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一年経ちました
しおりを挟む「陛下から最近の情勢について報告をするようにと言われているんだが、アーネストが行ってきてくれ。アリス嬢もこの機会に実家に帰省するのはどうだい?」
グレマン領に来て一年が経った頃でした。
「陛下との話し合いは父上にお任せしたいと思うのですが、」
「そうか。それならお前は留守番でいいぞ。その代わりアリス嬢は私と一緒に王都に行ってもらう事になる。通訳などしてもらっているし今回は私の秘書として、」
「行きます。行かせてください!」
「初めからそう言えば良いんだ、アリス嬢すまないがアーネストを頼むよ」
「ふふっ。お任せください」
今回は秘書として私も同行する事になりそうです。王宮には詳しい方? ですからそこはお任せくださいな。
「アリス嬢が来て一年が経とうとしているのですね。ご実家の皆さんもアリス嬢に会いたいでしょうし、王都に滞在する時はご実家でお過ごしください」
家族に会えるのは正直嬉しい。
「これで決まりだな。アーネスト話があるからお前は残りなさい」
「はい」
******
「今回王都へ行ってもらうのにはもう一つ理由がある」
父が真面目な顔で言ってきたからこれは何か重要な話があると踏み、背筋を整えた。
「はい。なんでしょうか」
きな臭い噂は入ってないのだが……
「卒業式だ!」
「はい?!」
……卒業式っ!
「そうか! 学園に通っていないけれどまだ学生でしたね」
「うむ。アリス嬢がどう思っているかは分からんからブラック伯爵家で話し合うだろう」
成績優秀な学生は最終学年になると仕事先での修行、婚家先での修行、領地経営に携わる者それぞれが将来に向けて動いている。アリス嬢もその一人なのだが……
「……因みになんだが、お前たちはまだなんの進展もないのか?」
「なんの話でしょうか?」
「いや。私の独り言だ」
盛大なため息を吐かれたが、そんなの自分自身が一番分かっている。私はアリス嬢に惹かれている。初めて王宮で泣いているアリス嬢を見た時はただ努力家で頑張り屋で負けず嫌いな子だと思った。二回目は優しい気遣の出来る子だと思った。三回目、四回目は王宮のパーティーで婚約者とダンスを踊っていた。五回目は他国の要人と会話を楽しむ姿を見た。六回目にまさかうちに来るなんて思ってもいなかった。アリス嬢の事をよく知らなかったけれど、力になりたい。ただそう思っていた。
あの日、泣いていた女の子が婚約破棄され身分剥奪され辺境に追いやられ、泣いているんじゃないかと待ちきれずに迎えに行った。そして対面した時、なんて言葉をかければ良いのか、どうやって慰めれば良いのか……それは単なる思い違いで彼女は強くて泣き言なぞ言わずに全てを悟っていた。
そして王都から120キロも離れた何もない辺境に一人で来ようとしていた。令嬢が一人で旅するなんて普通は考えられないし、若くて美しい令嬢だと危険な目に遭う可能性が高い。一言で言うなら無謀だ。
優秀な執事と侍女が付いてきてくれたから滞りなく来られたようだが、アリス嬢は思いの外行動力がある。
それに比べて私はどうだ? 自分の気持ちを告げることも出来ないまま今の関係が続けば良いなどと思っていた。しかしアリス嬢は卒業し十八歳になる。年頃の娘が婚約者でもない家で仕事をするなんて周りがどう思うか……もうそちらには戻らない。と言われてもおかしくないのだから。
卒業式……何かプレゼントを用意しなくては。女性に何をプレゼントすれば喜んでもらえるか……頭を悩ませる問題だ! こう言う時に相談する相手がここには……いない! 私の周りには驚くほど男ばかりじゃないか! しかも辺境には若い女性が好むような宝飾店などないし時間もない。王都に着いてから購入するのが間違いないのかもしれない。
出発は十日後になった。プレゼントも用意出来ていないのにどのようにアリス嬢に気持ちを告げようかと考えるだけで食欲が出ない。執務室に篭っていても良いアイデアなど浮かばない事から、少し散歩に出てくる。と言い席を立つ。
「アーネスト様、どこか具合でも悪いのですか?」
アリス嬢に心配をかけてしまった!
「いえ。座ってばかりだと腰が痛くなるので気分転換してくるだけですよ」
腰が痛いってどこのジジィなんだ! まだ私は若いし鍛えている分腰が痛くなることなんてないのに、口が勝手に。
「詰め込み過ぎましたか? 休憩も必要ですよね。お茶の準備をして待っていますね」
気を遣わせてしまった!
「いえ。全く問題ありませんよ! アリス嬢のおかげでとても助かっています。仕事の捗り方も違いますし休憩もとれていますし、何よりスムーズに進んでいます。いつもありがとうございます、感謝しています」
「そうですか? それなら良いのですが」
「えぇ。スムーズすぎてこれからどうすれば良いのか……」
アリス嬢にもうここには戻ってこない。と言われたら……
「何か悩み事でも?」
おっと! いかん!
「いいえ。一年ぶりに王都へ行くので、王都では何をしようかと考えていたのです」
「どこか行きたいところがあるのならご一緒しますよ?」
「えぇ。その時は是非お願いします」
そういって庭に出た。何をどこで買うかと頭を悩ませていたら声が掛かった。
「アーネスト!」
振り向くと仁王立ちしている姉の姿。
「ん、姉上か、急にどうかしました?」
またジェシーとクララでも連れてきたのか? それともまた旦那とケンカでもしたとか?
「お願いがあるんだけどー」
その猫撫で声が怖い……どんな願いが聞きたくないような……
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