英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

6話 一人目の英雄(挿絵あり)

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 光の世界の中に、ぼんやりと扉が浮かび上がってきた。

「な、なんなんだこれ……」

 地面は見えないが、しっかりと踏み出すことができた。

 訳も分からずとりあえず扉へ数歩進んだところで、何やら薄い板のようなものが目の前に浮かび上がってきた。


 上にデカデカと〈英雄を選択してください〉と書かれている。

 その下には検索バーがあり、触れるとかつて見慣れた入力用キーボードが浮かび上がった。

 どうやらこの場所で召喚する英雄を決め、あの扉から出るのだろう。全く、なんでもありか。

 初めの一人。この選択はこの世界での私の今後を大きく左右するだろう。

 この世界を生き抜くのに、自身の魔力という戦闘力がないのは厳しい現実だ。であれば、自身の護衛となる人物がいい。

 そして今後の私を助けてくれるような、そう、父にとってのアルガーのような。副将に徹した強豪。

 答えはすぐに思い浮かんだ。




 私はキーボードに触れ、その人物の名前を入力した。

土方歳三ひじかたとしぞう

 新撰組、鬼の副長 土方歳三。

 幕末の志士として彼の名を知らない人は居ないだろう。

 彼の剣術は『武術英名録』に記載されるほどのお墨付きだ。それに加え西洋軍学にも精通しており、旧幕側が敗走を続ける中、歳三率いる部隊だけは勝利を重ねるなど、新しい考え方にも柔軟に対応して成果を上げた。

 その革新的な発想力と個の力。両方を兼ね備えた土方歳三ならばきっと私の力になってくれるに違いない。

 そう期待を膨らませながら扉をそっと開けた。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 しかし、扉の向こうは元の世界などではなかった。

「どうなってるんだこの空間は……」

 真っ白に浮かぶ扉の先には、畳と障子で仕切られた部屋だった。慌てて後ろを振り返ったが、来たはずの扉は襖になっていた。

 恐る恐る前の障子を開けた。そこには一人の男が座っていた。

「あ、あなたが土方歳三ですか……?」

 そう声をかけると、筋の通り整った顔立ちをした男が顔を上げた。


「その通りだ。俺は新選組副長、蝦夷島政府陸軍奉行並、土方歳三だ。あんたは?」

「私はレオ=ウィルフリードと申します。あなたを召喚した者です」

「ほう?変わった名前だな。あんたはどう見ても日本人だが……」

 不思議に思い自分の両手を見ると、それは六歳のものではなく、血管の浮かび上がった成人男性のものだった。

 服装も貴族の着るようなものではなく、かつて会社に着て行っていたスーツだった。

 ここは実態の持たない精神の空間とでもいうのだろうか。

「それに今「召喚した」と言ったか?……確かに俺は新政府軍との戦いに破れ死んだはずだ……」

「実はこれには深い訳がありまして───」

 私はこれまでの事を土方歳三に伝えた。

 明治より後の日本から異世界に転生したこと。『英雄召喚』というスキルを使ったということ。そして彼を選んだ理由について。

「ほう、それで俺はあんたに仕えるために呼び起こされたということか」

 土方は口角を上げて続けた。

「よし、その話に乗らせてもらうとするか」

「本当ですか!?」

  あまりの快諾に私の方が驚いてしまった。

「あァ。だが、その前に一つ聞かせて欲しいことがある」

「な、なんでしょうか?」

「俺が死んだ後、日本はどうなった?そして蝦夷は……?」

 どこまで彼に伝えるべきか逡巡した。彼らの悲願である蝦夷共和国はならずして終わった。それに、日本は第二次世界大戦で……。

 だが、隠し立てするのも気が引けた。自分に仕えてくれるという彼の義に反することになる。

 私は土方に、日本の全てを伝えることにした。

 旧幕府側は完全に敗れ去り、新政府が興ったこと。そしてその後、日清戦争や第一次世界大戦に参戦した日本は戦勝国として発展していったこと。

 ……そして、多大な犠牲を払った上で、第二次世界大戦に敗北したこと。

 私が話している間、土方は目を瞑り黙って俯きながら耳を傾けていた。

 そしてゆっくりと、口を開いた。

「それじゃあ、蝦夷、……いや、北海道はまだ日本なんだな?」

「はい、確かに日本の領土ですです」

「そうか……」

 土方の表情が変わる。鋭い眼光で私を見つめる。

「なら思い残すことはないな。今度はこの世界であんたと共に戦うのもいい暇つぶしになりそうだ」

「土方さん!」

  私は思わず感動からそう叫んでしまった。

「やめてくれ、今からあんたは俺の主なんだろ?俺のことは歳三と呼べばいい」

 そう言いニカッと笑う彼は、後世にもよく聞く美男子そのものだった。

「それで、あんたはこの世界でなにを目指すんだ?」

 自分が目指すもの。それは考えてもいなかった。自分が生き抜くため、欲を言えば両親から受け継ぐこの領地を守るためにはどうするかばかり考えていた。

「俺の主なら、自分の国を作るぐらいの気概がなけりゃあな?」

「自分の国……」

 歳三は私に、自分の夢を託したいのかもしれない。

「まァ、これからの事はゆっくり考えればいいさ。なんせあんたはまだ六歳なんだろ?」

 そう笑う彼の姿を見ると、人たらしとはこういう人物を言うのだと思った。

「おっと、そろそろ時間みたいだな」

 そう言うと歳三は立ち上がり、後ろの障子を開けた。あの白い光が部屋に差し込んでくる。

「さぁ行こうかレオ」


 初めて名前を呼ばれ少し驚いている私の手を引き、歳三は光の方へ飛び出した。
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