婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの

文字の大きさ
8 / 93

次の町は絶景でした

しおりを挟む

 少し遠回りするルートだと聞いていたけれど、まさか山を越えるだなんて思わなかった。そして脱輪して馬車から降ろされ、男性は皆馬車を押してなんとか脱出する事ができた。先月の長雨で道が悪くなったようで、坂道を1キロほど皆で歩く事になった。ブーツで良かった。いつものようにヒールの靴だとこんなに歩けないもの。


 自力で山を歩くなんて初めての体験で、暑くなってきて汗も流れたし息も辛かったけれど、小高い場所に着くと街が一望出来て風も涼しくてこれは絶景と言わざるを得ない。

 自分の足で辿り着いたのだからなおのこと感無量だった。


「流石にうちは見えないわねぇ」

 王宮もマメのようにしか見えない。あと数日でお兄様が帰ってくるわよね? その後にはお父様とお母様も。今頃王都はどうなっているかしらね?




******


「それでフェリクス殿下は何もせずに、アリスちゃんを帰してしまったの!」

 王太子妃アルミナからの口調はキツいものだ。

「フランツ殿下にはガッカリですわ!」

 第二王子の妃ニコラが言った。

「新たな婚約者がブラック伯爵家の親戚筋の養女? なんて事でしょう。王妃様が聞いたら……ねぇ皆様」

 第四王子の婚約者ララが少し怯えるように言った。


「フェリクス様にもお考えがあるのですわ。アリスちゃんの身を案じて別の場所に行くようにと言ったのです。あの場でうまく纏めたとわたくしは思いますわ。ね、フェリクス様何か考えがあるのですわよね」

 第三王子、私の婚約者のシャロンだ。


「クレマン子爵の嫡男と言うのは、フランツの相手レイラという男爵令嬢が嫁ぐ予定の家だった。クレマンへ行かせると言うのはおそらく男爵令嬢の代わりに嫁がせようとあのバカフランツは思ったはずだ。クレマン家からしたら敬愛するブラック家と縁がつなげるのなら喜んでと婚約するつもりだった。しかしブラック家の血を継ぐアリスに婚約者が変わったとなると、どうだろうか? の命令だと言われればそのまま結婚だ。しかもアリスは身分剥奪の上。となっている」


 ここで言うところの結婚とは純潔を奪われる。と言う意味だ。身分剥奪と言うことは自分が娶ってしまえば……と思うかもしれない。

 しかしでブラック家の娘ではない。での話。普通に考えればわかる事だ。

 しかし自分が助けてあげなくてはいけないなどと妙な正義感が前面に出ると……?



「まぁ! 最低じゃないですの!」
「そんなところにアリスちゃんを行かせてはダメよ」

 王太子妃と第二王子の妃は口を揃えた。


「えぇ、ですからグレマンと言ったのですよ。グレマン領は国境を守っている大事な砦と言っても過言ではありません。陛下からも一目置かれていますし、私も騎士としてグレマンへ何度も足を運びました。嫡男のアーネストに手紙を書きました。早馬で何が何でも手紙を届けるようにと無理を言って出しましたので今日中には届くでしょう。アリスの足ではこんなに早く着くことはまず無理ですから今頃のんびりと旅を楽しんでいるはずです。アリスがグレマンに着いてのんびりしている頃には既にバカフランツとの縁は切れてアリスの処分は撤回されているでしょう」


 納得はしていないようだが、反対もなかった。


「様子を見ましょうか……わたくし達も何事もなかった様に過ごす事にしますわ」

 さすが王太子妃、肝が据わっている。いや……これはきっと。


「えぇ。アルミナ様そうしましょう。わたくしも賛成ですわ」

 第二王子妃ニコラが微笑んだ。と言っても裏がありそうだ。


「それではわたくし達はこの状況を受け入れて楽しむと言う事ですわね。お姉様方?」

 第四王子の婚約者ララ……楽しむとは一体?


「フェリクス様、ご報告有難うございましたわ。あとはわたくし達にも考えがございますから、騎士団へお戻りくださいな」



 え? シャロンまで……その微笑みは一体。私の可愛い婚約者がいつのまにこのような黒い笑みを……


 アリスはどうやら思っていたより皆に可愛がられていたようだ。もちろん私もバカの婚約者として妹のように接してきて可愛いと思っている。




 女性を敵に回してはならない! 兄達にも伝えておこう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!

ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」 侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。 しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。 全ては仕組まれた冤罪だった。 聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。 幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが… 「やっと自由になれたぞ!」 実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。 貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。 一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。 すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

処理中です...