婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの

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馬車から降りると別世界でした

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「お嬢様、馬車に乗って移動をしましょう」


 私の侍女をしてくれていたミリーが言った。

「ねぇ、ミリー私はもうお嬢様じゃないんだからアリスって呼んでくれない?」

 私は伯爵家の令嬢じゃなくなったのだからお嬢様と呼ばれるのには抵抗があるわね。服もシンプルなものを選んだけれど、マントを被っているのも目立つみたい。


「お嬢様、それはミリーには酷というものですよ」

 執事をしてくれていたショーンが言った。


「ショーンも私のことはアリスって呼んでね」
「いえ、無理ですね。お嬢様は一生お嬢様です」

 キッパリと断られてしまった。そして考えた……そうだ!


「それなら、グレマンへ着くまで私達は兄妹と言うことにしない?」


「「はぁ?」」

「だって、そうじゃないとおかしいもの。私はお兄さんとお姉さんと旅に出たの。どう、この設定? ショーン兄さんにミリー姉さんと呼ぶわね! 年下の私が二人を呼び捨てにしているのはどう考えてもおかしいものね」



 二人はううむ。と考えるがその設定を受け入れることにした。旅では何があるかわからない。確かにお嬢様と呼ぶと金になると思われ、狙われるかもしれない。それは困る。


「「分かりました」」

 二人は渋々という感じで返事をした。


「敬語もなしよ? 兄妹の末っ子に敬語を使うなんてあり得ないもの。せめて道中は楽しみましょう、ね!」


 兄弟と言う設定を考えるあたり、この旅路を楽しんでいるのだろう。そう思うとアリスの意見を無視するわけにはいかない。


「分かった。敬語もやめるしアリスと呼ぶことにしよう」

 ショーンは覚悟した。

「ショーンがそう言うなら、失礼を承知で私も協力するわ」


 ミリーも覚悟した。


「ありがとう二人とも。さぁ行きましょう」

 馬車は伯爵家以外のものに乗った事がなかったので、一人でグレマンに行くとなると途方に暮れていた事でしょう。どこかで傭兵を雇ってグレマンまで同行してもらうか、しばらくホテル暮らしをしながら情報を集めるか……


 グレマン領までは辻馬車を乗り継ぐことにした。ここはまだ王都に近くそういった馬車もあるので次の町までは安心。ショーンが調べてくれて、辻馬車と長距離移動の馬車などを乗り継げば、グレマンまで辿り着く事が出来るようだ。

 流石に野宿はさせられないから宿に泊まる必要がある。と言い、少し遠回りになるらしいがルートが決まった。

 家から持ってきたシンプルなワンピースは、あくまでも貴族の中でシンプルなだけで平民が着るには上等すぎるのだそうだ。道中金品を狙って襲われても困るので、この町で平民用のワンピースとブーツを購入する事にした。一枚ワンピースを売るだけでも新しいワンピースやブーツを買ってもお釣りがくるみたい。

 私が持ってきた身の回りのものはお父様に買ってもらったものばかりだから、勝手に売るのは忍びないけれど、理由を言ったら笑って許してくれそうね。もちろん大事なものは売るつもりはない。町娘風のワンピースに着替えて町を散策していた。

「わぁ。美味しそう! 初めて見るわ。甘い香りがするわ」

「お嬢さん、これはクレープと言って小麦粉を原料にして薄く焼いた皮にフルーツや生クリームを付けて巻いて食べるものだよ。若者はみなこれ目当てに来るんだ。お嬢さんは違うのかい?」


 市民の間で流行っているのね。食べてみたいけど……ショーンとミリーを見る。


「妹が物欲しそうにこっちを見ている。兄さん、一つ作ってくれ、アリスはどれが欲しいんだ?」

 やった! イチゴにオレンジにバナナにチョコソース……悩むわ。でも……


「イチゴが良いわ」


 クレープの作り方を観察していたら、あっという間にくるくると巻かれて手渡しされた。

 それを手に取りまず首を傾げる。


「ショーン兄さん、これって一体どうやって食べるの? 座る場所もないしフォークとナイフもないわよね」


「お嬢、いやアリスこれの食べ方は……見本を見せよう。兄さん悪いが同じものをもう一つ作ってくれ」


 そう言ってもう一つクレープを頼み、出来上がったものはミリーが手に取った。ミリーの食べ方を真似するのね。え! 立ったまま口に入れた。歯形がついても失礼ではないの? え? 歩きながら食べてもマナー違反ではないの?

 驚きの連続だった。恐る恐るクレープを口に入れる。


「甘くて美味しい……でも歩きながら食べるのはやはり難しいみたい」

 頬張る時は立ち止まり、もぐもぐと口を動かしながら歩く。そしてまた立ち止まる。の繰り返し。道ゆく人たちは平然とやってのけるのに……今にも人にぶつかりそうだ。難易度が高い食べ物だわ。


「アリスには縁のない場所だったからしょうがないよな、あそこの木陰に行こうか? ベンチもあるしゆっくり食べると良い」

 ミリーとベンチに座りゆっくりとクレープを噛み締めた。

 屋台と呼ばれる店がたくさんあり、人が多い。そしてみんな食べ歩きをしている様子がわかる。今まで学んできた食事のマナーは、楽しく美しく優雅に。という事だったのにここでは皆がそれぞれ食べ歩きを楽しんでいて皆んなが笑顔だった。あんな事がなかったら知らなかった世界ね。



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