75 / 97
75話 再会編
しおりを挟む
「お祖父様はわたしを、わたしの心を救ってくれました。今度はわたしがお祖父様の大事な娘を助ける番です。わたしがどこまでできるかわかりませんが少しでもよくなればいいと思っています」
ーーお母様……絶対に助けるから……死なないで。
わたしはお母様が怖い。でも、死んで欲しくなんてない。
わたしは学園を転校した。北の領地は王都から馬車で14日程かかる遠い場所。
治療に何度も通うには難しい。
幼い頃に何度か訪れたことはある。
自然豊かではあるが冬になると寒さが厳しい。
でも北の領地には美味しい魚がたくさんん獲れるし、農作物もこの場所でしか作れないものもある。
だから田舎ではあるが領民達の生活は豊かな場所でもある。
人々は穏やかで温かく迎えてくれる。
メリッサとロウトは今回もついて来てくれた。
さすがにミケランは寒い場所なので悩んだが、置いていけば捻くれて部屋中の壁や柱を爪でガリガリしたり、おしっこを至る所でしたりして嫌がらせをするので、やはり連れて行くことにした。
14日間の長旅はとても疲れた。
お母様が王都に戻って来て治療できないのもこの場所があまりにも遠いのも一つの理由だろうと思った。
そして、お祖母様の屋敷の前に立ち、わたしはこれからここに居る全ての人の前で前世のアイシャのフリをしなければいけない。
お父様はお祖母様だけには伝えたと言っていた。
でも使用人達にはどこで漏れるかわからないので、わたしはアイシャだけどアイシャではない。
なので、ただの客として扱うように伝えてもらっている。
屋敷に入ると記憶にある侍女長がわたしを懐かしそうに見ていた。
わたしは、初めて会った人のように
「初めまして、アイシャと申します。この度はしばらくこちらにご厄介になります」
頭を深々と下げて挨拶をした。
「…アイシャ様……」
言葉をなくした侍女長はわたしを呆然と見つめ、悲しそうに顔を顰めた。
「本当にわたし達をお忘れなのですね」
ーーごめんなさい。本当は全てを覚えているのに。幼い頃、抱っこしてくれたこと、一緒にお菓子を作ったこと、森の散策に行ってみんなで昼食をとったこと。
笑い合ったあの懐かしい日々をわたしはなかったことにしている。
それでも……わたしはお母様の前で「娘」ではいられない。わたしは前世のアイシャとして振る舞うと決めたのだから。
「ここはとても自然が多くて良い所みたいですね、学校の手続きをしてくださってありがとう。出来れば明日から学校にも通いたいのですが、大丈夫かしら?」
「はい、全て手続きは済んでおります。制服も用意しておりますので」
「ありがとう、ハイド様のお母様のカレン夫人にご挨拶をしたいのですが、いらっしゃいますか?」
侍女長はもう顔には出さずに笑顔で客として迎えてくれた。
「はい、奥様のところへご案内致します」
ーーーー
お祖母様のところへ案内されるとすぐに人払いをされて二人っきりになった。
「アイシャ、わざわざすまないわね」
「お祖母様……わたしの我儘を聞いて貰ってありがとうございます」
「何を……貴女の両親は、アイシャを傷つけてばかりで……もうリサには会いたくはないだろうに……ハイドが貴女を頼って……ごめんなさいね」
「お母様の具合は?」
「……末期の悪性腫瘍だと言われたわ。なのに本人はもう治療は要らないと言って死を待っているだけなの」
「どうして?助かる道はあるのに…」
「リサはね……娘の貴女に嫉妬をしていたの。自分よりも優れた魔法の才能、魔力、そして魔力を持つ者にとって一番憧れる無属性。アイシャはリサを軽く超える才能を持っているのね、リサも初めは単純に娘の才能に喜んでいたけど……リサが優秀とこの国で讃えられていたからこそ、その嫉妬は抑えていても本人も気がつかないうちに増長していったみたいなの。
私達のように普通の魔力ならそんなことは思わなかったのだろうけど、リサはずっとこの国でトップでい続けたから、本人も気がついたらもう止められなかったみたい……
ここに来た時のリサは心が壊れていたの、自分が娘を不幸にしたことにやっと気がついて、もう取り返しがつかないとわかったから……そして…病気がわかっても誰にも言わずにいたの……わたし達が気がついた時には病気は手遅れになっていたのよ」
「お母様がわたしに嫉妬?」
「才能がある者は、自分より上の人に嫉妬をし、歪んでしまう。それを自分では気づいてすらいない……リサは、ここでわたしと話をずっとして過ごしたの、アイシャの生まれた時のこと、初めて母乳を飲ませた日の幸せだった思い、寝返りを打った時の喜び、アイシャが初めて歩いた日のこと、「おかあさま」と呼んでくれた日のこと、ターナが生まれてアイシャがお姉ちゃんになった日のアイシャの嬉しそうな顔。
リサはやっと思い出したのよ、アイシャを育ててどんなに幸せだったか、愛していたか………いまさら遅いのにね、やり直せないのに……
だからリサはもう自分が壊したことを、もう戻れないことをわかって…病気を受け入れたのだと思うの」
「お母様がわたしを愛していた?
……わたしはお母様に愛されたかった。でもお母様はわたしをみていなかったんです。わたしを見る目はとても……怖かった…ターナを見るようにわたしのことも見て欲しいと何度も心の中で願って……いい子でいれば……明るくしていれば……我儘言わなければ……わたしはなんとかわたしにも微笑んで欲しかった。
でもお母様は作り笑いしかわたしにはしなかった……」
「……全て、リサとハイドのせいなの。
ターナも親の姿を見て育ったからアイシャに対してバカにしようと蔑もうと何も言われないとわかっていたのだと思うの。ターナをあんな子に育てたのもあの二人のせいでもあると思うのよ。
もちろんターナの我儘で自己中心的な性格は元々ではあるのかもしれないけどね」
お祖母様は苦笑いをしていた。
「お祖母様、わたしはお祖母様のことも屋敷ではカレン夫人と呼ばせてもらいますね」
「……わかったわ、ではアイシャ……いえアイシャさん、リサに会っていただけるかしら?」
「もちろんです、カレン夫人」
ーーお母様……絶対に助けるから……死なないで。
わたしはお母様が怖い。でも、死んで欲しくなんてない。
わたしは学園を転校した。北の領地は王都から馬車で14日程かかる遠い場所。
治療に何度も通うには難しい。
幼い頃に何度か訪れたことはある。
自然豊かではあるが冬になると寒さが厳しい。
でも北の領地には美味しい魚がたくさんん獲れるし、農作物もこの場所でしか作れないものもある。
だから田舎ではあるが領民達の生活は豊かな場所でもある。
人々は穏やかで温かく迎えてくれる。
メリッサとロウトは今回もついて来てくれた。
さすがにミケランは寒い場所なので悩んだが、置いていけば捻くれて部屋中の壁や柱を爪でガリガリしたり、おしっこを至る所でしたりして嫌がらせをするので、やはり連れて行くことにした。
14日間の長旅はとても疲れた。
お母様が王都に戻って来て治療できないのもこの場所があまりにも遠いのも一つの理由だろうと思った。
そして、お祖母様の屋敷の前に立ち、わたしはこれからここに居る全ての人の前で前世のアイシャのフリをしなければいけない。
お父様はお祖母様だけには伝えたと言っていた。
でも使用人達にはどこで漏れるかわからないので、わたしはアイシャだけどアイシャではない。
なので、ただの客として扱うように伝えてもらっている。
屋敷に入ると記憶にある侍女長がわたしを懐かしそうに見ていた。
わたしは、初めて会った人のように
「初めまして、アイシャと申します。この度はしばらくこちらにご厄介になります」
頭を深々と下げて挨拶をした。
「…アイシャ様……」
言葉をなくした侍女長はわたしを呆然と見つめ、悲しそうに顔を顰めた。
「本当にわたし達をお忘れなのですね」
ーーごめんなさい。本当は全てを覚えているのに。幼い頃、抱っこしてくれたこと、一緒にお菓子を作ったこと、森の散策に行ってみんなで昼食をとったこと。
笑い合ったあの懐かしい日々をわたしはなかったことにしている。
それでも……わたしはお母様の前で「娘」ではいられない。わたしは前世のアイシャとして振る舞うと決めたのだから。
「ここはとても自然が多くて良い所みたいですね、学校の手続きをしてくださってありがとう。出来れば明日から学校にも通いたいのですが、大丈夫かしら?」
「はい、全て手続きは済んでおります。制服も用意しておりますので」
「ありがとう、ハイド様のお母様のカレン夫人にご挨拶をしたいのですが、いらっしゃいますか?」
