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街まで一時間
しおりを挟むクララと共に街まで歩く事にした。取り敢えず何かを食べないといけない。馬車だと十数分で着くのに歩くと一時間ほど掛かるとは……来るだけでも至難だ
「クララ大丈夫か?」
クララは簡易なワンピースを着ていた。実に歩きやすそうなものだ。
「うん。たまには良いねこう言うのも。久しぶりに外に出たから楽しいわ」
可愛いではないか! 文句も言わずに一緒に付いてくるなんて……そして楽しいと言った。
「そうだな悪く無いな。クララは久しぶりに街へ行くんだから何か美味いものでも食べよう」
数日にわたる病人食も飽きただろう。俺は飽きた。
だから街に出て食事をとっていた。
あんなもの俺が食べるようなものでは無い。クララは病人だから仕方がないのかもしれないが、そこまで重篤なものではない。
それにしても体が弱いと言うが、一体どこが悪いのだろうか……。
昔遊んでいた時は健康体だったし、屋敷で働き出してから調子が悪いと言い出したんだよな……。
「ねぇ。アナベル様どこに行ったんだろう。なんで出て行ったのかなぁ。お嬢様が出ていく場所なんてないよね? 両親にバレたら連れ戻されてしまいそうなのに。早く仲直りしてよね」
「あいつが帰ってくる時は俺に許しを乞う時さ」
「そう? それなら良いんだけど」
他愛のない話をしながら一時間ほど歩いて街へと着いた。好きにものをご馳走するよと言うと、まず露店で肉の串を強請られた。
安いものだが美味しそうに食べていた。味が濃いものを食べたかったのだろう。
その後しばらく分の食糧を買った。
調理しなくても良いもの。
チーズや干し肉、それにパンや焼き菓子、ワインも買う。
「結構な量になったな。帰りは馬車を借りようか」
「うん。これでしばらくは大丈夫そうだね」
数日後食糧が切れた。また買いに行くのか……と思うと億劫だった。
それに調理しなくていい食事と言うのにも飽きた。
冷たいし味気ない。まだ作りたての分あの病人食の方がマシだったのかもしれない。
そろそろアナベルも屋敷や俺が心配になって帰ってくるだろう。もう出て行ってから一週間だ。
食糧を買いに行くが、本格的に懐が寂しくなってきた。最後の手段に取っておいたが、本当に鍵が開いている部屋がないのかと今一度調べる。
するとかちゃりと音がして部屋が開いた。女性の部屋だった。
よく見るとアナベルが身につけていた物が多いようだ。シンプルな部屋だが、置いてある物は高級品だ。
一つ手に取りポケットに入れた。換金しよう。一つくらいはバレないだろう。
これで暫く凌げるだろうと思った。
クララを連れてまた買い出しに行った。
クララも非常食的な物に飽きたのか簡易なコンロを買おうと言い出した。
「調理すれば良いか」
と言って魚や生肉野菜やまな板、調理器具を新たに買った。
クララをカフェで待たせ、質屋に行きアナベルの部屋から拝借したものを出した。
…………すると
「これガラスだね」
店の親父に言われた。
「はぁ? 嘘だろ! 貴族の持っている物が偽物だなんて」
「ほれ、色ガラスだよ。今若い子たちの間で流行っているだろう? 出来はいいから金額的にはこんなもんか?」
「子供の小遣い程度か?」
「あんたの家は裕福なのか? 平民の五日分の給金はだしたぞ。これ以上は無理だ」
仕方がないと思い換金した。くっそぅ! まだあったはずだ! 次は見とけよたぬき親父め!
次来ても同じだった。流石にドレスやなんやは目立つから持ち出せないが、アクセサリー類は換金した。
それからさらに一週間が経った。もう限界だ……。部屋が汚くなる一方で、着る服もない。
洗濯をする者がいないのだ。
クララの病衣も薄汚れてきた。
今度は衣料品を買うが、懐の寂しさは相変わらずだった。
屋敷を維持するには相当な努力が必要なようだった……。
くそぅ。そろそろ帰ってこい! アナベル。
次の日一台の馬車が屋敷に止まった。紋章を見ると侯爵家の馬車だった。
ようやくアナベルが帰ってきた! そう思い、玄関ホールへと向かった。
髪はくしゃくしゃで髭も生えてきた。人に見せるような姿ではないが、アナベルに見せても問題はない!
お前のせいでこうなったのだから!
馬車が開くとすぐに怒鳴った!
「遅い! 何していたん……だ、っと……夫人?」
「あら? あなたはどなたかしら? うちになんのご用?」
様変わりした俺に気がついていないようで、夫人の前にサッと二人の護衛が立った。
夫人……アナベルの母親その人だった。
******
その後大いに悔やむ事になったのだが、何故俺はここまでしてクララに良くしてやりたかったのか分からなくなった。
単なる幼馴染で守ってやらなきゃならないと思ったが、一番はアナベルで、侯爵家の仕事を覚える事だったのに……。
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