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第一部 始動
第21話 さらに正体をあらわす者
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――――――――――――――――
残り時間――8時間29分
残りデストラップ――9個
残り生存者――10名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――1名
――――――――――――――――
「も、も、もう……もう……や、や、や、やめてーーーーーーっ!」
甲高い悲鳴じみた叫び声があがった。この場の緊張感に耐えられなかったのか、叫んだのは薫子だった。それによって一気に場の流れが変わった。
「うるせんだよっ!」
ヒロユキが薫子に銃口を向けた。それを目で確認した薫子が、さきほどとは比べ物にならないくらいの絶叫を上げた。
「やめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!」
「そんなに怯えているなら丁度いいぜ。お前を人質にして、この危機を乗り切ってやる」
完全に攻守が逆転していた。ヒロユキは勝ち誇った表情を浮かべている。対して、瓜生は苦い表情である。
その理由がスオウにはよく分かった。瓜生は自分に対してのことならばいくらでも強気に出られるが、女性が危険に晒されている状況では、自分から動くことが出来ないのだ。
ヒロユキが銃を構えたまま薫子に近付く。
「ダメダメダメダメ……」
お腹に両手をやって呪文を唱えるようにつぶやき続ける薫子。その態度は異様とも思えた。
「薫子さん、冷静になって」
イツカが薫子に落ち着いた声音で声をかけた。
「ダメダメダメダメ……」
薫子の耳には、しかしイツカの声は届いていないらしい。
ヒロユキがさらに一歩近付こうとしたとき、薫子がなにかを覚悟したかのようにヒロユキの方に目を向けた。そして――。
「わ、わ、わたし……お腹に……お腹に……お腹に……赤ちゃんが……いるのぉぉぉーーーーーっ!」
ホール中に響き渡るほどの大きな声で薫子が叫んだ。
このゲームが始まってからというもの、スオウは幾度となく薫子の態度に違和感を抱いていた。その理由が今ようやく分かった。薫子は妊娠しているのだ。だからずっとお腹を気にして擦っていたのだ。
なぜ妊娠しているにも関わらず、こんな危険なゲームに参加しているのか。そこまでの事情はさすがに分からなかったが、いずれにしても、それなりの事情があるのは間違いないだろう。
問題はこの状況の変化にヒロユキがどう反応するかだ。
「けっ、妊婦かよ。なんで妊婦がこんなところにいるんだよっ!」
ヒロユキはそう吐き捨てた。薫子に向けていた銃口は、心の動揺を表わすように揺れている。
「くそっ。お前じゃダメだ。かえって足手まといになる」
「――良かった」
スオウは誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。ほっと胸を撫で下ろす。拳銃の恐怖が続いていることに変わりはないが、妊婦さんを危険な目に合わせるわけにはいかない。
薫子に向けていた視線を瓜生の方に向けようとして、その男の顔を見て止まった。異常なくらいの据わった目で、じっと薫子を見つめているのだ。いや、より正確に言うのであれば、その視線はずっと薫子の腹部を凝視しつづけているのである。
なぜだろう?
