悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています

廻り

文字の大きさ
2 / 55

01 ヴィンセント10歳 01

しおりを挟む

 事の発端は、十二年ほど前。

『厄介な拾いものをした』

 治療魔法師エルの彼に対する第一印象は、それだった。



 今日は一日中、雨が降り続け。空はどんよりと黒い雲に覆われたまま、夜を迎えようとしていた。
 街での仕事を終えたエルは、林の中にある自宅へと帰るため、傘をさしながら歩いていた。

 街から外れたこの辺りで、人に出会うことはあまりない。
 たまに顔を合わせる者といえば、山で猟師をしている者や、山菜採りを生業にしている者。そしてご近所さん――っと言っても、数百メートルは離れているが。
 皆、顔見知りなので見知らぬ者に出くわすことはほぼない。
 ゆえにエルは、十五歳という若さでも危機感を覚えることなく、のうのうとひとけのない林を通り、一人暮らしをしていた。

 そんな帰宅途中。道の先に倒れている者を発見した。
 このような雨の日に、山へ出かけた者でもいたのだろうか。山菜採りのおばあちゃんは近ごろ身体の調子が良くない。もしかしたら、具合が悪くて倒れたのか。
 心配しながら駆け寄ったエルの目に映ったのは、想像していた人物ではなく、十歳くらいの少年の姿だった。

 綺麗に切り揃えられている黒髪は、雨でぐっしょりと濡れており。肌が露出している腕や、足は、泥だらけ。
 そして、貴族の子のような上質な服装。その服は、背中が大きく裂けており。そこから血が、雨とともにだらだらと流れ出している。
 彼の周りは、水たまりなのか、血だまりなのか、よくわからない状態となっていた。

「なんてこと……っ!」

 傘を放り出して駆け寄ったエルは、すぐさま少年の背中に治癒魔法を施した。

「傷が深いわ……。それに、身体も冷え切っている……」

 すでに少年は呼吸も浅くなっており、瀕死と言っても過言ではない状況に陥っていた。
 助かる見込みは非常に低い。

 けれど、この少年は運が良かった。
 なぜならエルは、若くして治療魔法師として生計を立てられるほど、才能に溢れた少女だったから。

 エルはどうしても、この少年を助けなければいけないと感じた。
 彼を助けることで、自分に課せられた運命も変えられるのではないかと。

 まだ見ぬ運命への罪滅ぼし。
 いや。運命に抗うために、エルは魔法を使い続けた。




 エルが魔法を使い続けて、どれくらい経っただろうか。
 気づけば降り続いていた雨はいつの間にか止み、夜空には星がいくつも瞬いていた。

「なんとか、一命は取り留めたようね」

 汗と雨でぐっしょりと濡れた顔を袖で拭ってから、エルはほっとした気持ちで少年の頬をなでた。

 彼を救うには傷を塞ぐだけでは足りなかった。大量に流れて出てしまった血液を補うためには、自分のマナを彼へと注ぎ込む必要があった。

 『マナ』とは、この世界では魔法を使うためのエネルギーであり、生命を維持するためにも必要不可欠なもの。
 生き物は皆、空気中に存在しているマナを体内に取り込み、自分色のマナへと変換して蓄えている。このような緊急事態の際には、直接的に相手へマナを送り込むことも可能だ。

 エルの体内に蓄えられたマナを彼へと注ぎ、その上、魔法まで使用した。
 今のエルは、自分の身が危険なほどのマナ不足に陥っているが、それでも心は満ち足りていた。

(人を助けられた。私は悪人ではないわ……)

 エルは善人であり続けなければいけない。未来を変えるために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...