田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの

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その後

新婚さん

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「いってらっしゃいませ」

「いってきます」


 セイラの白くて柔らかい頬にキスをして軽く口づけをする。

 セイラは毎朝必ず私を見送ってくれる。結婚して数ヶ月経った今でも。




「……危ない事はしないで下さいね」


 言いにくそうに口にする。仕事の話は私から言わない限り口出しをしてこないセイラだが、一度危険な目に遭っていて心配をかけた。
 久しぶりにセイラが私に言った。仕事だからと言わないようにしています。と以前母に言っていたそうだ。



「好き好んで危険なところに足を踏み入れないよ。最近はなぜか殿下と騎士団に行って稽古をつけさせられるくらいだよ」


 殿下の秘書というのは多岐に渡るんだろうか……? 私が秘書の中で一番若いからなのか、なぜか殿下の稽古にも付き合わされる。それは護衛の仕事では無いのか? と先輩秘書官に聞くと


『給料が上がっただろう?』

『えぇ、上がりましたね』


 それは秘書見習いから秘書になったからでは無いのか? 確かに大幅に上がりはした。殿下の秘書になると給料が良いとは聞いていたが……。


『ウィルベルトは護衛も兼ねているからな』

『えっ!』

『若いって素晴らしいな! がんばれよ』


 若いからなんでも出来ると思ったら大間違いなんですけど……


『殿下! 聞いていませんよ、護衛なんて』


『違うな、秘書護衛だ』


『違いが……分かりません』


『普段は秘書として仕事するだろう? 公務があるときは私の秘書として、護衛も頼むよ』


『公務まで……』


『いろんな地方も見に行けるぞ、楽しいだろう?』


『いえ、新婚なんで遠慮します。数日間も屋敷を離れるなんて考えられません』


 一日の終わりはセイラの顔を見て終えたいし、一日の始まりはセイラの顔を見て始めたい。心の安寧の為に……


『陛下が任命したんだけど?』


 私が小さい頃から稽古をつけて貰っていた師匠は、騎士団を引退した元騎士団の団長だった。

 父と懇意にしていたことから、小さい頃から師として仰いでいたのだが、例の事件の時に意識が曖昧のまま、男を拘束したのを見ていた衛兵が報告したらしいのだ。


 そこから秘書護衛となり殿下をサポートするようになった。






「ウィルベルト様? どうかしました?」


「いや、なんでもない。セイラに心配かけないようにしなくてはと思っただけ」


「今日は遅くなりますか? 帰ってきたらお話があるの」


 昨日の夜は遅くて先にセイラは寝ていた。起こさないようにベッドに入り、セイラより早く起きて仕事をしたので、話すチャンスはなかった。


「今日も帰りが遅くなりそうなんだ。今からじゃダメ?」


 今日は城下に視察へ行くそうだ……。その後に報告書をまとめて提出して、あっ! その前に騎士団へ稽古に……



「良いですけど……」


 ……歯切れが悪いセイラを見て、庭のベンチへ連れ出した。まだ時間は早いし、最悪昼前までに着けば問題はない。


 手を繋いだままベンチへと座った


「改まって話って何?」


「あのね、」


 急にもじもじとし始めたセイラに


「うん、教えて」


「昨日ね、お医者様が、」


「え! どこか具合でも悪いのか? 起きてて大丈夫なのか?」


「えっとね、そうではなくて……」


 急に顔を真っ赤に染め顔を伏せた








「……出来たの」



  

「ん?」








「……お腹にね……ウィルベルト様の、子が」





「えっ!」







 急な事に驚いた。そういえば最近、月のものが……と思っていたが




「喜んで、下さいますか?」



「何言っているんだ! もちろん嬉しいに決まっている! ごめん驚いてしまって、ありがとうセイラ嬉しいよ。こんなに嬉しいことってある? セイラとの子供がここに?」


 セイラのまだぺたんこのお腹に手を当てた。嬉しくて顔が緩むのがわかった


「まだ不安定な時期です、だから公表は出来ませんよ?」


 ふふっと幸せそうに笑うセイラの顔はもう慈愛に満ちていて母の顔だ。


「分かった、お願いだからセイラは体を大事にしてくれ」


「はい。ウィルベルト様の元気な子を産みたいですから」

 素直に返事をして、セイラが手を合わせてきた。幸せってこういう事なんだろうと、朝から幸せを噛み締めた。




「セイラに似た可愛い女の子が良いな……」


 絶対に可愛いだろうし嫁に出したく無い


「ウィルベルト様に似た男の子が良いです」


 はにかむセイラの顔を見ていたら愛しくて愛しくて仕方が無い……あぁ仕事に行きたくない。



 行きたくないけれど、これから生まれてくるこの子に恥じないような父親になりたい。こんな気持ちになったのは初めてだった。


 セイラをギュッと抱きしめて

「体を大事にして。お腹の中の子も大事だけど、一番はセイラなんだ」 と伝えた。


「はい。無理をしない程度に……」


「大人しくしていてほしい」


「体を動かさないと鈍っちゃいますよ」


「……言っても無駄だろうから、リサセイラの侍女に言っておく」


「お義母様が言うには、安定期に入るとお散歩をしたら良いのだそうです」


「付き合うよ。庭の凹凸を確認しなくてはいけない」


「妊娠中はイライラすることもあるそうですよ」


「それもいつかは思い出になるね。この子が生まれてきたら話をしてあげよう」



「はい、優しいお父様ですね」


 セイラを見ると目に涙を浮かべていた。


「どうした?」


「少し不安だったのです。未熟な私が母親になって良いのかと……でもウィルベルト様がそう言ってくださるので、私もこの子と一緒に成長できそうです」


「このお腹が大きくなるにつれて私も親として実感するのだろうね。この子がセイラのお腹にきてくれた事に感謝しかない」



「はい、ウィルも一緒に成長しましょう」


 嬉しくてセイラと笑い合っていた。





「朝から仲が良いのは分かりますけれど、そろそろ仕事へ行く時間でございます。遅刻はよろしくありません」



 執事が言いにくそうに伝えてきて、無理やり仕事へ行かされた。





 やる気が出た。
 守るべきものが増えたから。





























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