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81話
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「こりゃあすごい、初日でこの盛り上がりか」
街では多くの屋台が並び広場ではすでにたくさんの作物が並べられていた。音楽に合わせ踊る人もいれば、椅子に座りすでに酒を呷ってる人たちもいる。
「お、聖人様! 今日は奥さんと二人っきりかい!!」
顔を赤く染めすでに出来上がっている男が向かってくる。
「ははは、まだ初日なんだからあんまり飲み過ぎないようにな」
「がーっはっはっはっは! こんなもんまだまだ序の口よ、聖人様も楽しんでくれよぉっ!」
男はふらふらと人混みに消えていくと、今度は子供が母親の手を引き走ってくる。
「せいじんさまこんにちはー、おねえちゃんもこんにちはー!」
「こんにちは、今日も元気いっぱいだね」
挨拶をすると子供はきょろきょろと何かを探す。
「しんじゅうさまはいないのー?」
「ごめんね、今日は一緒じゃないんだ。リヤンとお祭りをみているはずだから見つけたら挨拶してあげてね」
「うん、わかった! せいじんさまもたのしんでねー!」
母親は軽く会釈をすると子供に引っ張られていった。
「ニエも本当は祭りを楽しみたかっただろ? リヤンたちといって来てもいいんだぞ」
「リッツ様の隣で楽しんでいるので気にしないでください。あーっ! そろそろ持ち場につかないと怒られちゃいますよ!」
ニエは急ぐように先を走ると振り返って手招きする。後を追って警備用の高台に登っていくと数人の兵と合流する。
「聖人様、お待ちしておりました」
「遅くなってすまない。今日からよろしく頼むよ」
「そこのお方は?」
「彼女はニエ、目が尋常なく良いから連れて来た。邪魔にはならないから気にしないでくれ」
「よろしくお願いします」
ニエが笑顔を向けると兵たちの顔が緩む。
「お、おう。足手まといにだけはならないように頼むぞ」
兵がでれでれになっていると街を見下ろして確認していた俺の横でニエが口を開く。
「リッツ様、あそこで子供が迷子になっているようです。たぶんですが反対側にいる青い帽子を被った女性が慌てているようですので母親かもしれません」
「さっそくか、ちょっと行ってくる」
俺はすぐさま階段を駆け下りると大人たちに囲まれ泣いている子供を見つけた。
「ママぁ……ぐす……っ」
「誰かこの子の母親を見てないか」
「んーこの人混みじゃあねぇ」
「ちょっと失礼します」
「お、聖人様! どうしたんですかこんなところに」
「この子の母親らしき人を見つけてね。ねぇ、君のお母さんは青い帽子を被ってなかった?」
子供は俺をみてコクコクと頷く。
「よし、それじゃあ俺と一緒にママのところに行こう!」
「おーよかったなぁ。聖人様の手にかかればあっという間だぞ!」
大人たちに促され、子供は涙を拭くと差し出した俺の手を握る。
……っと、この人混みじゃちょっと危ないか。
「ちょっとごめんよ」
「わっ――た、たかーーーーい!」
「よし、ママを見つけたら大きい声で呼ぶんだぞ」
子供を肩車し俺はニエが言っていた場所に向かった。
「ママー!」
頭の上から大きな声がするとちょうど青い帽子を被った女性がこちらを見て走ってくる。
「――それじゃ今度はしっかり手を繋いでお祭りを楽しんでくださいね」
俺は子供と母親を見送ると高台で見ているニエに手を振り戻った。
「よし、まずはこの調子で見ていこう。下の兵とも合図で動けるようにしておきたいな……あとで言っておくか」
「リッツ様、さすがですね!」
……いやいや、どうみてもこの人混みで騒ぎを見分けるニエのほうがすごいだろ。
俺もニエに負けないよう街を睨んでいると兵が声を掛けてくる。
「あ、あの、下の者には私の方で声を掛けてきます!」
「もし何かあれば私たちにも指示を!」
「そっちも何かあれば言ってくれ。先は長いからな、焦らずいこう」
