✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第九章 メモリア・白き風〜

159話❅冬の魔物❅

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 アイファスから東の林までは歩いて一時間程で遠くは無い、だが雪が積もってる為に行きは倍は掛かる、護衛団が踏み固めその上を、運搬用のソリを馬で引いて行く。

 パリィは馬に乗りながら深呼吸をして、いつもの様に天気を探る、風を感じて予想していると『風の劔』から爽やかな風が一瞬吹いた気がした。
 パリィは次の瞬間、三日後まで晴れる気がしてもう念のためもう一度深呼吸をして、風を聞き確かめた。


(晴れる……)


 パリィは心でそう呟いたまるで『風の劔』が教えてくれた様だった。
 三日あれば、かなりの薪を集められる気がした。

「少し時間に余裕があるかも知れません
後百人程アイファスから護衛団を集めて来てください」

 パリィはそう指示をだして林の方の匂いを意識してみると、新しい木の香りと樹液の香りを僅かに感じたが、樹液の匂い妙に強い気がした。

(木が倒されてる……
血の臭いはしない……でも……)

 そう思いパリィは馬に鞭を入れ先行して森に向かった。

 五名ほどの護衛がついてくる。

 森の手前まで来た時パリィは気付いた。
大きな何かが居る。

 パリィは弓を出し、何時でも放てる様に持ち雪の中、馬を軽く走らせる、馬も積もる雪の中、走りにくそうではあるが下馬すればより危険だ。
 幾らパリィでもこれだけ雪が積もっていては身軽には走れない。

 強い敵意は感じないがその時、林から大きな音がした。

バキ!ギィィー……

 林の奥で木が倒された音が響いた。

 こちらに向かって来る護衛団が、その音を聞き驚き足を止める、風の向きが変わりパリィ達は森から見て風下になっていた。


「この臭い……いけないっ!
撤収!急ぎ撤退し!
全ての兵を集め街を守れ‼︎」
パリィは叫んだ!


「え?」

 護衛団と一緒に居たテリアが疑問に思う、そして護衛団達は何が起きたかも把握出来無いが、直ぐに撤退を始める。
 急に林の木々が次々と倒され此方に何かが走って向かって来た。

 そして、パリィ目掛けて大きな棍棒の様な物が投げられ、パリィは馬を操りそれを躱し、林にいるまだ見えぬ敵に向け矢を放った。

「グォ!」
引く唸る声が聞こえそして次の瞬間。

 林から木々をなぎ倒し巨大なイエティが現れた、多くの木々が吹き飛ばされ、それらがパリィを襲うが、パリィは馬を操り何とか躱して行く。
 巨人族と同じくらい大きく通常の倍以上ある、大きい事は解って居たがこれ程とは思って居なかった。

「パリィさん!」
テミアが慌てて叫んだ。

 パリィはその声を聞き直ぐに反撃に出る、考えてる場合じゃない、イエティに矢を放ち叫ぶ。

「撤退せよ!
隊を集め守りを固めよ!」


 護衛団では相手にならない、ましてや一面が膝まではあろうか、それほどの雪が積もっている、パリィも落馬すれば命を簡単に落としかねない。

 馬だけが頼りだが、その雪の中で馬がどれだけ長く走れるかも解らない。


「なんでこんな魔物が!」
パリィは思わず声に出して言った。


 巨大なイエティはパリィの馬を追い襲って来る、パリィは勇敢にも怯まずイエティの頭を狙い矢を放つ……だが凄まじい洞察力があるようでそれは躱されてしまう。

(走れればっ!走れればっ‼︎‼︎)

 パリィは心の中でそう叫びながら馬を走らせていた。


「グォ!」

 森から別のイエティの声が聞こえる、その声を聞きパリィは気付いた。

セントリアとの戦が原因だと……。

 人々が争い憎み殺し合う、それが魔物を呼び寄せたと言う事に気付いた、よく大規模な戦があった場所には魔物が住み着く場合がある。
 人の無念や憎しみ怒り、そして悲しみがそれを呼び込むのだ。

 パリィは真上に向けて矢を放った、矢は高い音を立てて空を切り高く飛んでいく、
そして『風の劔』を握る。

(大丈夫……出来る!)

