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離縁してください
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「シルビア様、明日の夜侯爵夫人がおいでになるそうです」
執事のビルが仕事前にそう言ってきた。
「わかったわ」
そう答えて送迎の馬車に乗り込んだ。
アレックは夜勤で帰ってこなかった。
夜勤……アレックは一晩中ソニア殿下のそばにいたのだろうか?つい……二人の仲睦まじい姿を想像して……胸がズキッと痛くなる。
もうこの一年何度心を痛めて過ごしただろう。
王命の結婚でなければ、二人の愛の邪魔などしないのに……
アレックを好きになったのは、彼が第二部隊によく顔を出し始めてからだった。
彼が道を歩くだけで女性たちから振り返られる容姿、なのに全く微動だにもせず淡々と歩き、わたしの働く事務室へとやってくる。
そして書類を渡され確認をして団長の執務室へと通す。
お客様が来るとお茶を淹れるのもわたしの仕事だった。
何度か休日にお菓子を作り、みんなに配ったことがあった。それを団長が気に入ってくれた。
『客が来た時に出せるお菓子を作ってくれると嬉しいんだが』
仕事の内容が思ったより少なく、毎日時間を持て余しているわたしに気を遣って団長が部隊のために甘いものを差し入れするお菓子作りを頼まれた。
『はい!』
大好きなお菓子作りをさせてもらえるなんて!
騎士のみんなも楽しみだと言ってくれるし、訪れたお客様たちはお茶とお菓子を楽しみにして来てくれるようになった。
わたしにとって毎日が楽しい。
実家のために働き始めたこの仕事、今は働きがいがあり、大好きな職場になっていた。
職場はもちろん騎士ばかり。事務室で働く女性は三人、そのうち二人は騎士と結婚して子育てをしながら働いていた。とても気さくな優しい二人。
団長を始め騎士のみんなも優しい。
たまに重たいものを運んだりしていたら、「かして!」と言ってすぐに手伝ってくれる。
昼食はみんなでおしゃべりをしながら食べるからあっという間に時間も過ぎてしまう。
充実した日々の中、アレックが事務室に来るとわたしの心はいつもざわざわと落ち着かなかった。
これが恋だと気がついたのは王命で結婚を命じられた時だった。
彼の顔を真正面で初めてちゃんと見ることになって……あのざわざわとした気持ちは……彼を好きなんだと気がついた。
顔が赤くなる恥ずかしくて彼の顔を直視できなかった。
伯爵令嬢なのにずっと貧しい生活で、恋なんてする余裕もなかったし、自分が誰かを好きになるなんて思ってもみなかった。
でも確かにアレックが事務室に来ることをいつも心待ちにしていだかもしれない……
だけど結婚してからもアレックはわたしに興味がない。いつも淡々と過ごしている彼。
屋敷のみんなはいつも仕事で忙しそうにしてわたしのことを顧みないアレックの代わりにとても気を遣ってくれる。
なんでも自分でしてきたわたしには、お世話されることはいまだに慣れないけど、みんないい人達ばかりで居心地はとてもいい。
馬車が王城内に着くとわたしはアレックの妻ではなくただの事務官の顔になる。
ーー今日も頑張ろう。
「いつもありがとうございます。では行ってきます!」
御者にお礼を言って事務室へと向かった。
廊下を歩いていると、少し離れた場所にいる談笑しながら歩くアレックを見かけた。
彼が笑っているのは珍しいけど、仲の良い騎士とは楽しそうにしている姿を見かける。
わたしには見せたことがない姿にまた胸がズキッと痛くなる。
少し離れた場所にいるアレック。わたしには気がつかないだろうけど、軽く頭だけ下げた。
彼からなんの反応もない。
当たり前よね?わたしになんて興味がないのだもの。結婚して一年、まともに夫婦とは言えない生活しか送ってこなかった。
彼がいる場所から離れるように別の廊下へと曲がり、遠回りで事務室へと向かった。
昨日のソニア殿下との姿を思い出し……泣きそうになりながら下を向いて歩いていたら誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