気を引き締め直した兵と共に俺たちは警備を続け、一日目の夜は大きな騒ぎもなく無事に過ぎていった。
街では多くの屋台が並び広場ではすでにたくさんの作物が並べられていた。音楽に合わせ踊る人もいれば、椅子に座りすでに酒を呷ってる人たちもいる。
「お、聖人様! 今日は奥さんと二人っきりかい!!」
顔を赤く染めすでに出来上がっている男が向かってくる。
「ははは、まだ初日なんだからあんまり飲み過ぎないようにな」
「がーっはっはっはっは! こんなもんまだまだ序の口よ、聖人様も楽しんでくれよぉっ!」
男はふらふらと人混みに消えていくと、今度は子供が母親の手を引き走ってくる。
「せいじんさまこんにちはー、おねえちゃんもこんにちはー!」
「こんにちは、今日も元気いっぱいだね」
挨拶をすると子供はきょろきょろと何かを探す。
「しんじゅうさまはいないのー?」
「ごめんね、今日は一緒じゃないんだ。リヤンとお祭りをみているはずだから見つけたら挨拶してあげてね」
「うん、わかった! せいじんさまもたのしんでねー!」
母親は軽く会釈をすると子供に引っ張られていった。
「ニエも本当は祭りを楽しみたかっただろ? リヤンたちといって来てもいいんだぞ」
「リッツ様の隣で楽しんでいるので気にしないでください。あーっ! そろそろ持ち場につかないと怒られちゃいますよ!」
ニエは急ぐように先を走ると振り返って手招きする。後を追って警備用の高台に登っていくと数人の兵と合流する。
「聖人様、お待ちしておりました」
「遅くなってすまない。今日からよろしく頼むよ」
「そこのお方は?」
「彼女はニエ、目が尋常なく良いから連れて来た。邪魔にはならないから気にしないでくれ」
「よろしくお願いします」
ニエが笑顔を向けると兵たちの顔が緩む。
「お、おう。足手まといにだけはならないように頼むぞ」
兵がでれでれになっていると街を見下ろして確認していた俺の横でニエが口を開く。
「リッツ様、あそこで子供が迷子になっているようです。たぶんですが反対側にいる青い帽子を被った女性が慌てているようですので母親かもしれません」
「さっそくか、ちょっと行ってくる」
俺はすぐさま階段を駆け下りると大人たちに囲まれ泣いている子供を見つけた。
「ママぁ……ぐす……っ」
「誰かこの子の母親を見てないか」
「んーこの人混みじゃあねぇ」
「ちょっと失礼します」
「お、聖人様! どうしたんですかこんなところに」
「この子の母親らしき人を見つけてね。ねぇ、君のお母さんは青い帽子を被ってなかった?」
子供は俺をみてコクコクと頷く。
「よし、それじゃあ俺と一緒にママのところに行こう!」
「おーよかったなぁ。聖人様の手にかかればあっという間だぞ!」
大人たちに促され、子供は涙を拭くと差し出した俺の手を握る。
……っと、この人混みじゃちょっと危ないか。
「ちょっとごめんよ」
「わっ――た、たかーーーーい!」
「よし、ママを見つけたら大きい声で呼ぶんだぞ」
子供を肩車し俺はニエが言っていた場所に向かった。
「ママー!」
頭の上から大きな声がするとちょうど青い帽子を被った女性がこちらを見て走ってくる。
「――それじゃ今度はしっかり手を繋いでお祭りを楽しんでくださいね」
俺は子供と母親を見送ると高台で見ているニエに手を振り戻った。
「よし、まずはこの調子で見ていこう。下の兵とも合図で動けるようにしておきたいな……あとで言っておくか」
「リッツ様、さすがですね!」
……いやいや、どうみてもこの人混みで騒ぎを見分けるニエのほうがすごいだろ。
俺もニエに負けないよう街を睨んでいると兵が声を掛けてくる。
「あ、あの、下の者には私の方で声を掛けてきます!」
「もし何かあれば私たちにも指示を!」
「そっちも何かあれば言ってくれ。先は長いからな、焦らずいこう」
気を引き締め直した兵と共に俺たちは警備を続け、一日目の夜は大きな騒ぎもなく無事に過ぎていった。
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