71 / 75
その後
ただの……レオ
しおりを挟む「おい、出て良いぞ」
急に衛兵に出ろと言われた。
「どこへ?」
牢から出ると大体物々しい人数の護衛と共に出て、取調べ室へ行くと言うのがルーティンだった。
俺を取調べても、もう何も出てこないから、ここ何ヶ月は大人しく牢に入っていた。
「保釈だと」
「はっ? 俺は大罪人だぞ?」
この場所には相応しくない人物がカツンカツンと足音を立て、俺の前に立つ。この国の第二王子だった。
「お前を調べても、もう何も出てこない、名前だけの当主だったからな……」
「はぁ。それは申し訳ございませんでした」
「潔く逮捕された件、男子学生を逃した件、陳述に嘘偽りのないこと、おまえは被害者でもあるからな……保釈だ。保釈金も支払われた。」
「ちょっと、待ってください。保釈金ですか?」
「そう言っただろう?」
「俺、いや、私には支払ってくれるような人はいないのですが……」
「いたんだ。おまえは面倒な男達の知り合いだな……」
「……覚えがありませんが?」
「保釈金を払ったのは、リオネル・スペンサー」
「……先生?」
なぜ学園の教師が……?
「……ユベール・ルフォール」
「ユベール兄さ、いえ、ルフォール子爵の……?」
「あとは匿名希望……」
「匿名……? 誰ですか?」
怪しい……なんだ、それ
「……訳あって名前は言えないそうだが、貴族の男とだけ伝えておく。おまえが何か犯罪に手を染めたら、名前の出た三人にも罰がくだる事になる。
おまえは大罪人の元男爵だ。しばらくは監視させてもらうし、国から出す事はできないし、行動も制限する。
元モンテス男爵関係者とは連絡を断つという書類に署名をしてもらう」
「……一つ質問をよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「モンテス男爵関係者に私の息子は含まれますか?」
「あぁ……そうだった。迎えにいってやれ。少し遠いが安全なところに避難させているんだそうだ」
約束を、守ってくれたんだ….。
「おまえが保釈されたとなると、恨みのある者に命が狙われるかもしれないから、目立つ行動は控えるように。とにかく出ろ! おまえに話があると言う者が待っている」
訳もわからず牢から出された。
******
「貴方は……」
「久しぶりだな。レオ・ファーノン、改め、ただのレオか? 相変わらず情けない顔をしているな」
学園でいつも迷惑をかけていた教師が苦笑いをしていた。
「まぁ、仕方が無いですよね……」
なんで、ここに……保釈金も出してくれた
「なんでと言う顔をしているな」
「……はい。学園時代からご迷惑をおかけしてましたので、合わせる顔はないと思っていました」
頭を下げた
「おまえが逃してやった男子学生覚えているか?」
「……逃したことは覚えていますが、誰かは分かりません」
「私の受け持っているクラスの生徒なんだ。逃してくれて礼を言うよ。本人はとても反省していた。そしておまえに感謝をしていた、あの子の親からも、それにその他の生徒もな、みんなまとめて謹慎にしてやったけどな」
はっはっは……と笑いながら
「自分の姿に重なったんだろう?」
急に真剣な声になった
「……はい」
「おまえの言葉があの子に届いたんだよ。一人の人生を救った」
「……良かっ、た」
俺みたいな人生を送ってはいけない、そう思っただけだ。
やり直せるチャンスがあるなら……後悔してはいけない。
「継げる家がなくても、成績が良ければ働き先はあるとあの子に言ったな?」
「……覚えていません」
あのときは逃すのに必死だった。言ったかもしれないが、覚えていない。
「おまえは働く気があるか?」
「それは、はい、あります」
また息子と暮らせる日が来るのなら必死で育てたい。
仕事は必要だが、大罪人だ。職なんてあるのだろうか……
「下働きから始める事になるだろうが、おまえが助けたあの子の家で働け。
王都ではなくあの子の家の領地の屋敷、伯爵家だ……因みにおまえの保証人は私だ。
おまえが何かしたら私の評判も悪くなる。おまえは傾いた男爵家から出されて平民になった、ただの男だ。話を合わせろよ?
それでも良いなら紹介する。おまえの息子と新たな人生を歩め」
「そんな好条件……俺は大罪人なんですよ?」
「あの子の親が、伯爵がそうしたいと言ってくれたんだ。あの時捕まっていたらあの子の人生はどうなっていただろうな……たまには人の話を素直に聞くと良い、そのかわり真面目に働け」
「お言葉に……甘えたいと思います」
手を差し伸べてくれる人がいる。この教師の恩にも報いたい……口うるさいと思っていたが、ここまで面倒を見てくれるとは、お節介も良いところだと思った。
頭を下げると目から熱いものが流れた
ポンと肩に手を乗せられた
「やり直せ、おまえはまだ若いんだ。息子の為に必死で働け」
「ありがとう、ございます、」
「リオネル……おまえの用意した馬車が来たぞ、早く行け」
第二王子に面倒臭そうに呼ばれるこの教師は一体……
「今行くよ、レオ行くぞ」
「……はい、それでは失礼します」
第二王子に頭を下げた。こんな高貴な……国のトップクラスに会うことはもう二度とないだろう。
「リオネルに、ユベールに、匿名希望に……おまえはラッキーなやつだな、二度と悪さをするなよ! いいな!」
頭を下げて立ち去る事にした。
26
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
婚約者に裏切られた私が幸せになってもいいのですか?
鈴元 香奈
恋愛
婚約者の王太子に裏切られ、彼の恋人の策略によって見ず知らずの男に誘拐されたリカルダは、修道院で一生を終えようと思っていた。
だが、父親である公爵はそれを許さず新しい結婚相手を見つけてくる。その男は子爵の次男で容姿も平凡だが、公爵が認めるくらいに有能であった。しかし、四年前婚約者に裏切られた彼は女性嫌いだと公言している。
仕事はできるが女性に全く慣れておらず、自分より更に傷ついているであろう若く美しい妻をどう扱えばいいのか戸惑うばかりの文官と、幸せを諦めているが貴族の義務として夫の子を産みたい若奥様の物語。
小説家になろうさんにも投稿しています。
私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
あなたと出会えたから 〜タイムリープ後は幸せになります!〜
風見ゆうみ
恋愛
ミアシス伯爵家の長女である私、リリーは、出席したお茶会で公爵令嬢に毒を盛ったという冤罪を着せられて投獄されてしまう。数十日後の夜、私の目の前に現れた元婚約者と元親友から、明日には私が処刑されることや、毒をいれたのは自分だと告げられる。
2人が立ち去ったあと、隣の独房に入れられている青年、リュカから「過去に戻れたら自分と一緒に戦ってくれるか」と尋ねられる。私はその願いを承諾し、再会する約束を交わす。
その後、眠りについた私が目を覚ますと、独房の中ではなく自分の部屋にいた――
※2/26日に完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるゆるのご都合主義です。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる