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21 殿下の気遣い

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 殿下はその翌日から、朝も迎えに来てくれるようになり。行きも帰りも殿下の馬車にお世話になるという、申し訳ない状況になってしまいました。

 休み時間も頻繁に様子を見に来てくれますし、お昼休みも必ず一緒に食事をするようになり。放課後も図書室へ移動するために、殿下が教室まで迎えに来てくれます。

「殿下……。毎日私に付きっ切りで、お疲れになりませんか?」

 一緒に廊下を歩きながら、彼の顔を覗き込んでみました。
 心配してくれるのは嬉しいけれど、殿下の時間を奪っているような気がしてしまい申し訳なさでいっぱいです。

「ミシェルは少し、勘違いをしているよ」
「え?」
「俺は今まで、ミシェルに鬱陶しいと思われないように、会いたい気持ちをかなり抑えていたんだ」

 そう言われてみると今までの殿下は、用事もなしに私に会いに来ることはありませんでした。
 わりと強引に会う理由は作られていましたが、そのように考えていたとは。

「鬱陶しいなんて思いませんよ。私も殿下と一緒にいられる時間が増えるのは、嬉しいです」

 そう殿下に向けて微笑むと、彼も柔らかく微笑み返してくれました。

「良かった。本当は今すぐにでも結婚して、一日中ミシェルを独占したいんだけどね」

 婚約もまだなのに、殿下は気が早いです。
 その言葉どおりに殿下は早く婚約を結ぶために、私のレベル上げを前よりもっと精力的におこなうようになりました。

 今までは安全第一の狩りをしていたのですが、最近では回復魔法が必要なモンスターも積極的に狩るようになり。戦闘後に嬉しそうなお顔で、回復魔法をおねだりしてきます。

 そして、私の魔法詠唱に対して恥ずかしくなるような返事をし、時には唇を奪われたりして。
 最近の狩りは、違う意味でも油断ができません。


 図書室に到着すると、カウンター前にいた方々が私たちを見つけてこちらへやってきました。

「今日もミシェルは大人気のようだね。俺は個室にいるから、何かあったら知らせてね」
「はいっ。ここまで送っていただきありがとうございました」
「俺がしたいことなんだから、毎回お礼を言わなくても良いんだよ」

 そう言いながら握っていた私の手を持ち上げた殿下は、彼の口元に私の手の甲を当てるとにこりと微笑みました。

 図書室のど真ん中で、大胆すぎませんかっ。

 私が硬直している間に、殿下はセルジュ様に私の護衛を任せて個室へと入っていきました。

「お前も慣れない奴だな」とセルジュ様に笑われて我に返った私は、慌てて集まってきた方々の対応を始めました。

 この方々は、文官や上位貴族の従者などです。
 勲章を授与されたことにより、私が本に詳しいことが貴族中に知れ渡ったようで。日に日に、本を求めて私を訪ねてくる方が増えているのです。

 殿下は「俺が一緒にいると、皆が恐縮するだろうから」と、この時間だけは私から離れて個室で資料を読んだりしているようです。


 最後の方に本をお勧めし終わりホッと息をついていると、私の護衛をしてくれていたセルジュ様がぽつりと呟きました。

「この前は、エルに王太子妃は荷が重いなんて言って悪かったよ……」
「セルジュ様?」
「俺の知らないうちにエルは、知らない奴とも普通に会話ができるようになっていたんだな」

 セルジュ様は、娘の成長を喜びつつも寂しく思っている父親のような表情で、私に微笑みかけました。

 確かにセルジュ様と交流があった頃の私は重度の人見知りでしたので、今のようには人と接することはできなかったと思います。

 そういえばセルジュ様とは、学園へ入学してから突然に交流が途絶えたのでした。

 その後の私はお兄様だけが唯一の話し相手で、そのお兄様が卒業した後は本当にひとりきりになってしまいました。それでもぼっちを楽しむくらいには、図太く成長したと思っています。
 それに。

「話す内容は本のことばかりですから、意外と緊張せずに話せるんです」
「そっか……。そーゆーところはやっぱ、殿下には勝てないわ」

 気分を変えるように、セルジュ様は大きく身体を伸ばしました。

 セルジュ様のくちぶりからも、この状況は殿下が意図的に仕向けたことのようです。
 殿下自身も私と交流を深めるために本を使用していましたし、王太子妃になってから困らないように、貴族と緊張せずに話すきっかけを作ってくれたのだと私は思っています。





 図書委員活動後のレベル上げも終わり、いつものように殿下に送っていただくことに。
 馬車に乗り込むと向かいの席に、細長い大きな贈答用の箱が置いてありました。
 殿下がどなたからかいただいたのかと思っていると、殿下はそれを手に取り。

「ミシェルにこれを受け取ってほしいんだ」

 そう微笑む殿下に、私は首を傾げました。贈り物をいただくイベントに心当たりがありません。

「私の誕生日は、まだ先ですが?」

 そう答えると、殿下はくすりと笑いました。

「俺が贈りたいだけなんだ。説明したいから、とりあえず中を確認してくれないかな」

 そう催促されたので、渡された箱のリボンを解いて箱を開けてみたのですが。
 中に入っていたものがあまりに予想外で。尚且つ、あまりに素敵なものだったので私は固まってしまいました。

「ミシェルは俺のために、杖を持ち始めてくれたんだろう? それならミシェルが、少しでも気分良く持ち歩けるようにと思ってね」
「あの……、とても素敵なので驚いてしまいました。まるで魔法師が使う魔法の杖みたいです……」

 学園内では指定の武器しか使用を許可されていないので、魔法師が持つデザイン性に優れた杖は学生の憧れだったりもします。

「魔法の杖を改造して作ってもらったから、これで魔法も使えるんだ。いざという時に役立つかもしれないと思ってね」

 学園には事情を説明して、使用許可も得てくれたそうです。

 それから殿下は、真剣な表情で私の肩に手を置きました。

「俺がいない時の護身用と思って、持ち歩いてくれないかな」

 心配そうに見つめる殿下の表情から、この杖を渡したい理由はそちらにあるのだと思えました。
 学園ではこうして毎日、私を心配して一緒にいてくれるのに、屋敷に帰った後の心配までしてくれるなんて。
 殿下の気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになってしまいます。

「はい。素敵な贈り物をありがとうございます、ルシアン殿下」
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