あなたの愛はもう要りません。

たろ

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9話

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 実家にいる時は、継母によく叱られた。

 帳簿の計算間違いや(ミスしたのは継母でそのまま知らずに計算しただけなんだけど)、あと誤字脱字。

 これも継母が間違った名前を書いていたりスペルを間違えていたりしている書類を無理やり押し付けられてそのまま書き写しただけなんだけど、「腕を出しなさい!」と、袖を捲られ、見えないところを鞭で叩かれたな。

 それに比べると侯爵家は天国かも。もともと執事がきちんと書類整理をしているので間違いはないし、私の所為になんでもしないもの。

 嫁とは認められなくても家族の輪に入れなくても、意地悪はされない………あ…でも、認められない割にしっかり仕事はさせられてるけど。

 でも離縁して外国で一人で生きていくには事務仕事ができるのはとても助かるわ。

「…………ンカ……聞いているの?」

「………………は、はいっ!!」

 うわぁ…また一人考え込んでいたわ。

 結婚してから…ううん、母が亡くなってからあまり人と話さなくなって、つい一人で考えに浸ってしまうのよね。

 この屋敷に来てからは使用人達が話してくれるので、寂しくなくなったけど。

 癖はなかなか抜けない。

「ビアンカ、あなたの仕事なんだけど……」

「はい!」

「どこで覚えたの?」

 うん?どこで?

 ああ、そうか。

「実家でも書類整理や帳簿の仕事をして(無理やりさせられて)おりました。
 でもやり方がわからなくて、図書館へ通っていろいろ本を読んで勉強をしました。私は外国のやり方を真似て帳簿を自分なりに考えてまとめていました」

「そう、だから、こんなにわかりやすいのね」

「わかりやすいですかっ!」

 大きな声で思わず前のめりになってしまった。

「声が大きい!あなたは侯爵家の嫁なのよ」

 私……初めて『嫁』と言われたかも!

 目を見開いて義母を見る。

「こほんっ。ビアンカ、落ち着きなさい」

「だって褒めてもらえたんですよね?」

 嬉しさに拳を握り、つい笑顔が浮かんだ。

「私、あまり褒められたことがなくて、とても嬉しいです」

「そ、そう。あなたの仕事は丁寧でわかりやすいわ」

「ありがとうございます!あ……もう時間がない。すみません、私学校へ行かなければならないので帰ってきたらまたお仕事頑張ります」

「時間って……まだダイガットは朝食を摂っている時間よ?」

「………私は歩きなので……」

 困った顔をしながら小さな声で言った。

 義母は知っているはずなのに……だって義母がそうさせているのでは?

 責めるつもりも嫌味を言ったつもりもなく、ただ時間が間に合わなくなるので仕方なく答えたつもりだった。





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