あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
16 / 77

16話

しおりを挟む
 怪我の治療が終わり屋敷の馬車が迎えに来た。

 御者のおじさんのマックスは侯爵家に嫁いでからずっと商使用人?仲間として仲良くしてもらっている。

 彼は私が馬車を使えないことをとても気にかけてくれていた。今、義母が許可を出して馬車に乗れるようになってからはマックスおじさんが私の専属になってくれている。
 みんな他の人たちの専属を希望しているのに、マックスおじさんは自ら義父の専属を降りて私のために馬車を出してくれる。

 他の人たちは私と違い、力も発言力もあるのに、なんの力もない私のために専属になってくれる優しい人。

「酷い怪我ではないですか?」

 手を差し出して馬車に乗る手助けをしてくれた。

 私と同じくらいの孫娘がいるらしく、つい心配になると言っていた。

「……先ほど、ダイガット様をお迎えに来ました……フランソア様も侯爵家の屋敷にお連れしております。暫くお泊まりになるそうです」

 うん?泊まる?なぜ?

「ダイガット様は昔っからフランソア様が泣いて頼ってこられると、つい甘やかされてしまうんです。周りはどう見ても大したことはないと思うんですが………」

 言葉を濁しながらモゴモゴと言いにくそうに教えてくれた。

 うん。なるほど。

 フランソア様の泣き真似にいつも引っかかっている馬鹿なんだ。何回引っかかっても、懲りない男。

 俺は幼馴染を守っている男らしくていい奴なんだ!

 と、自己陶酔しているのかしら?

「私、屋敷に帰らない方がいいかしら?」

 ポツリと呟く。

「とんでもありません!もちろんお連れ致します……ただ……」

「ただ?」

「夕食や朝食をご一緒されるのはいかがなものかと……」

「ダイガットが貴方にそう言えと言ったのかしら?」

「ち、ちがいます!使用人みんなの意見です!心配なんです、その怪我はフランソア様贔屓の令息の仕業なんでしょう?」

「あら?知っているの?」

「お屋敷に学園から連絡を受けております。ビアンカ様の迎えも早めに言ってあげるようにと奥様から頼まれて急いで来ました。ダイガット様とフランソア様はビアンカ様のことは一切話さず、二人の世界に入っておりました」

「二人の世界……『フランソア、大丈夫か?』『ダイガット、痛いわ』の世界?」

「はい、ほぼそれです。フランソア様はダイガット様に抱きかかえられて屋敷に入り客室に通されると、足が痛いことなど忘れて鼻歌を歌いながら歩き回り部屋を物色していたらしいです。
 そしてメイドを何度も呼んでわがまま放題だったらしいです」

「わがまま放題?」

「この紅茶はまずいだとか、たっぷりチョコレートを使ったお菓子を出せだとか、ドレスを用意しろだとか、今夜は大切な客がいるのだから、料理長に言って、特別な料理を用意しろだとかいろいろわがままな注文ばかり言っていたらしいです」

「へぇ、それはそれは、私が顔を出したらまた何か問題を起こして私が犯人にさせられるのかしら?」

「嫌な予感しかしません」

「転ばせたとか怪我させたとか?それ以外のことかしら?」

 マックスおじさんと呆れながら、つい苦笑いをして話を続けた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

戦場からお持ち帰りなんですか?

satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。 1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。 私の結婚生活はうまくいくのかな?

この幻が消えるまで

豆狸
恋愛
「君は自分が周りにどう見られているのかわかっているのかい? 幻に悋気を妬く頭のおかしい公爵令嬢だよ?」 なろう様でも公開中です。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

処理中です...