76 / 97
76話 再会編
しおりを挟む「……わかったわ、ではアイシャ……いえアイシャさん、リサに会っていただけるかしら?」
「もちろんです、カレン夫人」
わたしはお祖母様に優しく微笑んだ。
お祖母様はわたしのことを孫としてきちんとみてくれている。ここにもわたしを家族としてずっと想ってくれた人がいたことがわかって嬉しかった。
そして、お母様に会う時間が近づいてきた。
ーー会いたい? わからない
ーー助けたい? それはもちろん
ーー許せる? わからない
会ってみないと自分でもどうしていいのかわからない。
ドキドキしながらお母様の部屋へ向かう。
お母様の部屋は屋敷の一階の奥にあった。
そこは陽当たりの良い部屋。
部屋の窓からは庭が見える場所。
幼い頃ここに泊まりにくるとお母様とターナと三人で大きなベッドで一緒に眠りについた部屋。
あの頃のわたしは幸せがずっと続くと思っていた。
「おねえちゃま!」と言ってわたしの後ろをついて来るターナ。
わたしが魔法を失敗して、庭が水浸しになるとお母様は「お花が喜んでいるわ」と笑いながら言ってくれた。
大好きなデザートをターナと二人で分け合いながら食べた。
近くの森をみんなでピクニックに行ったり、近くの村を散策したり。
この場所は北の領地で寒さが厳しいと言われる辺境だけど、自然が豊かで素敵な思い出しかない場所。
ターナと喧嘩したり泣いたり、そして思いっきり笑った。
廊下を歩いていると思い出すのは懐かしい楽しい思い出ばかり。
「……………アイシャ?」
「…あっ、すみません」
お祖母様がわたしの顔をじっと見つめて「大丈夫?」と尋ねて
「はい、カレン夫人、大丈夫です」
気を引き締めて扉をノックした。
「どうぞ」
中にいるメイドが返事をして扉を開けてくれた。
そっと中に入ると、意識があるのかわからない状態で青白い顔をしたお母様がベッドに寝かされていた。
思わず駆けつけたくなったけど、ギュッと手を握りしめて心を落ち着かせた。
「リサ様、お加減はいかがですか?」
ベッドのそばに行きお母様の様子を見ながら声をかけたが返事はなかった。
ただわたしを虚な目で見つめるだけだった。
わたしはお母様の手にそっと触れた。
自分の魔力を流してお母様の悪いところを探して行く。
悪性腫瘍は肺のところにあるのか……息が苦しそう。
それに、治療を拒否しているため体力自体も弱っている。
お母様は前世でわたしを助けるためにわざわざバナッシユ国まで来てくれた。
今度はわたしがお母様のために頑張る。
そう、前世のアイシャとして……お礼の気持ちを込めて。
「リサ様、まずは体力をつけましょう。このままでは病気に勝つことはできません」
わたしの声に反応した。
微かに目を開けて、わたしを見た。
「…ア……ャ」
そしてわたしの手を力のない手で微かに握り返した。
そして、首を横に振った。
わたしの魔力を拒絶しているのがわかる。
こんなに体が弱っているのにわたしの魔力を撥ね付ける。
「どうして?わたしは確かに生きることを拒否しました。でもそれはもう生ることが出来ないとわかっていたからです。
でも貴女はまだ治療を出来る状態です。生きることを諦めないでください」
わたしの声が聞こえているのだろう。
お母様は何度も首を振る。
「……わたし……は、アイシャ……を自分…の傲慢…さから…見捨て……た」
「だから死ぬのですか?そんなことをして眠り続けるアイシャは喜ぶのですか?自分の親を自分のせいで死なせて喜んでくれるのですか?
貴女の罪は生きて後悔しても辛くてもアイシャに向き合って行くことではないのですか?」
ーーお母様、わたしは死んで欲しいなんて想っていないの。
「……生きて…向き…合……う?」
お祖母様が背後で啜り泣いているのがわかる。
わたしはお母様に酷いことをしているのだろうか。娘として向き合わず、別の人としてしか向き合えていない。
生きてもわたしに拒絶される日々を、辛い日々を生きろとわたしは言っている。
それが正解なのか……
……わからない。
それでも、今はわたしの魔力を受け入れて欲しい。
わたしはお母様の手を握り、また少しずつ魔力を流す。
先程の抵抗が嘘のようにお母様の体はわたしの魔力を受け入れてくれた。
青白い顔に少しだけ血の気が戻ってきた。
一気に癒しの魔法を流せばその反動で逆に体に負担がかかる。
わたしはお母様が今晩ゆっくり寝ることが出来る程度の回復だけに留めた。
「リサ様、明日は朝食を少しだけでも食べてください。食べ物の栄養も大事です、明日また顔を出しますね」
わたしはそれだけ言うと扉を開けて部屋を出ようとした。
「ミケラン?」
扉からいきなり入ってきたミケランはお母様のベッドに上がるとお母様の布団に潜り込んだ。
お母様はさっきより意識がハッキリしていて「ミ…ケラン?」と言うと、ミケランを撫でた。
「久し……ぶり…ね、あなた…も元…気だっ……た?」
お母様は少しだけ微笑んだ気がした。
313
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる