【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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19 殿下のお部屋で2

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「やっと……ですか?」
「うん。俺がいつからミシェルを好きだったかわかる?」

 さきほども思ったように、殿下は早くから行動を起こしていたようですが。

「倒れているところを助けていただいた時より、前なのでしょうか……」
「そう。俺たちが学園へ入学した年なんだ」

 魔法学園へは十歳になる年に入学しますが、約七年前のことなのでおぼろげにしか当時の出来事は覚えていません。
 殿下と初めて会話をしたのは、前世の記憶が戻ったあの日だと私は認識しています。
 入学した年に殿下が私を好きになるような出来事には、心当たりがないのですが。

「申し訳ありません殿下……、私には覚えがなくて……」
「そうだろうね。あの頃のミシェルは、今よりもっと人前へ出るのが苦手なようだったから」

 確かに入学当時の私は、知らない人ばかりの空間に慣れなくて。今よりも長い時間、図書室に引きこもっていたのですが。どうして殿下がそれを知っているのでしょう?

 昔を思い出したように小さく笑った殿下は、私を抱きしめたままソファーの背もたれに体を預けました。

「入学して数ヶ月が経った頃、図書室に天使が住み着いているという噂が立ち始めたんだ。天使は人に見つかるとすぐに姿を消してしまうので、息をひそめてそっと本棚の陰から覗かなければならない。そんな話を聞いたら、どうしても見てみたくなってね」

 図書室の天使と呼ばれている私ですし、これは私の話なのですよね。
 あの頃の私といえば、図書室内で誰かが近づく気配を感じたら、慌てて本棚の陰に隠れていたのですが。まさかそのような噂になっていたとは……。

「当時の俺としては大冒険をしているような気分で、天使探索を始めたんだ。数日かけて図書室内を探し回って、やっと天使を見つけることができたんだよ」

 殿下はそれを表現するかのように、私の頭にこてりと自身の頭をくっつけました。

「初めて本棚の陰から見つけた時は、本当に天使のような子だと思ったよ。ひとけのない場所に隠れて、楽しそうに本を読んでいる姿があまりに可愛くて。俺は不覚にもあの瞬間に、一目惚れをしてしまったんだ」

 確かに人があまり来ないような奥地に読みたい本を持ち込み、隠れ家気分で読書を楽しんでいましたが。そのような姿に一目惚れだなんて、殿下は物好きです……。

「それから毎日でもミシェルを見に行きたかったんだけど、不可侵協定なんてものができてしまってね。俺もミシェルを怯えさせるのは本意ではないから、ミシェルを見に図書室へ行くのは月に一度と決めていたんだけど……」

 そこまで言うと、殿下は不安そうに私の顔を覗き込みました。

「同じように天使を見たいと思っている者が多かったから、感覚が麻痺していたけれど。改めて思うと俺の行動は気持ち悪いよね……」

 殿下の行動より、たくさんいたことのほうが衝撃的なのですが……。

「そんなことは……。私も遠くから殿下をこっそりと眺めたことは、何度もありますし」

 前世の記憶が戻る前の私は普通の女の子と変わりませんでしたから、殿下の姿を見かけるたびに遠くから眺めては、心ときめかせていました。

 殿下はそれを聞くと、驚いたように目を見開きました。

「ミシェルが、俺を? どうして?」
「殿下を見たいと思わない女性は、いないと思います」
「王子という存在が人気なのは理解しているけれど、ミシェルもそう思っていたなんて思わなかったよ」

 そう微笑んだ殿下は、「そんなに前から、俺を意識してくれていたなんて嬉しい」と、軽くお互いの唇同士を触れ合わせて……。
 不意打ちは、心臓に悪いですっ。

 私の表情を満足そうに確認してから、殿下は話を続けました。

「けれど、最終学年になって俺は焦っていたんだ。国王からはすでに条件を貰っていたんだけど、ミシェルに怯えられないように出会う方法が思いつかなくて。あの時の出会いは、俺にとっては奇跡みたいなものだったよ」

