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17話
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屋敷に着くと場所を降りるのも一人では難しくマックスおじさんの手を借りた。
ヒョコヒョコとなんとも不恰好ながらも歩いた。
わざとらしくではない。だんだん足の痛みがひどくなってきていた。思った以上に怪我は酷い。
正面玄関から入る許可をもらったので、客室の前を通らなくても自分の部屋へ行けるのは幸い。
よかったよかった。もし前を通れば待ち構えて、何を言われたことか。
フランソア様はどこに耳があるのかどこに目があるのか、とても私を探すのが上手い。
私を見つけては嬉しそうに話しかけてくる。
ダイガットとの楽しい日々を、ダイガットとの過ごす甘い時間を。
もう聞いててお腹いっぱいだし、聞き飽きたし、胸焼けしそうだし、いらないかな。
でも下手に反応するとそこをまた抉るように話を被せてくるので、『無』の顔で何も反応しないことにしている。
笑いもせず怒りもせず、驚きもせず、もちろん『妬く』なんて全くしない。
それが面白くないのか、なんとか私の反応を見ようと話しかけてくる。
反応しても面倒、反応しなくても面倒。
だから『無』を押し通すことにした。
すぐに自分の部屋に入るとベッドに横になった。
医務室で痛み止めを飲んでいるとはいえ、力のある男性に突き飛ばされた。
傷も肩の痛みも、そしてところどころ強く打ちつけた体も痛い。
実は熱が出始めていて頭もボーッとし始めた。
どれくらい時間が経ったのか……
「暑い……熱い………」
ぼんやりした意識の中で誰かがおでこに冷たいタオルを置いてくれた。
「………りがと……」
なんとかお礼を言ったけど、この優しい手は誰?
泣かないと決めているのに、体が弱ると心も弱くなる。
思わず目が潤んでしまう。
誰かが優しく頭を撫でてくれた。
「……かあさ……会いたかった……」
すごい汗……気持ち悪い……怠い……暑い……
「喉が……お水……」
意識がぼんやりしながらも喉の渇きに目をあけた。
人の影が見えた、やはり誰かがいた。
「………お水を飲みたいの?」
コクンと頷きなんとか体を起き上がらせようとした。
「手伝ってあげるから待ちなさい」
グラスをサイドテーブルに置いて私の背中に手を置き起き上がらせてくれた。
「はいお水」
ぶっきらぼうな物言いなのに優しさが滲み出てる。この人は誰?まさか……違うわよね……
顔を見ようと視線をその人へ。
……………えっ?
お義母様?侯爵夫人?
「そんな驚いた顔をして。たまたま……ちょっと用事があってこの部屋に来たら、貴女がお水って言うから……仕方なく…」
なんとも気まずそうにそう言って「さっさと飲みなさい」と急かされた。
「………あ……まだ今日の仕事……終わっていなくて……」
どうしよう。
早く終わらせないといけなかったのに……義母の顔を見たらぼんやりだった意識もはっきりとしてきた。
「わたくしをなんだと思っているの?今日はゆっくり寝ていなさい!こんな熱で仕事をしても間違いだらけで、訂正の方に時間を取られてしまうわ!」
ぶっきらぼうな物言いだけど、優しさが込められていて「ありがとうございます」とお礼を言って、きつかったのでもう一度横になった。
「…………」
「…………」
お互い無言で。
いつ義母はこの部屋から出ていくのだろう。
突然、扉が開いた。
義母はなぜか慌ててクローゼットへ隠れた。
なぜ??
そこにいたのは…………
ヒョコヒョコとなんとも不恰好ながらも歩いた。
わざとらしくではない。だんだん足の痛みがひどくなってきていた。思った以上に怪我は酷い。
正面玄関から入る許可をもらったので、客室の前を通らなくても自分の部屋へ行けるのは幸い。
よかったよかった。もし前を通れば待ち構えて、何を言われたことか。
フランソア様はどこに耳があるのかどこに目があるのか、とても私を探すのが上手い。
私を見つけては嬉しそうに話しかけてくる。
ダイガットとの楽しい日々を、ダイガットとの過ごす甘い時間を。
もう聞いててお腹いっぱいだし、聞き飽きたし、胸焼けしそうだし、いらないかな。
でも下手に反応するとそこをまた抉るように話を被せてくるので、『無』の顔で何も反応しないことにしている。
笑いもせず怒りもせず、驚きもせず、もちろん『妬く』なんて全くしない。
それが面白くないのか、なんとか私の反応を見ようと話しかけてくる。
反応しても面倒、反応しなくても面倒。
だから『無』を押し通すことにした。
すぐに自分の部屋に入るとベッドに横になった。
医務室で痛み止めを飲んでいるとはいえ、力のある男性に突き飛ばされた。
傷も肩の痛みも、そしてところどころ強く打ちつけた体も痛い。
実は熱が出始めていて頭もボーッとし始めた。
どれくらい時間が経ったのか……
「暑い……熱い………」
ぼんやりした意識の中で誰かがおでこに冷たいタオルを置いてくれた。
「………りがと……」
なんとかお礼を言ったけど、この優しい手は誰?
泣かないと決めているのに、体が弱ると心も弱くなる。
思わず目が潤んでしまう。
誰かが優しく頭を撫でてくれた。
「……かあさ……会いたかった……」
すごい汗……気持ち悪い……怠い……暑い……
「喉が……お水……」
意識がぼんやりしながらも喉の渇きに目をあけた。
人の影が見えた、やはり誰かがいた。
「………お水を飲みたいの?」
コクンと頷きなんとか体を起き上がらせようとした。
「手伝ってあげるから待ちなさい」
グラスをサイドテーブルに置いて私の背中に手を置き起き上がらせてくれた。
「はいお水」
ぶっきらぼうな物言いなのに優しさが滲み出てる。この人は誰?まさか……違うわよね……
顔を見ようと視線をその人へ。
……………えっ?
お義母様?侯爵夫人?
「そんな驚いた顔をして。たまたま……ちょっと用事があってこの部屋に来たら、貴女がお水って言うから……仕方なく…」
なんとも気まずそうにそう言って「さっさと飲みなさい」と急かされた。
「………あ……まだ今日の仕事……終わっていなくて……」
どうしよう。
早く終わらせないといけなかったのに……義母の顔を見たらぼんやりだった意識もはっきりとしてきた。
「わたくしをなんだと思っているの?今日はゆっくり寝ていなさい!こんな熱で仕事をしても間違いだらけで、訂正の方に時間を取られてしまうわ!」
ぶっきらぼうな物言いだけど、優しさが込められていて「ありがとうございます」とお礼を言って、きつかったのでもう一度横になった。
「…………」
「…………」
お互い無言で。
いつ義母はこの部屋から出ていくのだろう。
突然、扉が開いた。
義母はなぜか慌ててクローゼットへ隠れた。
なぜ??
そこにいたのは…………
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