そう心で叫び呪文を唱えてから叫ぶ。

「人々を守る為……
北風よ我に!
我に従えっ‼︎‼︎」

 次の瞬間、空高く放った矢が操られたかのように凄まじい速さで、イエティの右目を射抜いた、右目を抜かれたイエティは凄まじい叫びの様な悲鳴を上げた。



 その様子を街の人々が見ていた。

 パリィが魔物と戦っている……。

 馬を駆り深い雪原の中で、美しい白い髪を靡かせ、一人で魔物と戦っている姿は誰が見ても『白き風』と呼ばれた英雄そのものだった。

 そしてパリィはまた矢を見当違いな方に放つ、そしてその矢が風により見事な円を描き、イエティの右足を射抜いた。
 パリィは北風を操り自在に矢を打ち込んでいく、三本目の矢がイエティの背中から深く射抜かれた時イエティが膝をつき、パリィは馬を駆り、今度はイエティをすれ違い様に『風の劔』で頭部を深く切った。

 それが致命打になり、巨大なイエティは声をあげ、大きな音を立てて倒れた。
だがその時、森から先程よりは小さいが二匹のイエティがまた木をなぎ倒し現れた、パリィは直ぐに馬を走らせ距離を取り弓を構えるが……。

 その二匹のイエティは何かから逃げているようであった。

 パリィも誰も今の戦いで気付かなかった、もう一つの温かくて巨大な存在に。
 急に横から巨大な丸太がイエティをなぎ倒した。


「パリィよ遅くなってすまないのぉ」
ピルトの爺様だった。

 トレントがイエティを赤子の様になぎ払う、その一撃は巨大な城門さえ破壊しそうな程に強烈でイエティは一撃で血を吐き吹き飛ばされた。

「ピルトのお爺様、なぜここに……」
パリィはほっとした表情で聞いた。

「うん?わしか?
昨日からこの林の木々が悲鳴を上げていたので見に来たのじゃ
そしたら林は荒らされ
イエティのフンがあったんで探していたのだ……

後を追って来たら
可愛いパリィがイエティと戦ってくれてるじゃないか。
それで急いで来たのじゃよ」


その光景を街の人々が見て歓声を上げた。

「あんなのが、仲間なのかよ……」
セドも見ていて思わず声に漏らした、だがセドの瞳には焼き付いていた。
 イエティと戦うパリィの姿は、雪の妖精の様に美しかった。


「ピルトのお爺様、これからの冬に薪が足りなくて取りに来たんだけど……
この倒されてしまった子たちを貰ってっていい?」
 パリィがそう聞く頃には街から護衛団が、騎馬で向かって来ていた。

「うむ
彼らの命が命を助けるなら
必要な分だけ持って行けば良い。
わしも森から少し仲間を呼んで
この林に冬を越すまで住むかのぉ」
ピルトのお爺さんは少し寂しそうに言った。

パリィは感謝の気持ちを沢山込めて言う。

「ありがとう……」
深く頭を下げて礼を言うと。


「パリィや
そなたはわしの孫娘の様なものだ
そんなに畏まらなくて良いぞ」
ピルトのお爺さんは笑顔でパリィにそう言ってくれた。

 パリィはそんなピルトのお爺さんに、笑顔で答え護衛団を呼ぶ、護衛団はパリィの近くまで来て、すぐに馬から下馬しピルトのお爺さんに頭を下げて礼を言っていた。

パリィはその姿を見て微笑んだ。

 マルティア国にも多くのトレントが居た、湖にもケルピーなども居たのだ、マルティア国の繁栄には自然との共存関係が不可欠なのだ、でなければ厳しすぎる冬を国として越すことは出来ない。

 パリィはこのイエティの襲来によってマルティア国の未来を心に描くことが出来ていた。

 最初は驚きはしたもののパリィには良い一日になった。


 倒されたイエティの亡骸は、凄まじい速さで風化して行く……。
 魔物の体は力を失った時に、神の作りし定めによって浄化されるのだ、中には強力すぎる魔物は、命を失ってもその肉体が定めに抵抗し残る場合がある。
 その様な魔物は祈りを捧げ、地上の者が浄化する必要がある、でなければ厄介なアンデットになってしまう可能性があるのだ。


 パリィはイエティの亡骸が、無事に風化されたのを確認してから護衛団に、倒木を運ぶ様に指示を出した。

 林の手前にも大分あり、ピルトの爺様が奥の倒木も運んできてくれる。


「パリィよ
この林は大分荒らされてしもうた
すまんが雪解けで旅立つ日に
共には行けないのぉ
この林に苗を植えてやらねばならん
後から行くから
その時は先に行っててくれの」
そうピルトのお爺さんはパリィに言った。

 苗を植える、森を蘇らせ育てる、それはトレントの役目で大切な仕事である、パリィは笑顔でそれを受け入れた。

 林の倒木は相当あり、なぜイエティがこれだけ林を荒らしたのかは謎ではあったが、必要な分を運ぶだけで、二日程要し街の倉庫を薪や材木で大分埋める事が出来た。

 アイファスの薪不足はほぼ解消された。


 それだけでは無く、パリィは今回の戦いで街の多くの人々から英雄として謳われる様になり、『白き風』だけで無く『美しき英雄』とも言われ、パリィの噂が少しづつ北方地域に広まり始めた。
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