解りませんけど外が好きなんです。
風を聞きながら星を見上げて焚き火にあたってると、自然の中にいると思えて落ち着くんですよ」
エレナがそう答える間に四人は焚き火を囲む輪に加わり盃を回して配る。
「エレナさん、クリタス平原のことですが見込みはあるのですか?」
トルミアがエレナに聞いて来た。
ゴブリンの護衛達も耳を傾ける、エレナはフェルミンの話をして、その祖父今は亡きパルセス国王フェルトンの話をした。
ゴブリン達もベルガルもエレナの人脈に驚いた……
「ただ本当にお金がかかると思うの、相手はドワーフ、ふっかけてくるかも知れない。
払える額なら私が何とかしたいんだけど……
値切る材料が欲しいのよ」
「値切る⁈」
ベルガルが驚くドワーフは物作りと商売に誇りを持っている。
簡単には値切れない、ましてや国土の話だ……値切れるどころか交渉に持ち込む事すら難しい……
エレナが財政状況を聞く様にと言ったのは、実はどうでも良かった。
そんな資金的な話はセレスからすればどうでもいい……
ただエレナは頭からふっかけられると解る交渉に手ぶらで臨む気は無かった。
そしてその話をすればトルミアとベルガルが一緒に来る可能性が高いと判断したからだ。
エレナは話し出す。
「ここ、ベルリス温泉の開発なんだけど、基本パルセスに依頼すればいいと思う。
私達が考えてるベルリス温泉の姿は、観光や商売、そしてアグドの流通を担い交易の中心地も担う大都市にする計画……
その開発費用は膨大になる事は目に見えている……
この開発をパルセスに依頼すれば、その費用がパルセスに流れ込む。
商売が好きなドワーフ達からすれば飛びつきたくなる話でしょ?
そしてその開発を依頼する条件として、クリタス平原をクリタスに返還する事を要求するの、多分これじゃまだ釣り合わない。
でも話を持ち込むキッカケになる……
そこで商売に加わる権利と交易に加わる権利、後ベルリス温泉を運営に加わる権利を三つに分けて選んでもらう。
多分全部欲しがる……」
エレナは先を読み続ける、何手先までも……ユリナは初めて気づいた。
エレナは相手を深く知っている、それによって読まれて行くその未来、何か大切な事をしようとした時には。
相手を知る事、それに対して自分は何が出来るかが何よりも大切な事を学ばされる。
「たぶん、そこでこちらがセレスに依頼すると言うことを話せば、パルセスは引き止めると思う……
だけど今のままじゃその先が無くて……押し切れる気がしないのよね……」
エレナが巻物の地図を広げながら悩んでいる……パルセスがなぜクリタス平原を開発しないかが解らないからだ……
「トール、悪いけどクリタス平原の様子を調べて来てくれないかな?
もしパルセスの兵に見つかっても、古代のレジェンドがうろついているなんて思われないだろうし、クリタス平原の事ならある程度解るでしょ?
ユリナは私が責任持って守るから、オプス様も出来ればトールと一緒に行ってくれると嬉しいかな……
クリタス平原に何があるか解らないから……」
エレナがそれをトールに振った、トールは真剣な顔で頷きオプスも頷いた。
エレナはオプスに聞きたいことがあった……
なぜ闇の女神であるオプスがアルベルトに近い感じがするのか知りたかったのだ。
その為にすぐに天界へ帰っては欲しく無く、あえて頼んだのだ。
当然オプスはエレナの意図を読んでいたが、それを心の中で微笑んでいた。
エレナはアルベルト光神ルーメンの妻、つまりオプスの妹にあたるからだ。
エレナもまだ気付いていない、神の一族に加わっている事に……
そして最後にアグド国王に確認する
「ベルガル様、その方向でお話を考えて見ていいでしょうか?
パルセスに依頼する以上、多額の資金が必要になりますが、それはセレスが持ちます。
それにドワーフ達に依頼すれば、最高の街が出来ることは間違いありません。
アグド国は再来年になれば、豊かな実りが期待出来るかと予想出来ますので、食料支援を減らし資金的な支援に切り替えつつ調整すれば、どうにでもなると私は思います。」
「こちらとしては異論無いが、それではセレスにアグドとして見合う物を返せない……」
エレナは優しい笑顔で答える。
「ベルガル様考えて見て下さい、このお話は成功すれば数多くの国々に富をもたらします。」
「数多くの国とは?」
エレナはその行いを成すことで予想出来る、副産物を、まるで夢を語る様に話し出した。
「世界各地には闇の眷属ゴブリン達が散らばり、十万年に及ぶ迫害を受け誇りを失い各地で被害をもたらしています。
クリタスが再興し、クリタス平原が返還されれば、世界各地に散らばる彼らを呼び戻すことが出来ます。
その時点でクリタスが憎しみを集めることは目に見えて居ます。
ですが、そこはアグドの力で守ることが出来るでしょう……我々セレスが手を貸しても構いません。
つまり、各国で起きるゴブリン達による被害が無くなれば、どれだけの富が齎されるか解りません……」
オプスは静かに微笑みがなら聞いている。
「そして各種族が交流を共に出来る、このベルリス温泉の地が無事に完成すれば、ゴブリン達への憎しみも長い時の中で薄れて行くでしょう……
この地は、この世界で初めての国と国を繋ぐ都市になるのです。
そこには流通を得意とする風の種族バディ族も集まるでしょう……」
そしてエレナの感情が溢れ出す……
「ヒューマンもエルフも、オークもバディもドワーフも……そしてゴブリン達もダークエルフも集まるかも知れません……
巨人族が作り上げたユニオンレグヌスを私達が作り出す……その一歩になる都市に成長するかも知れない……
夢の街なんです」
そう……エレナはこの土地に限界を超える程の可能性を見出した。
ユニオンレグヌス再興には冥界と戦う為に産まれ、そして当時最大勢力を誇ったクリタスの再興が必要不可欠であると考えていた。
そしてやっと見つけたのだ、多くの種族が交流を深められる可能性のある土地を……
「世界が、かつて世界を救った種族を迫害し続け……十万年経った今その種族が世界で災いをもたらしている……
それを救わなければ、あの強い絆は産まれない……か……」
ユリナが呟いた……
その時ピリアが泣き出した。
「解った、その方向でも考えて行こう」
ベルガルはエレナの理想を手伝う事で救国の恩を返せると、ただ感じていた。
考えて見れば確かに酷い話である。
十万年前に栄華を誇り繁栄を極めていたゴブリン達の国クリタス王国……
その全てを投げ出して世界を救った種族、ゴブリン達が全てを捨てて立ち向かわなければ、この世界そのものが無かったかも知れないと言うのに、今では国を持たずに落ちぶれ、忌み嫌われている……
クリアスによって命を奪われたゴブリン達の魂は浮かばれないであろう……
エレナの頭には、遠くに高くそびえる壁が見えていた迫害と言う壁である、その壁を越えることを彼らは選んだ……
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