19 / 77
19話
しおりを挟む
「ビアンカ!久しぶりね。やっと体調が戻ったの?」
馬車を降りると私を見つけたマリアナが令嬢らしからぬ姿で大声を出しながら走ってやってきた。
「マリアナ……周りが見てるわよ」
「あら?そんなの気にしないわ。私を誰だと思っているの?これでも公爵令嬢よ?誰も私に何も言えないわよ」
この国で四家しかない公爵家のご令嬢のマリアナ。
いずれは王家に嫁ぐだろうとも言われているのに、いいのかしら?
本人は嫌がってまだ王太子殿下との婚約は成立していないけど、彼女が王太子殿下の婚約者になることは周囲ではすでに周知されている。
でもお互いあまり仲が良くなくて、上手くいかないかもと周囲は心配してもいるのだけど、どうなるのかしら?
「ビアンカ様ぁ!」
「バァズ!」
マリアナと並んで歩いていると前からバァズが駆け寄ってきた。
ふふっ。子犬みたいで可愛い。
「寝込んでいたと兄から聞きました。本当はお見舞いに行きたかったのですが、やめておいた方がいいと兄に言われて我慢してました」
「それは正解だわ。私もお見舞いには行かなかったのよ?先触れを出したのに、ビアンカの体調が思わしくないからとお断りされたの」
「心配かけてごめんなさい。なかなか熱が下がらなくてずっと寝込んでたの」
「ねぇ?ダイガット様は顔を出したの?」
「ううん、全く。多分フランソア様がお泊まりに来られていたからお忙しかったんじゃないのかな」
「はああああ?なに、それ?」
「ビアンカ様、なんで笑ってるんですか?」
笑ってる……うん、もう笑うしかないわよね。
私の部屋から、庭で二人が寄り添うように笑い合い、手を繋ぎ歩いている姿を見せつけられた。
そう、見えたと言うより「見て見て!」って感じで見えてしまった。
ベッドから見える窓の向こうに仲睦まじい二人の姿。別にダイガットに対してなんとも想っていなくても流石にムカついた。
こっちは高熱で寝込んでるんだぞ!
足だって腕だって肩だって、痛いんだぞ!
なんだか惨めで悔しくて、泣きたくないのに悔し涙が滲んだ。
フランソア様が水をかけたせいで熱が出たわけではない……と思う。
怪我のせいだけでもない……と思う。
多分毎日が気が張った生活の中で、あの時、もういいやってなんだか投げやりな気持ちになって、気持ちが緩んでしまった。
一気に体調が崩れた。
成績の維持と屋敷に帰ってからの仕事、毎日が時間に追われ、ゆっくり休む暇すらなかった。
でもおかげでしっかり休むことができたし、なんでもほどほどに頑張らないといけないなと思った。
義母も流石に寝込んでいる間、仕事を回してこなかった。
メイド長は心配して毎日顔を出してくれて、少しだけ甘えさせてもらえたもの。
悪いことばかりではなかった。
そう思えば笑っていられる。
だけど二人に本当のことを話すつもりはない。話せばさらに怒って、宥めるのが大変そうだもの。
馬車を降りると私を見つけたマリアナが令嬢らしからぬ姿で大声を出しながら走ってやってきた。
「マリアナ……周りが見てるわよ」
「あら?そんなの気にしないわ。私を誰だと思っているの?これでも公爵令嬢よ?誰も私に何も言えないわよ」
この国で四家しかない公爵家のご令嬢のマリアナ。
いずれは王家に嫁ぐだろうとも言われているのに、いいのかしら?
本人は嫌がってまだ王太子殿下との婚約は成立していないけど、彼女が王太子殿下の婚約者になることは周囲ではすでに周知されている。
でもお互いあまり仲が良くなくて、上手くいかないかもと周囲は心配してもいるのだけど、どうなるのかしら?
「ビアンカ様ぁ!」
「バァズ!」
マリアナと並んで歩いていると前からバァズが駆け寄ってきた。
ふふっ。子犬みたいで可愛い。
「寝込んでいたと兄から聞きました。本当はお見舞いに行きたかったのですが、やめておいた方がいいと兄に言われて我慢してました」
「それは正解だわ。私もお見舞いには行かなかったのよ?先触れを出したのに、ビアンカの体調が思わしくないからとお断りされたの」
「心配かけてごめんなさい。なかなか熱が下がらなくてずっと寝込んでたの」
「ねぇ?ダイガット様は顔を出したの?」
「ううん、全く。多分フランソア様がお泊まりに来られていたからお忙しかったんじゃないのかな」
「はああああ?なに、それ?」
「ビアンカ様、なんで笑ってるんですか?」
笑ってる……うん、もう笑うしかないわよね。
私の部屋から、庭で二人が寄り添うように笑い合い、手を繋ぎ歩いている姿を見せつけられた。
そう、見えたと言うより「見て見て!」って感じで見えてしまった。
ベッドから見える窓の向こうに仲睦まじい二人の姿。別にダイガットに対してなんとも想っていなくても流石にムカついた。
こっちは高熱で寝込んでるんだぞ!
足だって腕だって肩だって、痛いんだぞ!
なんだか惨めで悔しくて、泣きたくないのに悔し涙が滲んだ。
フランソア様が水をかけたせいで熱が出たわけではない……と思う。
怪我のせいだけでもない……と思う。
多分毎日が気が張った生活の中で、あの時、もういいやってなんだか投げやりな気持ちになって、気持ちが緩んでしまった。
一気に体調が崩れた。
成績の維持と屋敷に帰ってからの仕事、毎日が時間に追われ、ゆっくり休む暇すらなかった。
でもおかげでしっかり休むことができたし、なんでもほどほどに頑張らないといけないなと思った。
義母も流石に寝込んでいる間、仕事を回してこなかった。
メイド長は心配して毎日顔を出してくれて、少しだけ甘えさせてもらえたもの。
悪いことばかりではなかった。
そう思えば笑っていられる。
だけど二人に本当のことを話すつもりはない。話せばさらに怒って、宥めるのが大変そうだもの。
2,026
あなたにおすすめの小説
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
戦場からお持ち帰りなんですか?
satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。
1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。
私の結婚生活はうまくいくのかな?
心を失った彼女は、もう婚約者を見ない
基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。
寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。
「こりゃあすごい」
解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。
「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」
王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。
「こりゃあ対価は大きいよ?」
金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。
「なら、その娘の心を対価にどうだい」
魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる