あなたの愛はもう要りません。

たろ

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71話

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「あ……オリエ様………」

 ふと我に返った私は外へやっていた視線をオリエ様へと向けた。

「私……そろそろ帰らなきゃ」

 オリエ様に誘っていただいたお礼を言って、ミーシャには「今のことはオリエ様に言わないで」と頼んで先に帰宅する事にした。

 外に出た時にはもうフェリックス様の姿はなかった。

 もう一度確認したい気持ちともう見たくない気持ちでぐちゃぐちゃだったけど、やっぱりもう居なくて内心ホッとした。

 侯爵家の護衛がすぐに私に気がつき馬車へと案内してくれた。

 ミーシャはオリエ様と帰るだろうから心配はしなくても大丈夫。

 静かに馬車が屋敷へと向かっていく。

 行きはとても楽しくてワクワクしていたのに、帰りの自分はとても惨めだった。

 フェリックス様が他の女性とデートなんて……信じたくなかったのに目の前で見てしまってはもう認めるしかない。


 馬車を降りて部屋に行こうとしたらお祖母様と廊下で会ってしまった。

「ビアンカ?早かったのね?」

「はい、久しぶりの外出で疲れたので早めに切り上げてきました」

 にこりと微笑んで「少し休みます」とお祖母様の顔をあまり見ずに部屋へと向かった。

 誤魔化せていないかもしれない。

 それでも心配をかけたくはない。

 部屋に入るとベッドに横になった。

 枕に顔を埋めて何も考えないようにしているのに頭の中では二人が仲良くしている姿が思い浮かんで胸が苦しい。


 夜、食欲もなく「疲れているので夕食はいらない」と断りを入れ部屋から出ないで過ごした。

 お祖母様が「何かあったの?」「体調が悪いの?」とやはり心配して顔を出してくれた。

「ううん、ただ久しぶりの外出で疲れちゃった。食欲も出ないだけだから大丈夫だよ」

「後で軽食を持ってくるから。少しでもいいから食べてちょうだい」

 あまり心配をかけるわけにもいかず「うん、ありがとう」とお礼を言ってもう少し休ませてもらうことにした。


 横になっているといつの間にか眠ってしまっていたようだ。

「ビアンカ?」

 聞き慣れた声が。

 でも今は会いたくないし、話したくない。

 目を開けずに寝ているフリをした。

「ビアンカ?」

 フェリックス様が訪ねてきたようだ。

 いつも当たり前のように部屋に入ってくる。それは今までなら何も気にしなかった。

 でも昼間の彼の姿を見てしまって当たり前のように部屋に入ってくることが許せなかった。

 何度か声をかけられたけど寝たふりをしたままでいると「はあ」と呟いてそのまま部屋を出て行ってしまった。

 いつもの私ならすぐに目を覚まして「おはよう」と彼に笑顔を向けていた。

 どんなふうに笑えばいいのかわからない。だけど昼間のことを訊く勇気もまだない。

 何か理由があったの?

 それならあんなふうに腰に手を回したりしないわよね?

 親密な関係だと思ってしまう。だって、忙しいと最近は会いにもきてくれなかったのに他の女性とは親しくしていたんだもの。

 そして突然会いにきたのは後ろめたいから?

 彼が部屋を出て行ったあと、目を開けて扉の方へと目を向けた。

 また部屋に戻ってくることはなかった。

 そして彼が私を訪ねてくることもなくなった。

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