【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ

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くもりのち……?

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   期待と不安。安心と憂慮。正反対の感情が交互に俺を支配する。
 文化祭当日は寝不足で、よく朝起きて学校に行けたなと思うほどだった。というのも、案の定、舞台の準備が計画通りに終わるはずもなくて。学校の消灯時間が来るまでクラス総出で衣装や道具の準備を進めたが、まぁ終わらなかった。他のクラスに勝ちたいという競争心が衣装と小道具のクオリティを上げていく。結局、各々が間に合ってない衣装の生地や段ボールを持ち帰って宿題という形で工作に勤しむ羽目になったのだ。俺は昨日まで構成にすらなかった紙吹雪を作ってほしいと頼まれてひたすらに紙を切った。あと数日早かったら絶対ネットで買えたのに。
 あくびを何度も噛み締めて開会式で何度も練習したであろう応援団の団員による漫才を見た。他にも各部活のカウントダウン動画や開幕の宣言と共に軽音部のミニライブもあったが、オリジナリティを出そうとして迷走したまま終わったあの漫才に俺は全てを持ってかれていた。ちなみに去年の文化祭も恒例の応援団員による滑りまくった漫才の記憶しか持ち合わせていない。

 二年の出し物は一時間後の十時半から順次始まる。俺たちクラスの『好きピの為に死ぬのとか、究極の愛すぎる~ロミジュリに捧ぐ~』は三公演目で、開会式が終わったらクラスから体育館までを何度も往復して道具を運び込む。他のクラスは準備を終えているところもあるが、ギリギリまで調整を加えた我らはひっきりなしに動いていた。
『出演者と衣装担当はクラスに戻って着替えとメイク。小道具と照明、音声担当は体育館に残って最終調整。その他の裏方は着替え次第看板持ってビラ配って宣伝宜しく』
 テキパキとした委員長内田くんの指示に慌ただしくみんなが動く。取り残されなように誰かのあとについていく。
「桜宮くん!ごめんクラスTなんだけど、大道具と一緒に体育準備室に置いてきちゃってさ、男子全員分置いてあるからそこで着替えてもらってもいい?あそこうちのクラスが勝ち取ったから他のクラスの子入って来ないと思う!他の男子にも伝えといて!」
 すれ違い様に半ば叫ぶように伝えられて、手当たり次第近くにいたクラスメイト数人に声をかけ共有する。あとは内田くんに伝えようと体育館に戻ると既に照明は消されていて、観客も半分くらい入っていた。もうすぐ一組目の三組の演目が始まるのだろう。急いで準備室に入って数人のクラスメイトと話しながら狭い空間でなんとか着替えを済ませた。とにかく物が多くて脱ぎ着をしただけで何か落ちたような音はするし何か踏んでしまったような音もする。
「なあ桜宮、これって競技な訳?」
「これって?演劇のこと?」
 確か野球部の函館?みたいな名前のやつに話しかけられた。坊主だから部活は間違っていないはずだ。まぁうちの男子バレー部もなぜか全員丸刈りなのだが、なんとなく雰囲気でどちらかの分別はつく。野球部は部活優先で文化祭の準備等に一切関わらせてもらえない。だから今日が初めてクラス行事に関わることになるのだ。
「そー。勝ち負けとかあんのかな」
「んー勝ち負けじゃないけど、優秀作品賞とか観客がどの演目が一番面白かったか決める観客賞とか、主演賞とかあるっぽいよ」
 そもそも函館(そう呼ばせてもらう)くんが演劇に興味があるのかもわからなくてどんな説明をしたら良いのかわからなかった。
「へぇ。アカデミー賞みたいな感じか」
 アカデミー賞、知ってるんだ。出かかった言葉を飲み込んで、「うん」とだけ答えた。
「じゃあ、俺たち集客に命かけなきゃな。メガホン部室から持ってこようかな。まぁ主演がみんなのアイドル山田さんとあのやべーイケメンな久遠だもんなぁ。こんなの俺たち一組の優勝決まってるようなもんだよな」
「まぁ、確かに。そうかも」
 ギャルマインドなジュリエットがどこまで受け入れられるかにかかっているけれど。
「あ、お前ネックレスつけてんの?」
 言われて急いで服の中にしまった。どこか隠すように。
「え、何、変?」
「変とかじゃないけど、意外?桜宮って大人しいイメージだったからアクセサリーとか好きなんだなって思った」
「別に……貰い物だし」
「へぇ彼女?」
「カッ」
 声にならなかった鳴き声をあげると函館はおかしそうに笑った。
「そんな挙動不審にならなくてもいいだろ。普通にシルバーのリングつけてたら名探偵じゃなくたって推理できるって」
 そんなに怯えることないだろってさらに笑われ、俺は急激に上がった心拍数を通常に戻すのに必死だった。
「別に詮索するのとか趣味じゃねぇから安心しろって。で、それ彼女とお揃いなの?」
「おい」
 二言目にそれかよって睨みを効かせれば函館はもうお腹を抱えて笑っていた。
「ははは、だから冗談だって」
 集客頑張ろうぜとドン、と背中をたたかれて俺はそのまま前の棚にぶつかった。函館も俺も目を丸くして驚いた。その貧弱さに。それから笑って準備室を出た。
 
