あなたの愛はもう要りません。

たろ

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61話 お父様。②

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 ミラー伯爵はセシリナに甘い言葉を耳元でそっと囁きながら屋敷の中の様子を窺うことにした。

「素敵な屋敷だな。中を案内してくれないか?」

「もちろんよ、貴方」

 セシリナは夫が自分を探しにきてくれたことに有頂天になり警戒心を忘れ、夫の手をとると楽しそうに案内を始めた。

 使用人の数は少ない。
 ただ警戒心の強いセシリナは護衛をかなり雇っていた。

 外にいる騎士達がここの護衛に見つからなければいいが。ミラー伯爵はふと不安になったが、彼らはこの国で訓練を積んだ正式の騎士で強者達だ。

 いざとなればここにいる護衛達を取り押さえてくれるだろうと信じることにした。

 今はビアンカを助け出すことだけを考えることにした。

 ビアンカがどこにいるのかわからない今セシリナには優しく接するしかない。

 本当はこの女を触るのも声を聞くのもゾッとするほど嫌だった。

 いっそ捻り上げて白状させたいと思うのだが、もしそのせいで護衛が逆上してビアンカに何かあったらとグッと堪えていた。

 言葉で誘導するしかない。

「セシリナ、君がこの国に来ているとは思ってもいなかったよ。あの二人を嫌う君がここにいるなんて……だから他の国を探していたんだ」

「ふふふっ。嫌いだからこそこの国へ来たのよ。あの娘がこの国に逃げてきたのを知って、また苦しめて泣いた顔や悔しそうにしている顔を見たかったの」

 ミラー伯爵は一瞬顔から怒気が浮かんだがそれをグッと堪えた。

「あの不愉快な娘の顔など見て楽しいのか?」

 嫌な顔をしてセシリナに問う。

「貴方も一緒にあの娘の無惨な姿を見てみたい?鞭で打たれて血だらけで……はははっ!死ぬまで鞭で打ち続けてやるわ…簡単には死なせない」

 ビアンカの姿を思い出しているのだろう。愉しそうに嗤う顔は理性を失っていた。

 大切な娘をこの女は……すぐにでも殺してやりたい。

「ビアンカは公爵家と侯爵家に守られているし殿下がそばにいる。簡単に接触はできないだろう?」

「ふふふふ。簡単だったわ。学校は安心安全だとみんなが思っているから穴場なの。大金を握らせれば出入り業者がわたくしを簡単に学校へと引き入れてくれたわ」

「へええ、さすがセシリナだね」

「数日あの娘の行動を見張っていたのよ。
 そしたらあの娘池に入って猫を助けようとしていたの。だから溺れさせて殺そうとしたのだけど流石に人が多いから仕方なく連れて帰ってきたわ。馬車の中で少しだけ可愛がってあげたんだけどほんと、可愛げがないの。
 どんなに鞭で打っても泣きもしない。服は池で溺れてずぶ濡れのままだし傷だらけだから今頃弱ってぐったりしているんじゃないかしら?」

「……手当は?」

 聞いているだけで顔を顰めたくなる。それでも冷たい表情のまま淡々と聞いていた。

「しないわよ。顔を見るだけでイライラするもの。どうして手当てをしてあげなければならないの?」

 セシリナはビアンカのことを考えると嫌悪した顔をした。

「あの娘の顔を見るとアーシャを思い出すわ。ねぇ貴方も嫌でしょう?あの娘のことなんて考えるだけでイライラするわよね?でも……苦しむ顔は見ているととても楽しくなるの……ずっと苦しめばいいのよ」

「ああ、そうだな」

 ミラー伯爵の右手は強く握りしめられていた。

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