あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
51 / 77

51話

しおりを挟む
 オリソン国もまた青い空が続いていた。

 最近は天気も良く心地よい温度で歩くにも最適な日々が続いていた。

 お祖母様と二人、寄り添い合いながら森の中を歩いた。

 もちろん後ろからは侯爵家の護衛とあと少し制服の違う護衛の人が数人ついて来てくれていた。

「あの護衛の人たちはね、オリソン国の騎士様なのよ」

「騎士の方達がどうしているのですか?」

「わたくし達が元国王族だからよ」

「王族?」

 初めて聞いた話だった。

「ふふっ、と言っても母が前王国の国王の娘だったというだけで、今の国王からしたら敵だったのだけどね」

 オリソン国は以前、悪政に苦しめられ全王国は滅び、新しい国王が即位した。

 その時前国王の親類縁者全てが処刑されたり罰を受けたわけではなかったらしい。

 曾祖母の夫である公爵は、曾祖母の甥である国王の悪政を何度も諭し、国民のために仲間達と共に奮闘して回った。

 飢饉により食糧不足の人たちのために自らの資金を使い外国から食糧を買いつけ配ったりもしていたそうだ。
 治安が悪化した村々に騎士や兵士を向かわせ、治安維持に努めた。

 現国王は、曾祖父達が努力してきたことを考慮して罰を与えることなく、逆に頼りにしたのだと教えてくれた。今はもう亡くなってしまったが、祖父や叔父達、公爵家の者達はこの国を支えているらしい。

 でも……お出かけだけなら侯爵家の護衛で十分なのでは?

 私の考えていることが顔に出ていたのだろう。

「ビアンカ、貴女はこの国に来てもう安心だと思っているでしょう?」

 え?違うの?
 継母の手を逃れ、こんなに穏やかな暮らしをしているのに?

「ミラー伯爵夫人は、今国内から姿を消しているの。アーシャの殺人容疑で逮捕しようとして……ミラー伯爵を刺して逃げているわ」

 思ってもみなかった言葉に呆然とした。

「だからと言ってこの国に来るかはもちろんわからないわ。あんな女のために貴女が屋敷にじっと隠れているなんておかしいと思うの。でもね、安心しているわけにもいかない。
 それで女性騎士を数人国王にお願いして回してもらったの」

 なるほど。だから女性の騎士が二人後ろについているんだ。

「本当は話しておかなければいけない話だったのだけど、貴女が熱で寝込んでいたから迷ってしまっていたの。また後ほど詳しく話をするわ」

「……はい」

 お父様が刺されたと聞いて内心ドキッとしたのに、急いで問いただそうと思わない。

 死んでいないのならそれだけでいい。

 私は冷たい娘かもしれない。

 もうあの国を振り返ることはない。

 でも、王妃様やシャルマ夫人にはお礼の手紙を書いた。

 バァズやメイド長達にも元気でいること、またいつか会いたいと手紙を送った。

 マリアナ達に手紙を送ったらすぐに返事が来た。

『馬鹿!どうしてわたくし達を頼ってくれなかったの?どうしてさよならを言わせてくれなかったの?どうして一人でいなくなったの?』

 そんな内容の手紙に苦笑いをした。そして、マリアナ達のくれた手紙の字が滲んでいるのを見て、私も涙が溢れた。

 彼女達に迷惑をかけたくなくて頼らずに国を出た。
 でもみんなは……頼って欲しかった、子供の時は守ってあげられなかったからこそ今度は守ってあげたかったと書いてあった。

 またいつかみんなに会いたい。

 その想いを手紙に書いてまた返事を送った。



 森の中を少し歩くと、たくさんの花が咲いていて、そこにお母様のお墓が建てられていた。

 お母様は侯爵家の土地であるこの森が大好きで良く家族で遊びに来ていたらしい。
 もちろん王妃様もこの森が大好きで、二人はよく森の中を散策したりピクニックをして楽しんでいたと話してくれた。

 お母様は大好きだったオリソン国のこの森の中で静かに眠っていた。

 すぐに再婚した父から遺骨を返してもらった。父は何か思うところはあったのだろうか?
 それとも母の遺骨を簡単に手放したのかしら?

 お母様は今のお父様に対してどう思っているの?

 お母様のお墓の前で手を合わせ話しかけた。

「お母様……ずっと会いに来れなくてごめんなさい……やっと……会えました」

 お祖母様は手を合わせた後すぐにその場を離れ護衛達と別の場所でゆっくり過ごしていた。

 私は久しぶりにお母様と話をした。一方的な問いかけでしかないけど、お母様にぽつりぽつりと話したかったこと、聞いてほしい自分の気持ちを語った。





「お母様、これからは度々会いに来ますね」









 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

戦場からお持ち帰りなんですか?

satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。 1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。 私の結婚生活はうまくいくのかな?

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

処理中です...