✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第十章 メモリア・セディナ〜

173話❅白獅子❅

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「今から話すのは『白獅子』の話です」
クイスは静かに微笑みながら言う。

「『白獅子』?」

 パリィが不思議そうな顔をして言う、テリング国の旗に白い獅子が描かれているからだ。


「さよう……

今から千年前
暗黒時代はグラキエスの戦いから
幕を開けました……

パリィ様も知っております
ベルス帝国とマルティア国の戦いです。


その戦いの前
まだマルティア国の女王がご存命だった頃……
ベルス帝国がマルティアに戦争を仕掛けるという情報が、南方の国々に広まりました。

それを南方の国々は期待しました
大国マルティアを率いる英雄
『白き風』がベルス帝国を止めてくれると……」


パリィは顔を曇らせた。


「あの時代

『白き風』はまさに希望だったのです。

ですがベルス帝国との戦いの前に
キリングの反乱により
『白き風』は命を落とされてしまい
南方の国々に暗雲が広がり
グラキエスの戦いが始まりました


記録では一日も経たずに
マルティア軍が敗れたとあります

ベルス帝国はマルティアを警戒して居たのでしょう

まるで鎖をちぎった獣の様に
南方の国々を侵略して行きました

降伏しない国は王族はおろか
国民の半数は皆殺しされたそうです

そして戦いもせずに自ら国を差し出し
命乞いする国すらあったそうです……」


 メーテリアもその時代を生き残った……
家臣達に連れられ、極北の中でも最北の土地に逃げたのである。
 メーテリアの家臣達は、美しいメーテリアをベルス帝国に見せない為に、守る為に、更に北に逃げたのである。

 そのためにメーテリアもマルティアが滅びた後の世界を、パリィ同様にあまり知らなかった。


クイスは酒を皆に勧め話を続ける。


「侵略された国々は圧政を敷かれました

ベルスの国の人々はベルス人と呼ばれ、制圧された国の人々は奴隷の様に扱われ、満足な食事も与えられない日々、そして働かされました。

刃向かう者は全てその場で殺され……
殺された者はまだ幸せかも知れません。

残酷な事に
広場で皮を剥ぎ
ありとあらゆる拷問が
大衆の前でされた記録もあります。

世界が地獄と化したのです……」


 クイスは悲しい瞳をしながら話していたが、その瞳に希望を光らせ始める。

「まだ
話をお聞きになりますか?」
クイスが静かに聞いて来た。

 パリィは静かに頷く、その時代が今続いている訳では無い、ベルス帝国は既に滅び暗黒時代は終わっている。

 どの様にして暗黒時代が終わったのか、または誰が終わらせたのか、パリィは最後まで聞く責任を感じていた。

 そして、首とお腹の辺りがヒリヒリと痛み出していたパリィが自ら命を絶った時の魂の傷が痛み出した様に感じた、パリィはその痛みも受け止めていた。


「マルティアが滅び
百年経った頃……
極北地域で異変が起きました
極北地域を支配していた
ベルスの総統が斬られたのです

それは暗殺の様だった記されています

その総統の後を継いだ者は
南ベルスを疑いベルス帝国に反旗を翻し
ベルス帝国は北と南に分裂しました

それを見計らった様に
『白獅子』と名乗る者達が
北ベルスに戦争を仕掛けました

『白獅子』を率いたのは
サルバ・フェルトと言う
ダークエルフでした」


「サルバが!」
パリィとメーテリアが声を上げて驚いた。


「お知り合いの様ですな……

『白き風』に反旗を翻した
キリング・フェルトの弟君様です
サルバは言ったそうです。


『亡き兄と亡き姉君の為に!
立ち上がれ!
マルティアの戦士達よ!』


その号令の元に極北と北方から
多くのマルティアの生き残りが集まり
大軍となり

北ベルスと十年戦い抜き
北ベルスを滅ぼすことに成功したのです

直ぐにサルバ様は
南ベルスに宣戦布告をし
南へ攻め込みました

それに応じ南方地域の一部の国が
南ベルスに対して立ち上がり
世界中で戦が起きました



それから五十年に及ぶ
北と南の戦いが繰り広げられたのです

まるでマルティア国と
ベルス帝国の戦い……

グラキエスの戦いで
マルティアが勝利した
先の戦いを見ている様な
戦争だったようです」



 パリィは驚いた、あの弱気で優しいサルバが戦をし戦い抜いた事に。
 サルバはキリング譲りのパリィに引けを取らない剣技を持っていたが、優しいの度を越した優しさで人を斬れる筈がなかった。

