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82話

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 収穫祭の初日、日付も変わろうとしている頃、静まり返った村の外に複数の人影があった。

「おい、本当にやるのか……」

「何言ってやがる、こちとら高い金を貰ってんだ。やるなら今しかねぇ!」

 男は小さく怒鳴るように声を荒げるとゆっくりと歩を進める。

「なぁこんなことして万が一見つかったら……」

「今は収穫祭で警備が薄いって言われただろ。あいつらだって祭りを邪魔したいって言ってただけだし、こんなうまい仕事、そうはないぞ」

 男が瓶を取り出し川へ近づく。

「なぁ、やめた方がいいんじゃねぇか」

「何を今更――だ、誰だてめぇッ!?」

 男が振り返ると紅い服を纏った悪党面の男が立っていた。その後ろでは先ほどまでいた男の仲間が倒れ、兵が縛り上げていた。

「いつの間に……!」

「お前ら素人だな。誰に雇われた?」

「ちっ……! 誰が喋るかよ!」

 男は殴りかかるがあっという間に倒れると意識を失った。

「こっちはハズレかぁ。いや、次が本命かもしれん。期待して待つとすっか」

「なんと見事な制圧、ありがとうございました!」

 兵が大きな声で礼を言うと団員の男は人差し指を立て口に当てる。

「この村では何も起きなかった、そうだろう? わかったらそいつらを静かに運んでくれ」

 男の言葉に兵たちは頷くと、静かに素早く行動を開始した。







 同時刻、別の村では岩に座ったウェッジがのんびりと星空を眺めていた。

「魔物を一度退けたからこそ、ここが手薄だと意表をついたか、はたまた警備が固いとしても突破する自信があったか――――どっちだろうな?」

 ウェッジが見つめた先に女性が現れる。

「まさか本当に『紅蓮の風』がいるとは……しかも、よりによって副団長が相手とはね」

「知ってるのならば話は早い、大人しく捕まってくれると俺としても楽なんだが――」

 ウェッジが立ち上がると女性は構えた。

「あんたたちの情報は裏でも有名よ。……そして、あんたのスキルもすでに知っている!!」

 女性が黒い短剣を数本投げるとウェッジが避ける。

「暗器の類ねぇ、扱いずらいものを使ってるせいか恰好だけで精度が悪いな」

「随分と余裕ね……。だけど、もう勝負は決まったわ」

「ッ!!」

 先ほど投げた短剣がウェッジに向け飛んでくる。

「私のスキル『必中』を避けることは不可能! これで終わりよ!」

 ウェッジは距離を取ると飛んできた短剣に向けて石礫を当てる。短剣が落ちていくと最後の一本を掴み取り片手で遊んでみせた。

「なっ……!?」

「どうやらお前のスキルは対象の線上にある物体に当たれば止まるようだな。そしてもう一つ、速度は落ちることなく対象に向かっていくが、逆にいえばそれ以上の速度で触れれば無効化できる。ま、簡単にいえば飛んできているものを落とすか掴めば何も問題はないわけだ」

 女性はウェッジの説明を聞きながら後退る。

「この闇の中で当てるだと!? くそ、『指弾』の精度はそこまでだというのか!」

「スキルにかまけて己を鍛えなかったのが仇になったな。ほれ、返すぞ」

 ウェッジが暗器を投げると女性は咄嗟に避ける。

「相手から目を離しちゃダメじゃないか」

「――ッ!?」

 女性はすぐさま振り返ろうとしたがそのまま意識を失う。

「投げられた武器が攻撃とは限らないってな。ついでに言うが俺のスキルは『指弾』じゃない……って、もう聞こえていないか」

 ウェッジは女性を担ぎ兵の下に歩いていった。
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