スオウがそんな疑問を感じたとき、スオウの視線に気付いたのか、視線の主がこちらに顔を振り向けてきた。
スオウとその男――瑛斗の視線が空中で交わった。だが瑛斗はすぐに視線を逸らせて俯いてしまった。薫子の方に視線を向けることもなかった。
いささかの不自然さは感じたが、今は瑛斗に構っている暇はないので、瑛斗のことはいったん頭の中から排除した。
「この女がダメなら――」
ヒロユキが他のゲーム参加者の顔を順番に見ていく。
「お前は止めとくか。気が強そうだからな」
ヒロユキはイツカのことはスルーした。
「女で残っているのはお前だけだな」
ヒロユキの視線が止まった先にいたのは愛莉だった。
「ほら、立てよ。オレと一緒にくるんだ」
ヒロユキが銃口を愛莉に向けた。
「やれやれね」
以外にも愛莉はサバサバとした態度だった。とても銃口を向けられているとは思えない。
「お前、いやに冷静だな。オレは本気なんだぜ」
「別にあんたが本気かどうかなんて気にしちゃいないから。だいたい、このメンバーを見たら、残っているのはアタシ以外いないからね。こうなると思っていただけのことよ」
初めから愛莉は覚悟をしていたらしい。
「おい、その子を人質に連れていくなら俺を――」
「おめえは黙って引っ込んでろっ!」
「アタシは大丈夫だから」
瓜生の心配する声に、愛莉は軽く応じた。
「そいつは拳銃を持っているんだぜ」
「それくらい分かってるわよ。でも撃たれると決まったわけじゃないでしょ?」
「オレは一度も撃たないとは言ってないぜ」
「じゃあ、アタシをその拳銃で殺して、あんたひとりきりになったらどうするの?」
「…………」
愛莉の指摘に対して、沈黙で返答するヒロユキ。
「この際、あんたが逃走犯だろうが何者なんだろうが、アタシには関係ないから。アタシはこのゲームを勝ちたいだけなの。あんたの人質になったとしても、このゲームに勝てるのならば、それでオッケーなのよ」
「いい度胸してんな。そっちの女を選んだ方が良かったかもしれねえな」
ヒロユキがイツカにチラッと視線を向けた。イツカは視線を完全に無視している。
「そっちの子が若いからって、今さら指名チェンジはないんじゃない」
「まるで指名の取れない売れないキャバ嬢みたいだな」
「だって実際キャバ嬢なんだから、しょうがないでしょ」
まるで緊張感の感じられない二人のやりとりである。
「それじゃ、オレたちはここから別行動をさせてもらうからな。これでようやく空気の淀んだホールから出られるぜ」
ヒロユキは銃口を振って愛莉にホールから出るように指示する。
「アタシは行くから。みんな、バイバーイ」
愛莉は銃口を向けられているにも関わらず、軽い調子で残った参加者に挨拶をした。
その姿を見て、瓜生は苦笑を浮かべている。
残り時間――8時間29分
残りデストラップ――9個
残り生存者――10名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――1名
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「も、も、もう……もう……や、や、や、やめてーーーーーーっ!」
甲高い悲鳴じみた叫び声があがった。この場の緊張感に耐えられなかったのか、叫んだのは薫子だった。それによって一気に場の流れが変わった。
「うるせんだよっ!」
ヒロユキが薫子に銃口を向けた。それを目で確認した薫子が、さきほどとは比べ物にならないくらいの絶叫を上げた。
「やめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!」
「そんなに怯えているなら丁度いいぜ。お前を人質にして、この危機を乗り切ってやる」
完全に攻守が逆転していた。ヒロユキは勝ち誇った表情を浮かべている。対して、瓜生は苦い表情である。
その理由がスオウにはよく分かった。瓜生は自分に対してのことならばいくらでも強気に出られるが、女性が危険に晒されている状況では、自分から動くことが出来ないのだ。
ヒロユキが銃を構えたまま薫子に近付く。
「ダメダメダメダメ……」
お腹に両手をやって呪文を唱えるようにつぶやき続ける薫子。その態度は異様とも思えた。
「薫子さん、冷静になって」
イツカが薫子に落ち着いた声音で声をかけた。
「ダメダメダメダメ……」
薫子の耳には、しかしイツカの声は届いていないらしい。
ヒロユキがさらに一歩近付こうとしたとき、薫子がなにかを覚悟したかのようにヒロユキの方に目を向けた。そして――。
「わ、わ、わたし……お腹に……お腹に……お腹に……赤ちゃんが……いるのぉぉぉーーーーーっ!」
ホール中に響き渡るほどの大きな声で薫子が叫んだ。
このゲームが始まってからというもの、スオウは幾度となく薫子の態度に違和感を抱いていた。その理由が今ようやく分かった。薫子は妊娠しているのだ。だからずっとお腹を気にして擦っていたのだ。
なぜ妊娠しているにも関わらず、こんな危険なゲームに参加しているのか。そこまでの事情はさすがに分からなかったが、いずれにしても、それなりの事情があるのは間違いないだろう。
問題はこの状況の変化にヒロユキがどう反応するかだ。
「けっ、妊婦かよ。なんで妊婦がこんなところにいるんだよっ!」
ヒロユキはそう吐き捨てた。薫子に向けていた銃口は、心の動揺を表わすように揺れている。
「くそっ。お前じゃダメだ。かえって足手まといになる」
「――良かった」
スオウは誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。ほっと胸を撫で下ろす。拳銃の恐怖が続いていることに変わりはないが、妊婦さんを危険な目に合わせるわけにはいかない。
薫子に向けていた視線を瓜生の方に向けようとして、その男の顔を見て止まった。異常なくらいの据わった目で、じっと薫子を見つめているのだ。いや、より正確に言うのであれば、その視線はずっと薫子の腹部を凝視しつづけているのである。
なぜだろう?
スオウがそんな疑問を感じたとき、スオウの視線に気付いたのか、視線の主がこちらに顔を振り向けてきた。
スオウとその男――瑛斗の視線が空中で交わった。だが瑛斗はすぐに視線を逸らせて俯いてしまった。薫子の方に視線を向けることもなかった。
いささかの不自然さは感じたが、今は瑛斗に構っている暇はないので、瑛斗のことはいったん頭の中から排除した。
「この女がダメなら――」
ヒロユキが他のゲーム参加者の顔を順番に見ていく。
「お前は止めとくか。気が強そうだからな」
ヒロユキはイツカのことはスルーした。
「女で残っているのはお前だけだな」
ヒロユキの視線が止まった先にいたのは愛莉だった。
「ほら、立てよ。オレと一緒にくるんだ」
ヒロユキが銃口を愛莉に向けた。
「やれやれね」
以外にも愛莉はサバサバとした態度だった。とても銃口を向けられているとは思えない。
「お前、いやに冷静だな。オレは本気なんだぜ」
「別にあんたが本気かどうかなんて気にしちゃいないから。だいたい、このメンバーを見たら、残っているのはアタシ以外いないからね。こうなると思っていただけのことよ」
初めから愛莉は覚悟をしていたらしい。
「おい、その子を人質に連れていくなら俺を――」
「おめえは黙って引っ込んでろっ!」
「アタシは大丈夫だから」
瓜生の心配する声に、愛莉は軽く応じた。
「そいつは拳銃を持っているんだぜ」
「それくらい分かってるわよ。でも撃たれると決まったわけじゃないでしょ?」
「オレは一度も撃たないとは言ってないぜ」
「じゃあ、アタシをその拳銃で殺して、あんたひとりきりになったらどうするの?」
「…………」
愛莉の指摘に対して、沈黙で返答するヒロユキ。
「この際、あんたが逃走犯だろうが何者なんだろうが、アタシには関係ないから。アタシはこのゲームを勝ちたいだけなの。あんたの人質になったとしても、このゲームに勝てるのならば、それでオッケーなのよ」
「いい度胸してんな。そっちの女を選んだ方が良かったかもしれねえな」
ヒロユキがイツカにチラッと視線を向けた。イツカは視線を完全に無視している。
「そっちの子が若いからって、今さら指名チェンジはないんじゃない」
「まるで指名の取れない売れないキャバ嬢みたいだな」
「だって実際キャバ嬢なんだから、しょうがないでしょ」
まるで緊張感の感じられない二人のやりとりである。
「それじゃ、オレたちはここから別行動をさせてもらうからな。これでようやく空気の淀んだホールから出られるぜ」
ヒロユキは銃口を振って愛莉にホールから出るように指示する。
「アタシは行くから。みんな、バイバーイ」
愛莉は銃口を向けられているにも関わらず、軽い調子で残った参加者に挨拶をした。
その姿を見て、瓜生は苦笑を浮かべている。
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