あなたの愛はもう要りません。

たろ

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15話 ダイガット。

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 ブラッド先生は俺の家庭教師として二年ほど教わったことがある。

 頭も良く活発で尊敬できる人。ただ少し口が悪いけど、とても面倒見が良く兄のように慕っていた。
 同じ侯爵位、次男でバァズの兄でもある。

 そのブラッド先生が俺を呆れたように見た。

 ビアンカはブラッド先生に寄り添うように俺の前を歩き出した。

 腹が立った。

 なぜ?

 君は俺の妻なのに。

 でも、俺の腕の中には、俺が守ってあげると約束したフランソアが怯えて震えながらいた。

 膝が擦りむいてはいるが血すら出ていない。

 傷薬さえ塗ればすぐに治りそうだった。

 なのにビアンカの膝も腕も血だらけで痛々しい。

 歩くのも引きずっていてなぜ抱き上げてあげないのかと思う。いや、ブラッド先生がもしビアンカを抱き上げていたら俺は……許せなかったかもしれない。

 歯を強く噛み締めて怒鳴りたくなるのを堪えるしかなかった。

「ダイガット、わたくし、何もしていないの。ただ転んでしまっただけなのに、あの二人が勝手にビアンカ様のせいにしたのよ?」

 横抱きにしたフランソアが胸に顔を埋めるようにしながら話しかけてくる。潤んだ瞳に嘘なんかついていないと思う。

 でもビアンカのあの冷たい目が、俺の胸の中でズキズキと疼く。

 ブラッド先生もわざとフランソアが転んでビアンカのせいにしたと言う。
 だけど、フランソアのことは俺が一番わかっている。素直で優しい、すぐに人から意地悪をされ、いつも堪えている。ずっと幼馴染として守ると誓った。

 仕方なく医務室へ行くと医者がビアンカの治療をしていた。

 血だけではなく打ち身もあり肩が赤く腫れていたらしい。

「ビアンカ……」

 話しかけようとしたが看護師が「入らないでください、治療中です」と会うのを拒んだ。

「ダイガット………痛いの」

 泣きそうな声でフランソアが俺を呼ぶ。

 ブラッド先生は呆れながら「そんなに痛いなら話はここで聞こう」と言ったがフランソアは痛いと泣き崩れ、結局話など聞けない状態になった。

 日を改めて話は聞くことになり俺はフランソアを馬車に乗せて屋敷へと連れ帰った。

 フランソアを自分の屋敷に帰して何を言われるかわからない。

 ビアンカに何度となく会おうとしたが、フランソアに呼ばれて同じ医務室にいるのに会うことはできなかった。

 ビアンカの怪我は思った以上に酷いみたいでなかなかカーテンの中の様子もわからなかった。

「ブラッド先生、ビアンカをお願いします」

 俺は仕方なくフランソアをまた横抱きにして迎えに来た馬車へと向かった。

「お前は今本当に自分がどうすべきなのかわかっているのか?」

 その言葉に一瞬固まった。

 だけどフランソアが「ダイガット……」と弱々しく泣きそうな顔をして、服を掴んだ。俺を必要としたいるのを見て、迷いは捨てた。

「今は……傷ついたフランソアのそばにいてあげるべきだと思っています」

「そうか……それがお前の判断なんだな」

「…………」

 俺は答えることができず、カーテンの向こうにいるビアンカに何も言わずにフランソアを連れて医務室を出た。
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