 そのサルバを奮い立たせる程に、暗黒時代が残酷な時代だったことをパリィは想像が出来てきた……。

今までの話に現実味が帯びて来た。

 そしてサルバがパリィの事を、姉として見ていてくれた事にも嬉しく、多くのことが重なり涙が出てきた。



 クイスはパリィの涙を見て何を思ったか解らない、だがパリィが『白き風』だと言うことには触れずに話し続けていた。

 パチパチと焚き火の火が音を立てている、優しく温もりのある音が響いている。


「最初はベルスに虐げられた国々も
十年もの間『白獅子』がベルスと戦い続ける事に驚き、徐々に『白獅子』を支援していく様になりました

中には国ごと白獅子に加わると言う国まで現れた様ですが
サルバ様は気持ちだけ受け取り
早まるなと伝えました

彼は考えていた様です
確実に勝てる時まで
他国をなるべく巻き込まない様に……」


 パリィはそれを聞き、サルバならそうしただろうと思った。
 敗戦は悲劇しか産まない、マルティアが滅びサルバはそれを目の当たりにして学んだに違いないそう感じた。


「北と南ベルスの戦いが十五年に及んだ時

サルバ・フェルトは戦で深傷を負ってしまいます

その戦には勝ちはしましたが
サルバの負傷を知った南ベルスは
直ぐにサルバの軍に
再び攻めて来てしまいました

サルバは開いていく傷に耐え
剣を振り続け命を落としてしまいます」


パリィは悲しくなっていた、とてつも無く悲しくなった、だがクイスは話し続けた。


「サルバは死ぬ間際に叫びました
力強く
死の直前とは思えない程力強く


『武器を捨てるな!
グラキエスを思い出せ‼︎

全てを失うぞ!
白獅子よ!
最後まで戦い抜け‼︎』


 そう号令をかけ
サルバ様は命を落とされました……

その号令は全軍に
まるで世界に響き渡るかの様に広まり
『白獅子』の軍を奮い立たせました……

サルバを失った為に
『白獅子』は僅かに押されましたが
その戦いを辛くも勝ち抜き……

その後三十五年かけて、ベルス帝国を滅ぼし暗黒時代の幕を降したのです。」


メーテリアが気づいて呟く

「『白獅子』ってまさかテリングの……」

パリィは静かにテリングの旗を見る、赤い下地に白獅子が力強く立っている。

「やっと気付いてくれましたか
我らテリングも元は『白獅子』……
英雄サルバ様の部下でした……

つまりマルティアの生き残りの一族なのです。

サルバ様が最後の号令を
かけて下さらなければ……
滅びていたかも知れない一族なのです」


パリィは涙が止まらなかった。

 自分が出来なかったこと、やらなければならなかった事を、義理の弟のサルバが命をかけてしてくれたこと。
 それが嬉しくも悲しくもあり……止めどもない涙が溢れて来ていた。

 そしてマルティアは国が滅びても、その民は多く生き延び、世界に根付いている事も知った。


 焚き火の火が消えかけていた、気づけば空も白み始めている。
暫くして、パリィは泣き止むのを見届けたクイスは帰ろうとした。


「クイスさん……
ありがとうございました……
私が知らないといけない事を教えて頂き
本当にありがとうございました……

これからも宜しくお願いします」
パリィは立ち上がり、深く礼をしてクイスを見送る。

クイスは微笑み、パリィに丁寧な礼をして帰っていった。
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