野生児少女の生存日記

花見酒

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三章 野生児少女と野生の王

一方その頃

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 ローニャ達が魔族国へ旅行をしていた二日目夜の事。
 王都リオネルのとある家でマルクール兄弟のカロンが何か書き物をしている最中時折ぼーっとして集中出来ない様子だった。頻繁に溜息を吐き天井を見上げる、そんな時マルスが突然カロンの部屋にやって来た。

「カロン入っていいか?」
「え?あ、うん良いよ。どうしたの?」

 マルスは部屋に入りカロンの前に座る。

「ちょっと昼間の事が気になってさ。」
「え?僕何か良く無かったかな。」
「う~ん…良くなかったと言うか、心配でさ、何だか上の空と言うか、魔物と戦ってる時とか時々ぼーっとしたりとか、帰りとかよく躓いててたろ?何かあったのかなって。悩みがあるなら聞くぞ?」

 カロンは気不味そうに頬をかき目を泳がせる。

「いや…その~…何と言うか…別に悩みは…無いかな…。」
「…もしかして“好きな人”が出来たのか?」
「え!?いや!違うよ!そんな事無いって!」
「そうなんだな?」
「……うん。」

 それを聞いた途端マルスは立ち上がり扉を開けて叫んだ。

「ルーク!来てくれ!カロンが病に罹った!」
「風邪か!」
「恋の病だ!」
「何!?」
「ちょ!」

 ドタドタと走ってくる音が聞こえ、直ぐにルークがカロンの部屋にやって来た。

「相手は!?どんな美人だ!?」
「まあ落ち着け。で?誰なんだ?」
「いや…その…恥ずかしいし…。」
「良いから言ってみろって、兄ちゃん達が全力でフォローしてやるら。」
「兄さん達も恋人いないじゃん!…笑わない?」
「笑わないって、笑うやつが居たらぶち殺してやる。」
「え…と…ローニャさん。」
「おっと思ってたより斜め上だな。ローニャちゃんってお前より二三歳年下だろ?お前年下派だったのか。」
「別に年下だからじゃないよ!ただ前に何度か助けて貰って、何度か一緒に仕事する事があったから…それで意識するようになって…。」
「成る程成る程。因みにどんな所に惚れたんだ?」
「その…戦ってる姿が力強くていつも冷静で…格好良くて、そうじゃない時とかは無表情だけど興味のある物が有ると出る笑顔が可愛くて。…何だか憧れるっていうか…兎に角、彼女の色んな所が好きなんです!」
「甘酸っぱいですな~この乾燥ベリーより甘酸っぱい!」
「うんうん!良いぞ弟よ、俺はお前が好きな人が出来て嬉しい。」

 必死なカロンの言葉を二人はベリーを頬張りながら微笑ましく聞く。

「もー!こっちは真剣に答えてるのに!」
「ごめんごめん、にしてもローニャちゃんか、曲者だぞ彼女は。なんてったって元野生児で人嫌い。最近友達といる事が多いらしいけど、それでも人見知りはあるだろうな、そんな子が異性から告白とかされても分かんないだろうな。」
「何で僕がもう告白する前提なの!?」
「いや彼女は後二年で二十歳だそして彼女は十五。年の差とか考えたら早い方が良いだろう。」
「ええ~…」
「まぁ俺等は経験浅いしあんまりアドバイス出来ないけど、取り敢えず何かやってみたらどうだ?例えば食事に誘うとか。」
「いきなり!?僕らまだ友達じゃないくて仕事仲間だよ?いきなり食事に誘って頷いてくれるかな。」
「例えだよ例え。食事じゃなくても…そうだな、冒険者らしくて二人で依頼を受けるとか。」
「そそそ…それってもうデートでは!?」
「そりゃそうか。なら俺等もついて行ってそれらしいムード作るとかもありかもな。」
「う~ん…」
「まぁ焦る必要は無い、彼女が暇そうな時に隙を見て声をかけてみると良い、俺達も応援する。」
「うん、頑張ってみるよ。」

 その後三人は少し世間話をして解散しそれぞれの部屋に戻り床に付いた。ただカロンだけは眠るのが少し遅かった。


 同時刻 リオネル 学園付近

 街頭の灯りのみに照らされた人気の無い真夜中の通りを酒を片手にとぼとぼと歩く男が一人。顔を赤くして酔いに浸りながら愚痴を零している。

「たっく~。どいつもこいつもふざけやがって。何が「他にやる事が出来た」だ、目~かけてやったのに甲斐性なしの薄情野郎どもが。どれもこれも全部あの”ガキ“のせいだ。あいつさえ居なけりゃ俺はもっとでっけー男になってたのによ。」

