エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

文字の大きさ
89 / 150

89話

しおりを挟む
 森の中は国境というのが曖昧になっており国同士で決めた目印や地図に記載など、あるにはあるのだがそれでもすべての境界線をはっきりさせるのは難しい。

「リッツ様、お茶はいかがですか」

「ありがとう、アンジェロも飲むか?」

「ワフッ!」

 俺たちは山の高い位置に陣取り昼食を取りながら馬車を見下ろしていた。

「お、これは魚のほぐし身か。塩気があって美味しいな~」

「うふふ、そういって頂けると作った甲斐がありました」

 ニエが作ってくれたおにぎりという料理には様々な具が入っており、動きながらでも食べられるというこの形はとても理に適っている。

 いつもなら非常食を食べていたが、俺の鞄に弁当やおにぎりを入れておけばいつでも作り立てを食べられる――それを思い出したのは早朝、ニエにおにぎりを渡されたときだった。

 そもそも料理を入れておくという発想がなかったとはいえない……。

「お天気もよくて美味しいですね!」

「ワン!」

 すぐに動けるようアンジェロは大きくなったままだが相変わらず食いっぷりがすごい。ニエもほんわかとお茶を飲んでいる。まぁ、カラッとした天気に出来立てのおにぎり、気が緩んでしまうのは仕方がないが――。

「二人共、いつ何が起こるかわからないんだ。警戒を怠るなよ」

「はい! リッツ様、ご飯粒がお口に」

「えっ、どこ?」

「ここです、もう少し左――取れました!」

「ワフッ」

「アンジェロは……仕方ない、あとで洗おう」

 しかし本当に美味い……ふぅ……。

 男性と男を乗せた馬車は森を抜けようとしているため速度はそれほど出ていない。のんびりとお茶を啜っているとニエが遠くをみる。

「リッツ様、向こうから馬が数頭と馬車が来てるようです」

「相変わらずよく見えるな~俺にはさっぱりだ」

 アンジェロが立ち上がりあっちだよと教えるように俺を振り向く。

 んーそもそも木が邪魔でみえない。あっ、今一瞬だけ何か見えたような……気がする。

「まだ距離もあるようだし食べ終わったら準備しよう」

「はい。ところで仲間がいるって言ってましたが、どなたでしょうか」

「そういえばニエは会ったことがなかったな。変装というか人に化ける達人でね。今回は潜入がメインだから、シリウスにお願いして協力してもらってるんだ」

「ということはあの二人のどちらかということですね」

 ニエは男性が乗る馬車に同乗している二人をみた。

「あぁ、だから俺たちは後始末と補佐がメインだ」

 アンジェロの顔を洗うと馬車が合流する地点に先回りし身を潜めた。

「やっと来たか、リモン様も少し慎重が過ぎると思うんだがなぁ」

「あのくらいだからこそ商会をここまでデカく出来たんだろ」

 男たちが会話をしていると外装を羽織った人物が遮る。

「お前らの事情なんてどうでもいい、それよりも薬草は持ってきたんだろうな?」

「ちゃ~んと指示通り持ってきてやったよ。それより、そっちこそ組織に入れてくれる話はどうなんだ。リモン様もいい加減動きがないと薬草を送れなくなると言ってるぞ」

「それはお前らの働き次第だ」

「なんだとてめぇ!?」

 男が突っかかっていくともう一人の男が止めに入る。

「待て、そんなことだろうと思ってリモン様から特別な草を預かっている」

「はぁ? 俺はそんなこと聞いてねぇぞ」

「来る直前に言われたんだ。たまたま俺が近くにいたってだけだから気にするな」

 男は袋から世界樹の葉に似た草を出すと、それをみた俺は少しだけ身を乗り出した。

「あ、あれは……!」

「リッツ様が島で見つけた新種の草ですね」

 そう、あれこそ俺が【ザーフニーゼン】で見つけた新種の草――その名も『クサモドキ』!

 俺も驚いたが草のはずなのにモドキとついているのだ。あの草のすごいところは姿形は実際にある草と微妙に違うくらいで、色々な草を真似ているところ。

 ちなみに馬車が運んでいるのはほぼすべてが薬草に似たクサモドキだ。

 そして効果はというと……何もない。似ても焼いても、調合しても、薬にもならないし毒にもならない。言うなれば雑草だ。
 まぁ食べれば一応草だから腹の足しにはなると思うけど。

 大量にあったクサモドキから、まさか世界樹の葉に似ている草を見つけたときは大喜びだったな~。

「……見たこともない草だな」

「なんでも聖人が持っていたとっておきらしい。これをやるのは組織加入が条件だ」

「ちょっと待て、お前だけずりぃぞ!!」

「そっちの都合はどうでもいいからさっさと荷物を移せ」

「ちっ、おい、お前も働くんだよ!」

 男の一人が男性に言い放つと三人は荷を運ぶ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

処理中です...