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20 早朝のルシアン殿下とアデリナ殿下
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翌朝。
学園の門で馬車から降りた私に、メイドは笑顔で杖を差し出しました。
「どうぞ。お気をつけて行ってらっしゃいませ、ミシェルお嬢様」
「ありがとう、行ってくるわ」
メイドに見送られて門の中へと入った私は、手に持っている杖に視線を向けて小さくため息をつきました。
昨夜の夜会での失態については、私も大いに反省しました。
殿下は、私が悪いわけではないように振る舞ってくれましたが、私が杖をちゃんと持ち歩き、落ち着いて行動していればあのような事態は避けられたのです。
今までは周りにどう思われても良いと思っていたのですが、これからはそうもいきません。
私の評判はそのまま殿下の評判に直結するでしょうから、彼の隣に相応しい女性になるべく努力をしていくつもりです。
その第一歩として杖を持ち歩こうと思ったのですが。皆の視線を浴びてしまう気がしたので、今朝は早く学園へ来てしまいました。
辺りに人影がなくてホッとしつつ教室へ向かったのですが、時間がありすぎて暇なのでカバンを席に置いてから教室を出ました。
お庭の散歩と、図書室の、どちらにしましょう。
そう考えながら渡り廊下に差し掛かると、殿下の姿が見えて。
朝早くから殿下に会えるなんて嬉しいと思いながら、声をかけようと思った時。
彼の視線の先にアデリナ殿下がいることに気がつき、私は慌てて柱の陰に隠れました。
「なぜ、私との婚約を辞退したのですか!」
「君がミシェルに嫌がらせをしようとしたあの日、君の気持には応えられないと伝えただろう。君は素直にそれを受け入れたと思っていたが?」
「確かに受け入れましたわ。けれど、この短期間で婚約が覆されるとは思っていませんでしたもの!」
アデリナ殿下はルシアン殿下の胸ぐらに掴みかかりましたが、彼は毅然とした態度で彼女を見下ろしています。
「君の父親とは長い間、交渉を重ねてきたんだ。俺の後ろ盾が所有する宝石鉱山について、あちらに有利な取引を持ち掛けることで、色よい返事をもらったよ」
ルダリア王国の国王は、無類の宝石好きとして周辺諸国に広く知られています。
国王の宝石コレクションの画集まで作られており。図書室にも数冊あるので読んだことがありますが、素晴らしい装飾が施された美しい宝石ばかりでした。
「私の未来より、宝石取引を優先するなんてっ……」
アデリナ殿下は悔しそうに、殿下の制服を掴む手に力を込めました。しかし急に雰囲気が柔らかくなり、甘えるような仕草で殿下にぴたりと身を寄せます。
「ルシアン殿下、もう一度冷静にお考え直しくださいませ。殿下があの子を気に入っておられるのでしたら、側室として迎えたらよろしいではありませんか。伯爵家なんて大した後ろ盾にはなりませんし、地味で特に秀でた才能もない落ちこぼれよりも、私を正妃に据えたほうがよほど殿下の利益になりますわ。私は上位クラスの中でも特に魔法の才能がありますし、自分で言うのもなんですが華があるので社交界での存在感があります。それにプロポーションだって私のほうが断然良いと思いませんか?」
彼女がメインヒロインだったのかは結局わからないままですが、それに相応しいオーラと美貌とプロポーションを兼ね備えています。
それに比べて私は、歳のわりに幼い見た目をしていますが、一定の需要があるからこそ私みたいなキャラも存在しているのですよ……。
殿下はどちらのタイプがお好みなのかは、わかりかねますが。
「俺の大切な人を侮辱するのは、止めてくれないか。君は遊び歩いていて知らなかったようだが、昨日のミシェルは国王から勲章を授与されている。彼女は本の知識に長けていて、解決が困難とされていたアーデル地方の病害についての解決法を提供し、自らの力でアーデル公爵の後ろ盾も得た。魔法はもうすぐ上位クラスに編入できるレベルにまで達している」
殿下はそこで一呼吸置くと、蔑むような笑みを浮かべながらアデリナ殿下を見下ろしました。
「それにミシェルは、君より可愛い」
「なっ……!」
アデリナ殿下は顔を真っ赤にして殿下から離れると「殿下が、幼女趣味だとは思いませんでしたわ!」と叫びながら、玄関の方角へと走り去っていきました。
幼女はさすがに、ひどいです……。
そして、殿下をロリコンみたいに言わないでください……。
心に大ダメージを受けているところへ殿下がこちらに向かってきたので、慌てて柱と壁の隙間に隠れました。
このまま身を潜めていれば見つからずに……、なんて浅はかな考えが浮かびましたが、殿下がそんなに鈍感なはずもなく。
「ミシェル、終わったから出ておいで」
「……気がついていたのですか?」
「うん。慌てて隠れる姿も可愛かったよ」
「申し訳ありませんでした……。立ち聞きはいけないと思いつつも、内容が気になってしまって……」
「聞くのは構わないけど、気分の悪くなる内容を聞かせてしまってごめんね」
殿下は私を抱き寄せると、慰めるように頭をなでました。
アデリナ殿下の怒りを受け止めた殿下のほうが、精神を削られたと思うのですが。
労うように殿下の背中をなでてみると、彼は私を両腕でぎゅっと抱きしめました。
朝から殿下に抱きしめて貰えるのは幸せですが、アデリナ殿下のことがどうしても気になってしまいます。
「あの……。アデリナ殿下は今ので、ご納得していただけたのでしょうか?」
「どうだろうね。しばらくは警戒しておいた方が良いかもしれない。ミシェルはなるべく、ひとりにならないようにしてね。少しでも異変があれば、すぐ俺に相談して」