侍女長はもう顔には出さずに笑顔で客として迎えてくれた。
「はい、奥様のところへご案内致します」
ーーーー
お祖母様のところへ案内されるとすぐに人払いをされて二人っきりになった。
「アイシャ、わざわざすまないわね」
「お祖母様……わたしの我儘を聞いて貰ってありがとうございます」
「何を……貴女の両親は、アイシャを傷つけてばかりで……もうリサには会いたくはないだろうに……ハイドが貴女を頼って……ごめんなさいね」
「お母様の具合は?」
「……末期の悪性腫瘍だと言われたわ。なのに本人はもう治療は要らないと言って死を待っているだけなの」
「どうして?助かる道はあるのに…」
「リサはね……娘の貴女に嫉妬をしていたの。自分よりも優れた魔法の才能、魔力、そして魔力を持つ者にとって一番憧れる無属性。アイシャはリサを軽く超える才能を持っているのね、リサも初めは単純に娘の才能に喜んでいたけど……リサが優秀とこの国で讃えられていたからこそ、その嫉妬は抑えていても本人も気がつかないうちに増長していったみたいなの。
私達のように普通の魔力ならそんなことは思わなかったのだろうけど、リサはずっとこの国でトップでい続けたから、本人も気がついたらもう止められなかったみたい……
ここに来た時のリサは心が壊れていたの、自分が娘を不幸にしたことにやっと気がついて、もう取り返しがつかないとわかったから……そして…病気がわかっても誰にも言わずにいたの……わたし達が気がついた時には病気は手遅れになっていたのよ」
「お母様がわたしに嫉妬?」
「才能がある者は、自分より上の人に嫉妬をし、歪んでしまう。それを自分では気づいてすらいない……リサは、ここでわたしと話をずっとして過ごしたの、アイシャの生まれた時のこと、初めて母乳を飲ませた日の幸せだった思い、寝返りを打った時の喜び、アイシャが初めて歩いた日のこと、「おかあさま」と呼んでくれた日のこと、ターナが生まれてアイシャがお姉ちゃんになった日のアイシャの嬉しそうな顔。
リサはやっと思い出したのよ、アイシャを育ててどんなに幸せだったか、愛していたか………いまさら遅いのにね、やり直せないのに……
だからリサはもう自分が壊したことを、もう戻れないことをわかって…病気を受け入れたのだと思うの」
「お母様がわたしを愛していた?
……わたしはお母様に愛されたかった。でもお母様はわたしをみていなかったんです。わたしを見る目はとても……怖かった…ターナを見るようにわたしのことも見て欲しいと何度も心の中で願って……いい子でいれば……明るくしていれば……我儘言わなければ……わたしはなんとかわたしにも微笑んで欲しかった。
でもお母様は作り笑いしかわたしにはしなかった……」
「……全て、リサとハイドのせいなの。
ターナも親の姿を見て育ったからアイシャに対してバカにしようと蔑もうと何も言われないとわかっていたのだと思うの。ターナをあんな子に育てたのもあの二人のせいでもあると思うのよ。
もちろんターナの我儘で自己中心的な性格は元々ではあるのかもしれないけどね」
お祖母様は苦笑いをしていた。
「お祖母様、わたしはお祖母様のことも屋敷ではカレン夫人と呼ばせてもらいますね」
「……わかったわ、ではアイシャ……いえアイシャさん、リサに会っていただけるかしら?」
「もちろんです、カレン夫人」
330
あなたにおすすめの小説
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる