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第五章:二強衝突、咸魚(しおづけうお)の平穏は霧の彼方へ
~私のために争わないで。……というか、外でやってくれません?~
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アルベルト公爵が我が家の応接間に居座り、熱心に「軍における効率的な昼寝の導入」について語り始めて三日が過ぎた。 彼は意外にも聞き上手(というか私の適当な返事をすべて深読みしてくれる)で、お土産に持ってくる隣国の高級茶菓子も絶品だった。
(((……まぁ、美味しいお菓子をくれるなら、隣に座って仕事しててもいいわよ……)))
私がソファでうとうとしながら、公爵が持参した最高級のフォンダンショコラを口に運んでいた、その時。
「ユーラリア! 助けに来たぞ! その冷酷な公爵から、今すぐ君を解放してやる!!」
爆音と共に、別荘の玄関扉が(またしても)勢いよく開け放たれた。 そこに立っていたのは、泥まみれの騎士服を纏い、剣を抜いたジークフリート殿下だった。彼の後ろには、困惑した表情の騎士たちがゾロゾロと続いている。
「……殿下。扉は、回して開けるものだと教わりませんでしたか?」
私はチョコレートを飲み込み、深いため息をついた。せっかくの甘美な休息が、物理的な騒音で台無しだ。
「ユーラリア! 無事か!? 隣国の『氷の公爵』が君を拉致し、我が国の軍事機密を吐かせようと拷問していると聞いた! 案ずるな、私が来たからには――」
ジークフリートの言葉が、途中で止まった。 彼の視線の先には、シャツのボタンを一つ外し、あろうことか**『人をダメにするクッション』に深く身を沈めながら、落ち着き払って書類に目を通している**アルベルト公爵の姿があったからだ。
「……拷問、か。王太子殿下、あなたの目は節穴か? 私は今、ユーラリア殿から『極限状態における精神の弛緩法』について、高度な講義を受けている最中だ」
アルベルトは眼鏡をクイと押し上げ、氷のような視線をジークフリートに向けた。
「講義……? どう見ても、二人で茶をしばきながらダラダラしているようにしか見えないが!」
「それが君の限界だ、ジークフリート殿下。ユーラリア殿のこの『無』の境地……これこそが、戦場における兵士の生存率を上げる鍵なのだ。君には、彼女の深遠な戦略が理解できないのか?」
(((……いや、殿下の方が正しいわよ。正真正銘、ダラダラしてるだけだもの)))
「黙れ! ユーラリアは私の婚約者だ! 返してもらおう!」
「『元』だろう。君が捨てた宝を、私が拾い上げた。それだけの話だ」
「なっ……貴様、宣戦布告か!?」
二人の間でバチバチと火花が散る。応接間の温度が、殺気で五度くらい下がった気がする。 (((ああ……もう……。うるさすぎるわ……)))
私はゆっくりと、本当にゆっくりと、クッションの中から這い出した。 そして、二人の間に割って入る……のではなく、窓際にある「特等席」のカーテンを勢いよく閉めた。
「あの……お二人とも。争うのは勝手ですが、私の『二度寝の呪い』がそろそろ限界ですわ。魔力が暴走して、この別荘ごと爆発してもよろしいのかしら?」
私はあえて、目の下のクマを強調するように影を作り、低く冷たい声を出した。
「ヒッ……!? ユ、ユーラリア、顔が怖いぞ!」
「……すまない、ユーラリア殿。君の休息を妨げるのは、国家的な損失だったな」
二人は一瞬で静まり返った。 私は満足げに頷くと、再びソファにダイブし、毛布を頭から被った。
「結論を言いますわ。殿下、私は絶対に王都へは戻りません。あそこは朝が早すぎます。……公爵様、クッションの輸出は許可しますが、私は働きません。……お分かりいただけたら、今すぐ、一歩も音を立てずに、つま先立ちで帰ってください。さもなくば――」
私は毛布の中から、そっと人差し指だけを出した。その先に、パチパチと小さな電撃(静電気レベルだが、二人には高位攻撃魔法に見えたらしい)を灯す。
「「……失礼いたしました」」
二人の英雄(一人は自称)は、驚くほど静かに、忍び足で応接間を去っていった。 ……ふぅ。これでようやく静かになる。
(((……さて、チョコの続きを食べてから、もう一回寝ようかしら)))
しかし、この日の出来事が「二つの国の権力者を跪かせた、影の支配者・咸魚令嬢」という新たな伝説として、尾ヒレを付けて大陸全土に広まっていくことを、私はまだ夢にも思っていなかったのである。
(((……まぁ、美味しいお菓子をくれるなら、隣に座って仕事しててもいいわよ……)))
私がソファでうとうとしながら、公爵が持参した最高級のフォンダンショコラを口に運んでいた、その時。
「ユーラリア! 助けに来たぞ! その冷酷な公爵から、今すぐ君を解放してやる!!」
爆音と共に、別荘の玄関扉が(またしても)勢いよく開け放たれた。 そこに立っていたのは、泥まみれの騎士服を纏い、剣を抜いたジークフリート殿下だった。彼の後ろには、困惑した表情の騎士たちがゾロゾロと続いている。
「……殿下。扉は、回して開けるものだと教わりませんでしたか?」
私はチョコレートを飲み込み、深いため息をついた。せっかくの甘美な休息が、物理的な騒音で台無しだ。
「ユーラリア! 無事か!? 隣国の『氷の公爵』が君を拉致し、我が国の軍事機密を吐かせようと拷問していると聞いた! 案ずるな、私が来たからには――」
ジークフリートの言葉が、途中で止まった。 彼の視線の先には、シャツのボタンを一つ外し、あろうことか**『人をダメにするクッション』に深く身を沈めながら、落ち着き払って書類に目を通している**アルベルト公爵の姿があったからだ。
「……拷問、か。王太子殿下、あなたの目は節穴か? 私は今、ユーラリア殿から『極限状態における精神の弛緩法』について、高度な講義を受けている最中だ」
アルベルトは眼鏡をクイと押し上げ、氷のような視線をジークフリートに向けた。
「講義……? どう見ても、二人で茶をしばきながらダラダラしているようにしか見えないが!」
「それが君の限界だ、ジークフリート殿下。ユーラリア殿のこの『無』の境地……これこそが、戦場における兵士の生存率を上げる鍵なのだ。君には、彼女の深遠な戦略が理解できないのか?」
(((……いや、殿下の方が正しいわよ。正真正銘、ダラダラしてるだけだもの)))
「黙れ! ユーラリアは私の婚約者だ! 返してもらおう!」
「『元』だろう。君が捨てた宝を、私が拾い上げた。それだけの話だ」
「なっ……貴様、宣戦布告か!?」
二人の間でバチバチと火花が散る。応接間の温度が、殺気で五度くらい下がった気がする。 (((ああ……もう……。うるさすぎるわ……)))
私はゆっくりと、本当にゆっくりと、クッションの中から這い出した。 そして、二人の間に割って入る……のではなく、窓際にある「特等席」のカーテンを勢いよく閉めた。
「あの……お二人とも。争うのは勝手ですが、私の『二度寝の呪い』がそろそろ限界ですわ。魔力が暴走して、この別荘ごと爆発してもよろしいのかしら?」
私はあえて、目の下のクマを強調するように影を作り、低く冷たい声を出した。
「ヒッ……!? ユ、ユーラリア、顔が怖いぞ!」
「……すまない、ユーラリア殿。君の休息を妨げるのは、国家的な損失だったな」
二人は一瞬で静まり返った。 私は満足げに頷くと、再びソファにダイブし、毛布を頭から被った。
「結論を言いますわ。殿下、私は絶対に王都へは戻りません。あそこは朝が早すぎます。……公爵様、クッションの輸出は許可しますが、私は働きません。……お分かりいただけたら、今すぐ、一歩も音を立てずに、つま先立ちで帰ってください。さもなくば――」
私は毛布の中から、そっと人差し指だけを出した。その先に、パチパチと小さな電撃(静電気レベルだが、二人には高位攻撃魔法に見えたらしい)を灯す。
「「……失礼いたしました」」
二人の英雄(一人は自称)は、驚くほど静かに、忍び足で応接間を去っていった。 ……ふぅ。これでようやく静かになる。
(((……さて、チョコの続きを食べてから、もう一回寝ようかしら)))
しかし、この日の出来事が「二つの国の権力者を跪かせた、影の支配者・咸魚令嬢」という新たな伝説として、尾ヒレを付けて大陸全土に広まっていくことを、私はまだ夢にも思っていなかったのである。
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