異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~春季休暇~

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近衛騎士団団長の執務室でお話中。

アナスタシアさんはニコニコご機嫌。そんな妻を満足そうに見守る団長さん。…なんだろうこれ。

アナスタシアさんは、私に生活に困った所はないか、悩みがあればいつでも相談に乗るから、ととても親身になってくれる。どうして私の事をそこまで可愛がってくれるのか私にはさっぱりわからない。

すると、扉がコンコン、とノックされた。


「入れ」

「はっ!失礼します!訓練の準備が整いました!」

「そうか、ご苦労。アナスタシア」
「ようやくか。では姫、行こうか」

「えっ?どこに?」

「教練場さ」
「私の勇姿を見せてやろう!腕が鳴る!」


…はい?アナスタシアさんが?

アナスタシアさんは張り切って先に出ていった。団長さんを振り返り、『後は頼む』と格好よく言って…
なんでしょう、この夫妻は役割反対では?

私は団長さんに促され、執務室を出て教練場へと向かった。歩きながら団長さんから説明を受ける。


「すまんなぁ、お嬢。アナスタシアが張り切っていてお嬢に自分の勇姿を見せると言って聞かんのだ」

「待ってくださいアナスタシアさんて、そもそも騎士だったんですか?」

「ああそうだ。アナスタシアが産まれた時はタロットワーク家はまだ王族だったが、すぐにアルゼイド家に王権を委譲した。ゼクスレン殿とアナスタシアは一回り以上歳が離れている。その理由は聞いているか?」

「はい、低年齢層に流行病があったとか」

「そう、だからゼクスレン殿とアナスタシアは兄妹と言っても親子ほど離れている。だから王女であった期間はほんの数年か。元々アナスタシアは剣術の才能に恵まれていて、女でありながら敵無しな程だ。本人も王族でなくなったからこそ自分の才能を活かすために騎士の道を選んだ」


アナスタシアさんは、少女時代から剣の才能に優れ、同年齢の中では頭一つ所ではないほど飛び抜けていたそうだ。それは騎士団に入っても同じで、年上の騎士を負かすのが当たり前。しかしその才能に驕ることなく努力を欠かさない人だった。

剣の腕前、人をまとめる才覚カリスマ、リーダーシップに優れた性格…羨み、妬んだ者もいたようだけど騎士団の中でも幹部となるのは時間の問題だったそうだ。


「・・・だがとある病を得てな」


婦人病。現代ならば聞いたことはあるだろう。子宮筋腫だ。団長さんも言葉を濁し、はっきりした事を言わないが情報を集めるとおそらくそうだ。
アナスタシアさんは子供を望めない体になった。

それからは、さらに騎士という仕事に精を出すようになり、『姫将軍』と呼ばれるまでになる。
他国との小競り合い、ならず者の討伐、魔物の討伐など様々な事に力を注いだ。

そんな時に、団長さんは求婚プロポーズをしたそうだ。共に肩を並べた仲間であり、守りたい背中である彼女を。


「感動するかと思ったら剣を突き付けられて『ならば私を負かしてみろ。話はそれからだ』ってな・・・どっちが男なのかわからなくなった」

「か、カッコよすぎる、アナスタシアさん」

「そう思うだろ?ったく大人しく守らせてはくれないんだよ、あの人はな。俺はがむしゃらに攻め、かろうじて引き分けた。勝てたとは思わないが、アナスタシアは『まあこれならばいいだろう』って俺の求婚を受けてくれた訳だ。ゼクスレン殿も反対はせず、すんなり結婚したものの、今度は『タロットワークの名を捨てる気はない』と来た」

「へっ!?」


あ、アナスタシアさん?それは結婚っていうのかな?
目を白黒させる私に、団長さんは笑って話す。

アナスタシアさんは、自分が子供を産めないからこそ、クレメンス家の嫁にはなれないと。だから愛人を囲い、その女性に子供を産ませること、と言ったそうだ。そしてその子供を嫡子にしろ、その為に私はクレメンスの名は名乗らないと。