 演目が始まる十五分前にビラ配りを終えて体育館の舞台裏に集まった。客の入れ替え時間で騒ついた館内ではあったが、ここが一番騒ついていたと思う。着替えを終えた藍達が多くの人に囲まれていた。その群れに入っていくことはできなくて暗がりの中少し背伸びをしてその姿をよく見ようと必死になった。
「ヤベェな山田さん。すげぇ可愛い」
 タッパのある函館がしみじみと感想を述べる。
「ねぇ、藍見える?」
「久遠?今女子にサイン求められてる。同じクラスなのに変なのっつうかそれが許されんなら俺は山田さんにサイン書いてもらいてぇ。あ、写真がいいかも」
 状況だけは掴めた。まぁこれから舞台袖という特等席で藍を見ることができるわけだし、函館の感想で我慢する。明日は開放日でさらに客が増えるだろが、絶対に正面から見たい。
 それから程なくしてブザーが鳴る。放送部によるアナウンスの後、静かに幕が上がった。照らされた無人の舞台に語り手の大きく伸びのある声が響き渡る。
 トン、と肩に何かが触れた。
「あ、ごめん。じゃまー」
「うた」
 小さな声で名前を呼ばれた。絵画や映画で見たことのある衣装を着こなして、メイクでいつもの倍暗闇で輝く藍がすぐそばに居た。
「なぁ、どう?これ」
「十四世紀から飛び出してきたかと思った」
「はは、なんだよそれ。セリフ飛ばしたら笑って」
「藍本番に強いって俺知ってるから。大丈夫」
 少しぎこちない笑顔に俺はそう伝える。藍が意外と緊張しがちなのも知っているから、冷たくなっている手も握った。
「ちゃんと見てる。藍のこと見てるから」
「うん。頑張る」
「頑張って。応援してる」
 語り手が場を温め、大道具が動く。一回、藍に強く握り締められた指先が離れていく。仮面をつけた藍が、光の中で歓声を浴びた。

 手に汗握るという言葉はこういう時に使うのだろう。藍の一挙一動に目が離せない。仮面舞踏会でロミオが一度仮面を外したとき、全ての音が消え去った。遅れてやってきた黄色い悲鳴は耳をつんざくようでジュリエットに思いを寄せる様に皆息を呑む。この演技を見てここにいる誰もが、こんな綺麗な人に一途に愛されたら誰だけ良いかと妄想に耽るだろう。
 あぁ、俺がジュリエットじゃなくてよかった。この美しい恋が悲劇で終わってしまうから。藍がロミオじゃなくてよかった。ジュリエットのように一目でロミオを射抜くことはできないから。
 俺が女だったら良かった。そしたら堂々とスポットライトの下藍の隣に立つことができただろう。俺が女でなくても、ロミオとジュリエットのように互いを愛し通す勇気があれば。幼馴染から一歩踏み出す勇気があれば。
 踏み切れない弱さと保身に走ってしまう臆病さに押し潰されて頭の中で堂々巡りしている気持ちに終止符を打ちたい。
 今の時代、階級の差も血統も関係ない。自由恋愛が認められている。ロミオとジュリエットに比べたら俺の迷いなどどれほど小さなものであろうか。光の中にいる彼に手を伸ばして自分のものにすることだって禁じられていない。
 俺が告白をしたとして、今の俺たちの関係が崩れてしまうという恐怖に立ち向かう勇気はやはり俺は持ち得ていない。けれど、一人じゃない。藍がいる。藍を信じればいいのだ。
 気づいたら首元を触っていた。
 あるはずの金属の感覚がそこにはない。
 途端に呼吸が乱れる。景色がぼやける。音が遠ざかっていく。
 鈍い歓声が、ゆっくりとお辞儀をする二人が、霞む。
 藍が舞台袖に戻ってくる。息ができない。
 誰かが俺の名前を呼んだ。こちらに伸びてくる手の先を拒絶するように俺は暗闇の中を走り出した。俺を呼び止める声は女子の歓声に飲み込まれていく。差し出された指先までもが埋もれていく。

