デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

文字の大きさ
23 / 60
第一部 始動

第21話  さらに正体をあらわす者

しおりを挟む
 ――――――――――――――――

 残り時間――8時間29分  

 残りデストラップ――9個

 残り生存者――10名     
  
 死亡者――2名   

 重体によるゲーム参加不能者――1名

 ――――――――――――――――


「も、も、もう……もう……や、や、や、やめてーーーーーーっ!」

 甲高い悲鳴じみた叫び声があがった。この場の緊張感に耐えられなかったのか、叫んだのは薫子だった。それによって一気に場の流れが変わった。

「うるせんだよっ!」

 ヒロユキが薫子に銃口を向けた。それを目で確認した薫子が、さきほどとは比べ物にならないくらいの絶叫を上げた。

「やめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!」

「そんなに怯えているなら丁度いいぜ。お前を人質にして、この危機を乗り切ってやる」

 完全に攻守が逆転していた。ヒロユキは勝ち誇った表情を浮かべている。対して、瓜生は苦い表情である。

 その理由がスオウにはよく分かった。瓜生は自分に対してのことならばいくらでも強気に出られるが、女性が危険に晒されている状況では、自分から動くことが出来ないのだ。

 ヒロユキが銃を構えたまま薫子に近付く。

「ダメダメダメダメ……」

 お腹に両手をやって呪文を唱えるようにつぶやき続ける薫子。その態度は異様とも思えた。

「薫子さん、冷静になって」

 イツカが薫子に落ち着いた声音で声をかけた。

「ダメダメダメダメ……」

 薫子の耳には、しかしイツカの声は届いていないらしい。

 ヒロユキがさらに一歩近付こうとしたとき、薫子がなにかを覚悟したかのようにヒロユキの方に目を向けた。そして――。

「わ、わ、わたし……お腹に……お腹に……お腹に……赤ちゃんが……いるのぉぉぉーーーーーっ!」

 ホール中に響き渡るほどの大きな声で薫子が叫んだ。

 このゲームが始まってからというもの、スオウは幾度となく薫子の態度に違和感を抱いていた。その理由が今ようやく分かった。薫子は妊娠しているのだ。だからずっとお腹を気にして擦っていたのだ。

 なぜ妊娠しているにも関わらず、こんな危険なゲームに参加しているのか。そこまでの事情はさすがに分からなかったが、いずれにしても、それなりの事情があるのは間違いないだろう。

 問題はこの状況の変化にヒロユキがどう反応するかだ。

「けっ、妊婦かよ。なんで妊婦がこんなところにいるんだよっ!」

 ヒロユキはそう吐き捨てた。薫子に向けていた銃口は、心の動揺を表わすように揺れている。

「くそっ。お前じゃダメだ。かえって足手まといになる」

「――良かった」

 スオウは誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。ほっと胸を撫で下ろす。拳銃の恐怖が続いていることに変わりはないが、妊婦さんを危険な目に合わせるわけにはいかない。

 薫子に向けていた視線を瓜生の方に向けようとして、その男の顔を見て止まった。異常なくらいの据わった目で、じっと薫子を見つめているのだ。いや、より正確に言うのであれば、その視線はずっと薫子の腹部を凝視しつづけているのである。


 なぜだろう?


 スオウがそんな疑問を感じたとき、スオウの視線に気付いたのか、視線の主がこちらに顔を振り向けてきた。

 スオウとその男――瑛斗の視線が空中で交わった。だが瑛斗はすぐに視線を逸らせて俯いてしまった。薫子の方に視線を向けることもなかった。

 いささかの不自然さは感じたが、今は瑛斗に構っている暇はないので、瑛斗のことはいったん頭の中から排除した。

「この女がダメなら――」

 ヒロユキが他のゲーム参加者の顔を順番に見ていく。

「お前は止めとくか。気が強そうだからな」

 ヒロユキはイツカのことはスルーした。

「女で残っているのはお前だけだな」

 ヒロユキの視線が止まった先にいたのは愛莉だった。

「ほら、立てよ。オレと一緒にくるんだ」

 ヒロユキが銃口を愛莉に向けた。

「やれやれね」

 以外にも愛莉はサバサバとした態度だった。とても銃口を向けられているとは思えない。

「お前、いやに冷静だな。オレは本気なんだぜ」

「別にあんたが本気かどうかなんて気にしちゃいないから。だいたい、このメンバーを見たら、残っているのはアタシ以外いないからね。こうなると思っていただけのことよ」

 初めから愛莉は覚悟をしていたらしい。

「おい、その子を人質に連れていくなら俺を――」

「おめえは黙って引っ込んでろっ!」

「アタシは大丈夫だから」

 瓜生の心配する声に、愛莉は軽く応じた。

「そいつは拳銃を持っているんだぜ」

「それくらい分かってるわよ。でも撃たれると決まったわけじゃないでしょ?」

「オレは一度も撃たないとは言ってないぜ」

「じゃあ、アタシをその拳銃で殺して、あんたひとりきりになったらどうするの?」

「…………」

 愛莉の指摘に対して、沈黙で返答するヒロユキ。

「この際、あんたが逃走犯だろうが何者なんだろうが、アタシには関係ないから。アタシはこのゲームを勝ちたいだけなの。あんたの人質になったとしても、このゲームに勝てるのならば、それでオッケーなのよ」

「いい度胸してんな。そっちの女を選んだ方が良かったかもしれねえな」

 ヒロユキがイツカにチラッと視線を向けた。イツカは視線を完全に無視している。

「そっちの子が若いからって、今さら指名チェンジはないんじゃない」

「まるで指名の取れない売れないキャバ嬢みたいだな」

「だって実際キャバ嬢なんだから、しょうがないでしょ」

 まるで緊張感の感じられない二人のやりとりである。

「それじゃ、オレたちはここから別行動をさせてもらうからな。これでようやく空気の淀んだホールから出られるぜ」

 ヒロユキは銃口を振って愛莉にホールから出るように指示する。

「アタシは行くから。みんな、バイバーイ」

 愛莉は銃口を向けられているにも関わらず、軽い調子で残った参加者に挨拶をした。

 その姿を見て、瓜生は苦笑を浮かべている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...