あなたの愛はもう要りません。

たろ

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67話 ダイガット。

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 父上の言葉は信じられるはずがなかった。

 だって、いつもフランソアは泣いていた。

 俺のそばに来て「辛いの」「もう耐えられない」と何度言っただろう。

 母親が亡くなり新しい母がやってきた。

 そして一人疎外感の中で存在を小さくして辛い日々を送ってきたはずだ。

 あの涙が嘘?そんな馬鹿な……

「ビアンカこそずっと耐えてきたんだ」

「ビアンカが?」

「継母にいじめられ、父親にまで無視されて誰も助けがない中でずっとあの子は耐えてきた。
 それを知った妻と王妃が彼女を助けるため我が家に嫁として迎えたんだ……お前に嘘をついて籍はいれていなかった……いや、二人がもし少しでも良い関係を築けそうなら籍を入れるつもりだった。
 だが、お前は幼馴染のあの娘にばかり気を取られビアンカのことを蔑ろにしていただろう?」

「だってビアンカは……俺だって仲良くしたかった……でも彼女とゆっくり接する機会すら作ってもらえなかったではないですか!」

「お前の態度を見ていれば誰だってビアンカを近づけたいとは思わないだろう?」

「父上達だってビアンカには冷たかったですよね?」

「……ああ、出来るだけ線を引いていたからな」

「それじゃあ俺のことは言えませんよね?」

 ふんっ!全て俺が悪いみたいに言われてイライラする。

 フランソアのことだって悪く言われてさらに苛立った。
 別にフランソアを愛しているわけではない。だけど大切な幼馴染だし……多分結婚するしかない……

 体の相性は悪くないし、それならそれで受け入れるしかないのかもと思っていた。

 フランソアが父上の言った通りの女だとは思えない。

 あのか弱くいつも辛そうに泣いている姿を思い出せば、自分が目の前で見てきたフランソアを信じたくなる。

「ビアンカに対して優しくしなかったのはあの継母のせいだ……ビアンカが不幸せじゃなければあの女は満足しない……セシリナとフランソアは性格が似ている……」

 父上から聞く話は俺が納得できるような話ではない。

 ビアンカの継母は公爵令嬢だった。
 とても美しく愛情あふれる女性だった。

 母を亡くしたビアンカを不憫に思いミラー伯爵と再婚した健気な女性。

 継子のビアンカをとても大切に育てていると言うのが社交界で知れ渡っている話だ。

「ビアンカが不幸せじゃないといけない?は?そんなわけないでしょう?」

 父上の言い訳を呆れながら聞いた。

「お前は何も見えていないのだな。妻がビアンカに厳しくしていたのはまともに令嬢として育てられていなかったビアンカに一人で生きていく力をつけるためだったんだ。侯爵家の帳簿や書類を任せたのもどこに嫁いでも困らないようにだ。厳しく躾けたのもマナーをきちんと教えるためだった。そして使用人達と過ごさせたのはお前から身を守るためだ。
 お前はフランソアと体の関係があったからな。もしビアンカに手を出したら困る」

「でも、ビアンカといずれは籍を入れさせるつもりだと言ってませんでしたか?」

「もちろん最初はそのつもりだった。だがお前がフランソアとあまりにも親しいので調べて思わず頭を抱えてしまった」

「し、仕方がなかったんです……フランソアが甘えてくるから……つい……でもビアンカのことだけを愛しているんです。フランソアとのことはほんの出来心だったんです」

「もういい、言い訳は必要ない。お前とフランソアの結婚は決まった。そして二人には領地で過ごしてもらう」

「俺は卒業したら殿下の側近ですよ?領地になんて行けるわけないじゃないですか?」

「殿下はもう王太子の座からおりられた。もう王族ではない」

「嘘ですよね?」

 俺は………側近として輝かしい日々を送るはずなのに……

 ビアンカのこと、フランソアのこと、殿下のこと、今まで俺が知っていた事実全てが覆されてしまった。
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