あなたの愛はもう要りません。

たろ

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14話

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 ブラッド兄様が私の腕を肩に回し、「お前、重いな」と失礼なことを言いながら助けられながらも立ち上がった。

 その少し離れた横には歩けない?らしいフランソア様を抱きかかえているダイガットが、何を考えているのか分からない表情でこちらを見ていた。

 うわ、ないわぁ。
 いくら嫌いわれていても、いくら隠していても、一応『妻』だし、ほんのわずかに心配くらいするふりして欲しい。

 擦りむいた膝と腕からはしっかり血が出ていた。

 お風呂入るの痛そうだな。しばらく疼くだろうな。
 傷が残るだろうな。
 顔に怪我しなくてよかった。

 ぼんやりそんなことを考えていたら、私を突き飛ばした令息が真っ青な顔をして私を睨んでいた。

「俺は悪くない、悪いのはこの女だ」

 もう一人の令息も言い訳をして騒いでいた。
「フランソア様が可哀想だから俺は助けただけなんです」

 二人はわたしが悪いんだと騒ぎながら、もう一人の先生に「うるさい、俺たちはちゃんと見ていたんだ」と怒られながら職員室へと連れて行かれた。

 私とブラッド兄様はダイガット達の前を通り過ぎようとした。

「おい、ダイガット、お前もそこの女子生徒を連れて早く医務室に来い」

「はい」
「わたくしは……大丈夫よ、ダイガット教室へ帰りましょう」

「いいから、来い!君が勝手に転んだせいで、ビアンカはさっきの二人に酷い目に合わされたんだ。君はそれを目の前で見ていたのに助けなかった、傷の治療をした後しっかり話を聞かないといけないだろう?」

 ブラッド兄様の声は怒気がこもっていた。

 そういえば昔っから私がいじめられると助けてくれたな。自分が私をいじめるのは良しと思っているくせに。

「先生、フランソアに悪気はありません、それにビアンカにだけ特別扱いしているようにしか見えませんが?」

 ダイガットはどこか不満そうな声だった。

「ほお、俺とビル先生がビアンカを贔屓しているとでも?初めはなんの小芝居をしているのかと二人で見ていたが流石にビアンカの腕を捻り上げ、突き飛ばしたのを見て、これは助けないといけないと焦ったんだが、君はまるでヒロインのようにビアンカを嗤って見ていただろう?上からは表情もよく見えたぞ」

「そんな……わたくし……」

 ふるふると首を横にふり、ダイガットを下から見つめる瞳は潤んで、いかにも儚げで、ダイガットは顔を顰め私とブラッド兄様を睨んだ。

「フランソアがそんなことをするわけがないでしょう?彼女は……母親が亡くなってから父親達から虐げられているんです。自分がされているのに人にそんな酷いことをするわけがありません。彼女はとても優しいんです」

 ………………………
 ………それならば私は?

 私だって父に捨てられ貴方に嫁いだ。
 私だって継母が来てからは、いつも家族として扱ってもらえなかった。
 私だって母が亡くなり悲しみの中一人で耐えてきた。

 腕を怪我したはずの手に力が入った。

 ブラッド兄様は「ビアンカ、行こう」と優しく耳元で囁いた。

「うん」

 ダイガットの言葉を無視して立ち去った。

「ビアンカ!」

 また私の名を苛立ちながら叫ぶダイガット。
 たまには普通に『ビアンカ』と名前を呼んで欲しいわ。もちろんそこに愛なんていらないけど。入れてほしくもないけど。

 普通、普通に。

 それすらもできない男なんて最低だわ。

 妻の目の前で他の女性を庇う夫。

 ああ………ないわぁ。


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