大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記

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第五部 第一章 若草物語

70話 アーノルド覚醒

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ムーランティス大陸の北部を統治するデーデルン大公国。
国主ドルフ・デーデルン大公。
五千年前にこの世界に転生し、精霊契約を人々に伝えた四始祖の一人、
寺島真司の末裔だ。

13年前。
ムーランティスの封印が解け、他の大陸との接触が可能となった時。
心がおどり血が沸き立つのを彼は感じた。
文明の進み具合では明らかに有利だった。
ムーランティスでは蒸気機関の発明や火力兵器の開発、その他諸々。
産業的にも軍事的にも先んじていた。
法師の質もこちらの方が高い。

我らが世界を支配する!
そう思っていた・・・

「けったくそ悪か聖女たいね。ニャートンもほんなこつ頼りん無かばい」

開戦からたった一週間で敗戦だ。
いや、分かってはいるのだ。
あれは化け物だ。
聖女と精霊王が率いる特殊部隊。
その機動力と破壊力。
科学文明の優位性など一瞬で消し飛んだ。

「ばってん、こんまんまじゃ終われんちゃね。あんたもそうじゃろうもん」
「うふふふ、その通りだよ」

出たぁ~~~
此処にいたぁ~~~
カヒ・ゲライスだぁ~~~

「どげんしよーとや?」
「うふっ、毒を持って毒を制す」
「そげなバリ強か毒ばあるとや?」
「うふふふふ。そろそろ良いかな。君にも見て貰おうかな。うふふふふふふ」
「なんね?気色悪か~」

カヒがデーデルンに出入りする様になったのは10年ほど前からである。
共に野心家の二人はすぐに意気投合し、聖女打倒を目指して協力し合う密約が
交わされた。

カヒはこの地に研究施設を作った。
デーデルンの技術者も参加している。
ムーランティスにはクローン技術があった。
大志が大学で専攻していた遺伝子工学の知識と魔法を組み合わせて実現させた。
旧ニャートン帝国とデーデルン公国の二国で独占して来た技術である。

「この子たちが我々の切り札だよ。うふふふ」

同じ顔をした四人の少女。
10歳くらいだろうか?
何処かで見たような・・・


「こんわっぱが?」
「あぁ、そうだよ。うふふふふ。さぁ、お前達、大公閣下にご挨拶しなさい」
「はい、お父様!」

マーガレット、ジョセフィーン、エリザベス、エイミーと名付けられた、
四つ子の姉妹。
息の合った仕草で挨拶をする。

「バリ可愛いかばってん、こげなわっぱに何んば出来よーと?」
「うふふふふふふ。この子たちの母親は”これ”だよ」

ガラスケースの中に数本の髪の毛が入っていた。

「苦労したんだよ、手に入れるのは。うふふふふふふ」
「誰ぞ?こん毛の主は」
「うふふふふふふふふふ。大聖女様だよ。うふふふふふふふふふ」

ちびっ子サーシアちゃんだったぁ~!

***

四季が無い・・・

降節秋分を過ぎて、オバルトであれば季節は秋の始まり。
澄んだ空の抜ける青さが目に染みる白秋の頃。

ムーランティスには季節感と言うものが無い。
精々が雨季と乾季が有るくらいだ。
それも沿岸部に限られる。
内陸中央はカラッカラの乾燥地帯だ。

まだまだギラついた日差しと乾いた風が吹く。

「乾燥はお肌の敵ですわっ!」
「ですわっ!」
もげら~やめて~

最近やたらとアーミアの世話を焼きたがる。
前から付きまとってはいたが、その方向性が変わって来た。
以前は自分達の遊びに使うお人形さんとしての扱いだったのが、
この頃はまるで保護者を気取っている。

うごうごもみゃ~自分でするから~
「背中は塗れないでしょう?」
「でしょう?」

羊の毛から取れる”ラノリン”を配合した保湿オイルを全身に塗りたくられるのだ。
多少のベタつきと匂いがあるので、サラアーミアはこのクリームが嫌いである。
逃げ惑うサラアーミアを二人係りで取り押さえ、
素肌も露わな三人の少女が絡み合う。


百合ね!百合ですわ!百合よっ!ハァ~ハァ~ハァ~ウフゥ~フゥ~

それを荒い鼻息と血走った目で鑑賞かんしょうしているアルサラーラ・・・
これがレイサン家で繰り広げられている毎朝の風景だ。

『白百合~の~♪
 花が咲いたよぉ~ん♪
エロいエロい♪
 花~~~が~♪
咲いたよぉ~~~ん♪』

離宮で過ごしていた双子だったが、アルサラーラに誘われたお泊り会から以降は、
なし崩し的に本宅に移り住んでいる。
そして4人で仲良く通学だ!

***

「その・・・すまなかった」
アーノルド復活!

