あなたの愛はもう要りません。

66話 ダイガット。

「いいか、お前はしばらく反省していろ」

　父上が冷たく言い放った。

　ビアンカは俺の前から突然いなくなった。

　そして残ったのは……虚しさと目の前にいるフランソアだけだった。

　俺は屋敷の中にある簡素な何もない部屋に入れられている。


　フランソアが俺の世話係として食事を運んでくれる。

　俺は今体調を崩している。

　薬なんてないと言われた。

　もしビアンカに25回離婚を言い渡されたら強制的に離婚することになると聞いていた。

　だけど実際は…… 
　 
　俺が浮気を25回したら………

　呪いが………

　俺の下半身は………
　 
　今は動くこともできないくらい腫れあがり痛みでまともに食事も摂れない。

　フランソアが来るたびに俺に色目を使う。

　だがそんな気にはなれない。見たらわかるだろう？

　なのにフランソアは……

「ねぇダイガット。体調はどうかしら？わたくし寂しくってよ？」

「………」

　ジト目でフランソアを睨みつける。

　見たらわかるだろう？
　性欲？
　そんなものどこから湧き上がってくるんだ？

　お前の色仕掛けに乗って……つい…バレなければ大丈夫だ、これは浮気なんかじゃない、ただのちょっとした触れ合いなんだと言い聞かせてしまったのは俺だ。

　そんな訳ないことはわかっていた。
　だけど、「抱いて欲しいの」「寂しいの」「本気にならなくてもいいの」なんて甘い言葉を耳元で囁かれればつい手が伸びてしまうのは男なんだから仕方がないだろう。

　嫁にもらったはずのビアンカにはなかなか近づけなかった。

　素直になれずについビアンカに酷い言葉を浴びせたし、フランソアを優先したのも事実。

　ビアンカはもう俺の嫁なんだから安心しきっていた。

　フランソアは大切な幼馴染でそう言うへんな関係ではない。

　だからビアンカも何も心配する必要はないし、俺自身、優しい俺に酔いしれていたのかもしれない。

　ビアンカに触れられない性欲が溜まってきているところに、フランソアから「抱いてほしいの」なんて言われれば、つい手が伸びてしまう。

　一度知ってしまった女の体に夢中になって……

　それでもフランソアは大切な幼馴染、これは浮気じゃない、なんて言い訳を頭の中で考えていた。


　ビアンカが初恋でずっと好きだったのに………

　俺はなんて馬鹿なんだろう。

　父上に体調が戻ったらすぐにフランソアと結婚しろと言われた。

「あの娘の腹にはお前の子供がいるかもしれないからな。それに責任をとって結婚するのは当たり前のことだ」

　そして大きなため息をつかれた。

「お前が一人息子でなければさっさとお前を後継者からおろすのに……これから地獄が待っているからな。あのフランソアはかなり成績が悪いらしい。徹底して侯爵夫人としての教育を行うからな。
　あの娘が泣きついてきても助けるな。どんなに時間がかかっても教え込む。もしそれが出来ないならあの娘にはお前の子供を産むだけの妻になってもらう。
　社交は第二夫人を娶るしかない」

「そんな………フランソアはとても気が弱くて優しすぎるんです。無理なことはさせられません」

「はあ？気が弱い？そんな女が妻がいる男に色目を使うわけがないだろう？」

「でもフランソアは継母にいじめられ毎日辛い思いをしながら暮らしてきたんです。頼れるのは俺しかないなくて……だからビアンカには悪いと思ったのですがフランソアは大切な幼馴染だから守ろうと思ったんです」

「あの娘が継母にいじめられた？継母を虐めて継母の精神をどん底まで落としてわがまま放題に過ごしているあの娘が？お前の目は節穴なのか？」

「そんなわけありません！だっていつも泣いていたんです。食事に変なものを入れられていたとか、ベッドのシーツが切り刻まれていたとか、部屋が水浸しになっていたとか、使用人からも無視されるとか……他にも色々とされていたようです」

「それは全てフランソアが継母にしてきたことだ」

「う、嘘でしょう？」