 いつだろう。いつ、どこで無くしたのだろう。
 準備室だろうか。函館にネックレスを見られたということは、その時はまだあったということだ。ただ、Tシャツの中に隠したはいいものの、下はガラ空きだからもし、チェーンが壊れでもしてたらビラ配りの時の可能性もある。函館と一緒に回っていたが、あいつめっちゃ動くから、体育館の周りから校門、校舎の一階から四階まで全部徘徊する羽目になったのだった。
 急いで準備室に戻って着替えた場所を探す。適当に畳んだワイシャツの隙間に入ってないかとか、運よく棚に置いてないかとか、床に転がってないかとか、膝も両手も床について低姿勢で這いつくばってみたけど煌めくものは一つもない。
「わ、サクラちんじゃん!どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「この体勢でなんでもないは怪しすぎるって」
 会話しているほどの余裕はなかったし、平澤さんに事情を説明している暇もない。
「ごめん、ちょっと探し物。ここなさそうだから他当たってみる」
「ん?そお?あ、もう大道具片付けてるからここいっぱいになっちゃうよ。見つかってないなら一緒に探すけど」
「大丈夫、全然、大したものじゃないし」
 拳を握りしめてこう答えた。不思議そうにいている平澤さんには申し訳ないけど彼女を置いて俺は準備室から出た。
「サクラちーん!クオンが探してるよ!」
「それもごめん!適当に言い訳して欲しいかも!」
 ここ最近で一番大きな声を出した。
 体育館の外へ出ても人混みで、もちろんそれぞれのクラスが配っているチラシやゴミが地面にたくさん落ちているし、どういうルートで、どの階段を上って下りてきたかとか覚えていない。
 楽しそうな声や音楽があまりに自分に合わなくてどうにかなりそうだった。
 あのネックレスは、もう自分の命なんかより価値があるものになってしまっていた。俺が藍の隣にいていい証だったし、俺の重い気持ちに応えてくれた証だった。あの日藍がくれた戦隊モノのティッシュみたいに心の柔らかい部分を覆ってくれる宝物だった。
 どうしよう。藍に合わせる顔がない。
 いつの間にか三階に設置されている渡り廊下に出てきてしまっていた。ビラ配りで渡った記憶はないが、まだ夏の匂いが残る空気を吸って呼吸を整える。手摺にもたれて下を見れば、中庭で藍の撮影会が開催されていた。皆がカメラを愛に向けている。きっとすぐにSNSにアップされて明日の講演にはすごい人数の観客が押し寄せるだろう。俺と同じ裏方Tシャツを着た女子がテキパキと列を作らせているし、あ、藍が山田さんと手を繋がされた。
「はぁー」
 深いため息と共にこのまま沈んでしまいたかった。藍と一緒になれるなら毒だって飲めるし、短剣で自分を刺して死ぬことだって厭わない。こうやって遠くから藍を見ているだけだったらどんなに楽だったか。片思いで一喜一憂して満足できていたら苦しみは少なかったはずだ。でも、藍が他の誰かと仲良くして愛想振りまいているのを見ていられないくらい、藍のことが好きだから。幼馴染なんかじゃいられないから。
 教室棟に戻ってまた一から地面を見て回った。

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