 グチグチと独り言を喋りながら歩いていた時、男はふと偶然通りかかった学園に目をやる。

「あ?ここ学園か。適当に歩いてたらこんな所まで来てたのか…ここ確かあのガキも通ってるんだっけか?丁度良いや、腹癒せに小便でもかけてくか。」

 男はニヤニヤしながら学園の壁の前に立ちズボンのベルトを解き始めた。すると突然何処からか声が聞こえて来た。

「おい、ここで妙な事をすると面倒なのに目をつけられるぞ。」
「うお!?何だ!?何処だ!誰だ!」
「ここじゃここ。」

 男が声のする方向をみると何者かの影が見えた。その影を見るやいなや男は声を荒げた。どうやら男はその者を知っているらしい。

「な!?てめぇあん時の!この野郎よくも俺を騙しやがったな!」
「何の話だ?」
「とぼけんな!てめぇが“幸運が訪れる”とか言って寄越した“アレ”だよ!幸運どころか不幸な事ばっか起こりやがる、てめぇの仕業なんだろ!てめえがあんなもん寄越しやがったせいで俺は檻の中に入る羽目になったし、舎弟共も俺を見限りやがった、どう同落とし前つけるんだ!」
「キイキイ騒ぐな喧しい。何時だと思ってるんだ全く…儂は嘘など言っとらん、少し幸運になると言ったんだ阿呆が。そもそもそれらは貴様が自らやった事だろう、自分の責を他人のせいにするでないは、貴様が不幸なのは単に貴様が短気で知能が無いからだ。」
「んだと…このクソど…」
「それはそれとして、貴様“アレ”をどれくらいの期間持っていた?」
「あ?ああ…途中で無くしたから、三週間くらいだな。それがどうしたってんだ!」
「ふむ…そうか…少々心許無いがまぁ足りるだろう。」
「あ?何ボソボソ喋ってんだ?」
「いや、気にするな。それより話は変わるが…《貴様この国の王を憎いとは思わんか?》」
「あ?何だ突然。別に思わ…」

 思わない、そう言いかけたが突然男の頭にノイズが走った。すると突然考えを変えた。

「ああ…憎いさ当然だろう。」
「そうであろう、そうであろう。ならその憎き王に復讐してみてはどうだ?」
「復讐ってどうやってやるんだ?王は多忙だから何処で何やってるかなんて知らないぞ?」
「確かにな、だがお主も知っておろう、もう時期あの城で夜会が開かれるそうだ、そのタイミングならあの王は必ず城に居る。」
「確かに…それなら…だがやはり無理だ、あれは貴族共しか入れない、俺が言っても門前払いだ。」
「何心配いらん、復讐と言っても少しばかり騒ぎを起こしてやれば良いだけだ。」
「じゃあ暴れれば良いんだな。」
「そうだ。たがただ暴れるだけでは駄目だ貴様が一人騒いだ所で一瞬で守衛に捕らえられるだろう。だから一ついい方法がある。」
「何だ勿体ぶらず言え!」
「【災禍再臨教】と呼ばれる集団を知っているか?奴らの幹部の一人が生物を一瞬で“魔獣”に変える薬を作れるそうだ。其奴か其奴の部下を探し出してその薬を貰え。そうすれば夜会は目茶苦茶に出来る。」
「そうか!そいつを手に入れて守衛か誰かに飲ませりゃ良いんだな!」
「まぁ…そうだな。」
「よっしゃ!んじゃ早速探すか!」
「阿呆、こんな時間に探してどうする。明日からでも遅くはなかろう。」
「おおそうだな。あんがとな!教えてくれて、俺を騙した事はこれでチャラにしてやる。じゃあな!」

 そう言って男は走って去っていく。その後ろ姿をそれは静かに見送った。


 翌日

 ローニャ達は街へと帰って来て残りの休みをそれぞれ違う事をして過ごしていた。

 その日の昼頃、ローニャは昼食を取る前に適当な依頼を受けて食後の暇つぶしを作ろうと考えていた。適当に依頼書を流し見ていると、ふとローニャは誰かからの視線を感じて辺りを見渡した。すると突然聞き覚えのある声で呼ばれた。声の方を見るとそこにはカロンが立っていた。

「ロ…ローニャさん…久しぶり…」
「カロン?どうしたの?また依頼の手伝い?」
「いや!今日はその…仕事ととかじゃなくて…その…ローニャさんって今時間ある?」
「?あるけど…何で?」
「いや~…その…も…もし良かったら、一緒に食事でもどうかなって。お腹空いてなかったらいいんだけど。」
「いやこの後食べるつもりだった。」
「そっか!あ…いや…なら一緒に…どうかな…勿論奢るし。」

 何とも辿々しいカロンを見てローニャは思考を巡らせた。

「(この感じ…なんか、前にマテリアに貸してもらった恋愛小説のシチュエーションに似てる。ていうかまんま、これは確実に私には好意を持ってるよね?この場合ってヒロインは相手が好意持ってる事に気付かずに頷くか断るパターンだろうけど…私ってこういうの意外とする鋭いんだな、自分でもびっくりする。う~ん…どうしようか。まぁカロンは友達みたいなもんだし、断る理由無いから行ってみるか。何より面白そうだし。)良いよ。」
「え!?いいの!?」
「いやそっちから誘ったんでしょ?」
「いや…そうだけど承諾しょうだくしてくれるとは。」
「何でも良いよ。取り敢えず行こう。」
「うん!何処がいい?好きな所で良いよ。」
「じゃあ…」

 二人はそのまま建物のを出ていった。その後ろ姿を陰から見守っていたサーナイト兄弟は弟の成長に感動していた。

「良かったな…あんなに大きくなって。」
「うんうん。」
「ていうか…あの感じローニャちゃん多分気付いてるよな。」
「多分な。あの緊張の仕方じゃ流石に気付くだろう。」
「ま、とにかく俺等は弟を応援しよう。」
「おうともさ!」

 二人は嬉しそうにギルドを出て別の酒場に向かい酒を飲みまくったらしい。
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