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次の町は絶景でした
しおりを挟む少し遠回りするルートだと聞いていたけれど、まさか山を越えるだなんて思わなかった。そして脱輪して馬車から降ろされ、男性は皆馬車を押してなんとか脱出する事ができた。先月の長雨で道が悪くなったようで、坂道を1キロほど皆で歩く事になった。ブーツで良かった。いつものようにヒールの靴だとこんなに歩けないもの。
自力で山を歩くなんて初めての体験で、暑くなってきて汗も流れたし息も辛かったけれど、小高い場所に着くと街が一望出来て風も涼しくてこれは絶景と言わざるを得ない。
自分の足で辿り着いたのだからなおのこと感無量だった。
「流石にうちは見えないわねぇ」
王宮もマメのようにしか見えない。あと数日でお兄様が帰ってくるわよね? その後にはお父様とお母様も。今頃王都はどうなっているかしらね?
******
「それでフェリクス殿下は何もせずに、アリスちゃんを帰してしまったの!」
王太子妃アルミナからの口調はキツいものだ。
「フランツ殿下にはガッカリですわ!」
第二王子の妃ニコラが言った。
「新たな婚約者がブラック伯爵家の親戚筋の養女? なんて事でしょう。王妃様が聞いたら……ねぇ皆様」
第四王子の婚約者ララが少し怯えるように言った。
「フェリクス様にもお考えがあるのですわ。アリスちゃんの身を案じて別の場所に行くようにと言ったのです。あの場でうまく纏めたとわたくしは思いますわ。ね、フェリクス様何か考えがあるのですわよね」
第三王子、私の婚約者のシャロンだ。
「クレマン子爵の嫡男と言うのは、フランツの相手レイラという男爵令嬢が嫁ぐ予定の家だった。クレマンへ行かせると言うのはおそらく男爵令嬢の代わりに嫁がせようとあのバカは思ったはずだ。クレマン家からしたら敬愛するブラック家と縁がつなげるのなら喜んでと婚約するつもりだった。しかしブラック家の血を継ぐアリスに婚約者が変わったとなると、どうだろうか? の命令だと言われればそのまま結婚だ。しかも現時点アリスは身分剥奪の上。となっている」
ここで言うところの結婚とは純潔を奪われる。と言う意味だ。身分剥奪と言うことは自分が娶ってしまえば……と思うかもしれない。
しかし現時点でブラック家の娘ではない。あくまで現時点での話。普通に考えればわかる事だ。
しかし自分が助けてあげなくてはいけないなどと妙な正義感が前面に出ると……?
「まぁ! 最低じゃないですの!」
「そんなところにアリスちゃんを行かせてはダメよ」
王太子妃と第二王子の妃は口を揃えた。
「えぇ、ですからグレマンと言ったのですよ。グレマン領は国境を守っている大事な砦と言っても過言ではありません。陛下からも一目置かれていますし、私も騎士としてグレマンへ何度も足を運びました。嫡男のアーネストに手紙を書きました。早馬で何が何でも手紙を届けるようにと無理を言って出しましたので今日中には届くでしょう。アリスの足ではこんなに早く着くことはまず無理ですから今頃のんびりと旅を楽しんでいるはずです。アリスがグレマンに着いてのんびりしている頃には既にバカとの縁は切れてアリスの処分は撤回されているでしょう」
納得はしていないようだが、反対もなかった。
「様子を見ましょうか……わたくし達も何事もなかった様に過ごす事にしますわ」
さすが王太子妃、肝が据わっている。いや……これはきっと。
「えぇ。アルミナ様そうしましょう。わたくしも賛成ですわ」
第二王子妃ニコラが微笑んだ。と言っても裏がありそうだ。
「それではわたくし達はこの状況を受け入れて楽しむと言う事ですわね。お姉様方?」
第四王子の婚約者ララ……楽しむとは一体?
「フェリクス様、ご報告有難うございましたわ。あとはわたくし達にも考えがございますから、騎士団へお戻りくださいな」
え? シャロンまで……その微笑みは一体。私の可愛い婚約者がいつのまにこのような黒い笑みを……
アリスはどうやら思っていたより皆に可愛がられていたようだ。もちろん私もバカの婚約者として妹のように接してきて可愛いと思っている。
女性を敵に回してはならない! 兄達にも伝えておこう。
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