「はい……。殿下も気をつけてくださいね」
学園の門で馬車から降りた私に、メイドは笑顔で杖を差し出しました。
「どうぞ。お気をつけて行ってらっしゃいませ、ミシェルお嬢様」
「ありがとう、行ってくるわ」
メイドに見送られて門の中へと入った私は、手に持っている杖に視線を向けて小さくため息をつきました。
昨夜の夜会での失態については、私も大いに反省しました。
殿下は、私が悪いわけではないように振る舞ってくれましたが、私が杖をちゃんと持ち歩き、落ち着いて行動していればあのような事態は避けられたのです。
今までは周りにどう思われても良いと思っていたのですが、これからはそうもいきません。
私の評判はそのまま殿下の評判に直結するでしょうから、彼の隣に相応しい女性になるべく努力をしていくつもりです。
その第一歩として杖を持ち歩こうと思ったのですが。皆の視線を浴びてしまう気がしたので、今朝は早く学園へ来てしまいました。
辺りに人影がなくてホッとしつつ教室へ向かったのですが、時間がありすぎて暇なのでカバンを席に置いてから教室を出ました。
お庭の散歩と、図書室の、どちらにしましょう。
そう考えながら渡り廊下に差し掛かると、殿下の姿が見えて。
朝早くから殿下に会えるなんて嬉しいと思いながら、声をかけようと思った時。
彼の視線の先にアデリナ殿下がいることに気がつき、私は慌てて柱の陰に隠れました。
「なぜ、私との婚約を辞退したのですか!」
「君がミシェルに嫌がらせをしようとしたあの日、君の気持には応えられないと伝えただろう。君は素直にそれを受け入れたと思っていたが?」
「確かに受け入れましたわ。けれど、この短期間で婚約が覆されるとは思っていませんでしたもの!」
アデリナ殿下はルシアン殿下の胸ぐらに掴みかかりましたが、彼は毅然とした態度で彼女を見下ろしています。
「君の父親とは長い間、交渉を重ねてきたんだ。俺の後ろ盾が所有する宝石鉱山について、あちらに有利な取引を持ち掛けることで、色よい返事をもらったよ」
ルダリア王国の国王は、無類の宝石好きとして周辺諸国に広く知られています。
国王の宝石コレクションの画集まで作られており。図書室にも数冊あるので読んだことがありますが、素晴らしい装飾が施された美しい宝石ばかりでした。
「私の未来より、宝石取引を優先するなんてっ……」
アデリナ殿下は悔しそうに、殿下の制服を掴む手に力を込めました。しかし急に雰囲気が柔らかくなり、甘えるような仕草で殿下にぴたりと身を寄せます。
「ルシアン殿下、もう一度冷静にお考え直しくださいませ。殿下があの子を気に入っておられるのでしたら、側室として迎えたらよろしいではありませんか。伯爵家なんて大した後ろ盾にはなりませんし、地味で特に秀でた才能もない落ちこぼれよりも、私を正妃に据えたほうがよほど殿下の利益になりますわ。私は上位クラスの中でも特に魔法の才能がありますし、自分で言うのもなんですが華があるので社交界での存在感があります。それにプロポーションだって私のほうが断然良いと思いませんか?」
彼女がメインヒロインだったのかは結局わからないままですが、それに相応しいオーラと美貌とプロポーションを兼ね備えています。
それに比べて私は、歳のわりに幼い見た目をしていますが、一定の需要があるからこそ私みたいなキャラも存在しているのですよ……。
殿下はどちらのタイプがお好みなのかは、わかりかねますが。
「俺の大切な人を侮辱するのは、止めてくれないか。君は遊び歩いていて知らなかったようだが、昨日のミシェルは国王から勲章を授与されている。彼女は本の知識に長けていて、解決が困難とされていたアーデル地方の病害についての解決法を提供し、自らの力でアーデル公爵の後ろ盾も得た。魔法はもうすぐ上位クラスに編入できるレベルにまで達している」
殿下はそこで一呼吸置くと、蔑むような笑みを浮かべながらアデリナ殿下を見下ろしました。
「それにミシェルは、君より可愛い」
「なっ……!」
アデリナ殿下は顔を真っ赤にして殿下から離れると「殿下が、幼女趣味だとは思いませんでしたわ!」と叫びながら、玄関の方角へと走り去っていきました。
幼女はさすがに、ひどいです……。
そして、殿下をロリコンみたいに言わないでください……。
心に大ダメージを受けているところへ殿下がこちらに向かってきたので、慌てて柱と壁の隙間に隠れました。
このまま身を潜めていれば見つからずに……、なんて浅はかな考えが浮かびましたが、殿下がそんなに鈍感なはずもなく。
「ミシェル、終わったから出ておいで」
「……気がついていたのですか?」
「うん。慌てて隠れる姿も可愛かったよ」
「申し訳ありませんでした……。立ち聞きはいけないと思いつつも、内容が気になってしまって……」
「聞くのは構わないけど、気分の悪くなる内容を聞かせてしまってごめんね」
殿下は私を抱き寄せると、慰めるように頭をなでました。
アデリナ殿下の怒りを受け止めた殿下のほうが、精神を削られたと思うのですが。
労うように殿下の背中をなでてみると、彼は私を両腕でぎゅっと抱きしめました。
朝から殿下に抱きしめて貰えるのは幸せですが、アデリナ殿下のことがどうしても気になってしまいます。
「あの……。アデリナ殿下は今ので、ご納得していただけたのでしょうか?」
「どうだろうね。しばらくは警戒しておいた方が良いかもしれない。ミシェルはなるべく、ひとりにならないようにしてね。少しでも異変があれば、すぐ俺に相談して」
「はい……。殿下も気をつけてくださいね」
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