 あの時は結局逃げられたけど、きっかけにはなったと殿下は苦笑しました。
 もしあのタイミングで私に前世の記憶が戻らなければ、私たちの関係はもっと簡単なものだったのかもしれません。

 それから殿下は、十八歳の誕生日までに条件をクリアできる見込みがなければ、アデリナ殿下と婚約するように国王陛下から言われていたと、教えてくれました。

「あの……、それですと今日の婚約発表はタイミングが早かったのでは? 私がもしお断りをしていたら、殿下はアーデル公爵様の後ろ盾を得られず、アデリナ殿下側の後ろ盾も得られませんでしたよね?」
「状況だけ見るとそうなるけど、俺は後ろ盾目的で結婚相手を選んでいるわけではないよ」

 もし私がお断りしていたとしても、殿下はアデリナ殿下との婚約は望んでいなかったそうです。
 アデリナ殿下を二番目の候補として据えるのは、誠意に欠けるからと。

 そして私への告白は、他に候補のいない真っさらな状態でおこないたかったそうで。
 国王陛下と何度も交渉し、今日の婚約発表に漕ぎつけたのだとか。

「正直に言うと、さっきミシェルの気持ちを聞くまでは自信がなかったんだけどね。勢いで押しとおしてしまった気がするんだけど、考える時間が必要なら俺はいくらでも待つよ」

 殿下は不安そうに、私を見つめました。

 確かに殿下に言わされてしまった感覚はありますが、伝えた感情はまぎれもない事実。
 王太子妃に対する不安は尽きませんが、殿下を支えたい気持ちもそれ以上にあるのです。

「私に王太子妃が務まるのか不安というのが正直な気持ちですが、いつまでも殿下の隣にいたいので頑張ってみようと思います。至らない点も多々あるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 そう頭を下げると殿下は、私の頬に触れて私の顔をあげました。
 視線が合った殿下は、誰よりも頼もしい存在に見えます。

「俺が全力で支えるから、寄りかかるくらいの気持ちで構わないよ。俺はミシェルに愛されたいだけなんだから。それより、俺の隣にいたい理由を聞かせてくれないかな?」

 また、そういう聞き方をするなんて……。

「大好きな殿下と、ずっと一緒にいたいんです……。殿下はどう思っていますか?」

 負けじと、質問返しをしてみると。

「一生、ミシェルを独り占めしたい」

 予想以上の返答と共に、三度目の口づけに襲われました。





 帰りの馬車。

「不安なことがあれば、いつでも俺に相談してね」

 そう提案してくれた殿下に、私はどうしても聞いておきたいことを質問してみました。

「あの……、殿下は愛のない結婚は望んでいないとおっしゃいましたが、側室についても同じお考えなのでしょうか……」

 王太子妃になると決意したので、もううじうじ悩んでいても仕方ありません。直接聞いて心の準備をするしかないと思ったのですが。

 それを聞いた殿下は、ぽかんとした顔で私を見つめました。

「あの……」

 このような質問をしてはいけなかったのでしょうか。
 しかし殿下は、次第に嬉しそうなお顔に変わります。

「今から側室の心配をするなんて、ミシェルも意外と独占欲が強いんだね」
「そのような意味では……」

 と反論しようと思いましたが、改めて考えるとそういう意味になってしまう気がします。
 前世の常識があるので、一夫多妻制が受け入れられないという理由もありますが、結局は殿下が他の女性に目を向けるのが嫌なだけなんです。

「心配しなくても、俺はミシェル以外に娶るつもりはないよ」
「本当ですか……?」
「うん。この国で側室を迎える理由は主に二つ。ひとつは後ろ盾を得るため、もうひとつは子供を多く得るため。俺の後ろ盾には婚姻で関係を深めるつもりはないと伝えてあるし、ミシェルが俺たちの子をたくさん産んでくれるなら側室は必要ないんだけど?」
「がっ……頑張りますっ」

 悩んだ日々は何だったのだろうと思えるほどに、またも殿下は私の難題をあっさりと解決してしまいました。
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