「判れば宜しいのよ!」
「よ!」
げろにゃ次は殺す

そう言うセリフは前に出て言おうね・・・

「せ、世話になる、宜しく頼む」
「えぇ宜しくね」
「ね」
げろっぱ瞬殺だぜ

聞こえていないよ、アーミア・・・

ミラームとネフェルの二人だけになっていたルルナの日本語教室に
双子とアーノルドが加わり合計5人となった。
ミラームとネフェルは精霊院の上等科に進級していて、週一で授業を受けに来る。
エリーゼは侯爵家へ嫁いで行った。
シオンは聖人と成ったので卒業だ。

ターラム大公家はアーノルドが聖人に成る事を期待して、
当面はダモン批判を控えるようにと一族に通達した。

***

教室へ向かう廊下を歩きながら高位貴族クラス担任のマイロは、
シクシクと痛む胃をさすっている。

マイロ・ダンクス伯爵。
精霊教会所属の聖騎士だ。
彼は精霊院時代、エルサーシアの同級生だった。
当時から気の弱い男だったが、今も変わらぬ小心者だ。

(はぁ~行きたくない・・・)

入学初日に、いきなり大事件発生!
聖女と大公家の傷害事件だ。

(末っ子はクラスのまとめ役で とっても助かるって言ってたなぁ~
 羨ましい・・・)

彼の妻も講師として勤めている。
オレリナ・ライランス・ダンクス伯爵夫人。
同じく精霊院時代の同級生で聖騎士である。
彼女はアルサラーラの担任だ。
大聖女の友人を担任に据えておけば何かと都合が良いだろうと起用された。

(親しいのはリィナであって僕はそれほどでも無いよぉ~
あの連中と面と向かって会話するなんて、怖くてとても出来ないよぉ~
替わって呉れないかなぁ~
今日はアーノルドが復学する。
和解しているとは聞いているけど、当てにして大丈夫か?
気が重い・・・)

ドッガァ~~~ン!!!
教室の壁が吹き飛んだ!
アーノルドがピクピクしている。

「な!何ぃ~~~?」

***

「シオンの時もそうでしたけれど、いったい何ですの?
精霊院の男子には、そういう伝統でもありますの?」

話を聞いたアルサラーラは呆れていた。
双子に無礼を詫びたアーノルドは、ついとサラアーミアの前に歩み寄り、
片膝を付き騎士の礼を取ったそうだ。

「???」

意図を計りかねているサラアーミアの手をそっとすくい上げると、
その甲に接吻しこう言ったそうだ。

「私と結婚して欲しい」
「ぎゃぁぁぁ~~~!!!」

人見知りの引き籠りで、カルアン以外の男性に触れた事など無い。
ましてや結婚など想像も出来ない。

「『ドカンッ!』」

恐怖のあまりに圧縮空気砲を打ってしまった。
”空気”と侮ってはいけない。
着弾と共に凄まじい勢いで膨張し、対象物を破裂させる。

魔子が咄嗟の判断でアーノルドを保護しなければ粉砕されていただろう。
見た目は地味だけれど、とっても優秀な精霊だ。
脳震盪のうしんとうで気を失ったものの、かすり傷程度で済んだ。
念のために療養所で一週間の静養となった。

「いい加減に出て来なさいよ!」
「来なさいよ!」
「お姉様!ここを開けてちょうだいな!」

パニック状態で城に逃げ帰って、衣裳部屋に内側から鍵を掛けて、
閉じこもっている。

***

「せ、せ、せ、接吻された・・・て、手に・・・手にチュって・・・チュって・・・
け、け、け、結婚・・・結婚してって言われた・・・」


まったく理解が出来ない。
どういうつもりだ?
大怪我をさせられた相手に求婚?
Mか?
ドMか?
超のつくマゾ野郎なのか?

「ど、ど、どうしよう?ねぇ魔子、どうしよう?」
「もうYOUたち付き合っちゃいなよぉ!」
「んなっ!つ、つ、つ、つきっ!」
「結構お似合いだと思うよぉ~」
「お!おにっ!おにっ!おにっ!」
「どっちにしてもさぁ、本気なのか確かめる必要があるよぉ」

うん、魔子の言う通りだ。
良く出来た精霊だなぁ~。
他の子にも見習って欲しいものだ。
特にハニーとか!

「確かめる?」
「そう、本気で求婚してるなら、受けるにしても断るにしても、
ちゃんと考えてあげないと可哀そうだよぉ」

うんうん。

「本気では無かったら?」
「一族皆殺し」

前言撤回!
ろくなもんじゃねぇ~~~!!!

「わかった!」
「じゃぁ行こうか!」
「え?何所へ?」
「アーノルドのとこ」
「むりむりむりむりむり」
「大丈夫!大丈夫!さっと行って聞くだけだから~」
「そんな・・・でも・・・」

思わず手の甲をさする。
アーノルドの唇の感触が残っている。

「あら?顔が赤いよ?え?え?え?もしかしてぇ~?まんざらでもない?」
「そ!そ!そ!そんなんじゃないからぁ~!」

***

「はぁ~~~」
療養所の寝台の上で黄昏たそがれている。

「サラアーミア・・・」

凄まじい衝撃に弾き飛ばされて壁に激突した。
あの目・・・
虫けらを見るような無感情の目。

しびれた~れた~

あの可憐な指先から放たれた魔法に、心も体も射貫かれてしまった。
怪我の痛みさえ愛しい。

「あぁ、麗しの姫君・・・」

アーノルドは超が付くマゾ野郎でしたっ!
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