「凄いですね、アナスタシアさん」

「考え方は正に『国を背負う者』のそれだ。俺はその時一生彼女に頭が上がらないと確信してね。王女ではなくなっても、あいつの考えはそれだ。何よりも次代を見据えた考えに、国を護る騎士としても俺は未熟だと思ったさ」

「・・・団長さん?私はそれよりも女としてアナスタシアさんが苦渋の決断をしたのだと思いますよ。愛した人の子供を産みたくても産んであげられない。それって女として本当に辛いことなんですから」


愛した人の子供を産めない。次世代に残せない。何よりもにしてあげられない───それは女にとってとてもつらい事だ。

子供を産み、愛した人との証をこの手に抱きたい。

その想いで狂おしい程悩む女性がどれだけいる事か。

団長さんは、足を止め、私をじっと見つめた。
その瞳は真剣で、私の心の奥底を覗き込んでくるようだった。


「・・・お嬢は、不思議な女だな。その姿で、子供なのに、まるで歳上の女に諭されているような気がする」

「そうですか?」

「ああ、アナスタシアが全力を傾けようとする訳だ」

「は?」

「アナスタシアは、お嬢の事を聞いてからずっとお嬢の身を気にしていたんだ。どうしたのかと聞くと、アナスタシアは晴れ晴れとこう答えたよ。『ようやくわかった、私の護るべき者が何か』ってな」

「どういう事ですか?」

「さあな?俺にはわからん。わからなかった。だが、合点がいった気がする。アナスタシアは『お嬢を護るため』に強くなったのかもしれないってな」

「そ、それは言い過ぎなんじゃないですか?だって私は普通の人間で、変わった事なんて何一つ」


さあな、とニヤリと笑う団長さん。
いやいやいや、本当にそれはないでしょ?だってアナスタシアさんが私を護るために強くなったって、いったい何のために?って思うじゃない?

異世界から人が来る、なんて事を知っていたとでも言うの?そんなのある訳ないし。





********************





話をしながら回廊を抜ける。そこには大きく開けた広場。
そこには整列した騎士達が。総勢30名くらい?

正装の鎧姿ではなく、藍色の動きやすそうな上下の揃いの衣装に身を包む騎士達。年齢層は10代から30代の男性が揃っていた。


「えー、えと、あれって・・・」

「俺の部下達だな。隊長連中はいないみたいだが、哨戒当番に入っていない奴等が揃ってるな」


部下達、って事は近衛騎士って事ですか?
エリート中のエリートさん達なのでは…


「おい、アナスタシア様が相手か・・・」
「これはもう夜飯は諦めた方がいいな・・・」
「いや、わからんぞ、クレメンス団長がいるから止めてくれるかも」


なんか物騒な会話が聞こえてきますが大丈夫ですか?
私は団長さんを見上げ、アイコンタクトを試す。

団長さんはパチン、とウインクするとアナスタシアさんに向けて声をかける。


「アナスタシア、始めていいぞ。あまり張り切りすぎないようにな」

「愚問だな、フリードリヒ!私が教練で手を抜くとでも思っているのか!?」

「あー、こりゃ無理だな。お前ら死ぬなよ、死んだら骨は拾ってやるからな」

「団長!そんな事言わずに!」
「途中参加してくださいよ!」
「アナスタシア様を止められるのは団長だけなんですから!」
「ていうか、その可愛らしい方は誰ですか?」

「貴様等、私の可愛い姫に色目を使うとは許し難い!全員立てなくなるまで相手をしてやるから光栄に思うがいい!」

「「「うああああああ」」」


アナスタシアさんは私を振り返り、『私の応援をよろしくな』と爽やかな笑顔を振りまいた。

…ぐうかわな笑顔は嬉しいんですがね…?
うーむ、そっと騎士さん達に回復魔法ヒール飛ばすのはアリかなぁ?

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