慌てて頭を上げて謝った。
「こら!下を向いていたら危ない!怪我をしたらどうするんだ!」
心配した声で叱られた。
「ミゼル、ごめんなさい」
「ったく、また泣きそうな顔をして!アレック、また帰ってこなかった?」
「夜勤……」
「それは仕方ないな……で、何があった?」
「別に………何もないよ……」
ーー何もない、そう何もないの……気がついてももらえないだけ……
「あぁ………俺も事務室に用事があるんだ……」
ミゼルはわたしの横に並んで歩いた。
特に話しかけられることもない。ただ黙ってそばにいてくれた。
ミゼルはいつもわたしが落ち込んだ時や困った時にこうしてそばにいてくれる。お兄ちゃんみたいな存在。
事務室に着く頃には気分も落ち着いて笑顔で挨拶できた。
「おはようございます!」
ミゼルは別の事務の人に書類を渡して何か話をしていた。
わたしに気を遣ったんじゃなくて本当に用事があったのか……
ーー気を遣わせてなくてよかった。
ホッとして席につき、すぐに仕事を始めた。
今日もアレックが何か書類を抱えて事務室へとやってきた。
ちょうど席を外していたわたしはアレックに対応できなかった。
団長の執務室に通されたと聞いて急いでお茶の準備を始めた。
実家ではわたしがお父様のお茶を淹れる係だった。伯爵家に昔から仕えてくれたメイドにお茶の淹れ方を教わり、かなりの腕前だと自負している。
これだけは他人に負けない。……と思っている。ここでの茶葉の管理もわたしが一手に引き受けている。
お茶を淹れるため執務室に入ろうとした時、どこからか視線を感じた。
たまに何処からともなく誰かに見られているような気配を感じることがある。
キョロキョロ見回すけど誰もわたしのことなんて見ていない。
ーーーーー
ーーシルビア……
シルビアの姿に気がついた俺は同僚に「すまない、先に行ってくれ」と言ってシルビアが曲がった廊下へと急いで向かった。
話しかけるわけにはいかない。だけど昨日のことが気になる。
一目顔だけでも見たかった。いや、声だけでも聞きたかった。
だけどそこにはシルビアと……またミゼルがいた。
ーーくそっ!なんでいつも二人でいるんだ?
執事のビルが仕事前にそう言ってきた。
「わかったわ」
そう答えて送迎の馬車に乗り込んだ。
アレックは夜勤で帰ってこなかった。
夜勤……アレックは一晩中ソニア殿下のそばにいたのだろうか?つい……二人の仲睦まじい姿を想像して……胸がズキッと痛くなる。
もうこの一年何度心を痛めて過ごしただろう。
王命の結婚でなければ、二人の愛の邪魔などしないのに……
アレックを好きになったのは、彼が第二部隊によく顔を出し始めてからだった。
彼が道を歩くだけで女性たちから振り返られる容姿、なのに全く微動だにもせず淡々と歩き、わたしの働く事務室へとやってくる。
そして書類を渡され確認をして団長の執務室へと通す。
お客様が来るとお茶を淹れるのもわたしの仕事だった。
何度か休日にお菓子を作り、みんなに配ったことがあった。それを団長が気に入ってくれた。
『客が来た時に出せるお菓子を作ってくれると嬉しいんだが』
仕事の内容が思ったより少なく、毎日時間を持て余しているわたしに気を遣って団長が部隊のために甘いものを差し入れするお菓子作りを頼まれた。
『はい!』
大好きなお菓子作りをさせてもらえるなんて!
騎士のみんなも楽しみだと言ってくれるし、訪れたお客様たちはお茶とお菓子を楽しみにして来てくれるようになった。
わたしにとって毎日が楽しい。
実家のために働き始めたこの仕事、今は働きがいがあり、大好きな職場になっていた。
職場はもちろん騎士ばかり。事務室で働く女性は三人、そのうち二人は騎士と結婚して子育てをしながら働いていた。とても気さくな優しい二人。
団長を始め騎士のみんなも優しい。
たまに重たいものを運んだりしていたら、「かして!」と言ってすぐに手伝ってくれる。
昼食はみんなでおしゃべりをしながら食べるからあっという間に時間も過ぎてしまう。
充実した日々の中、アレックが事務室に来るとわたしの心はいつもざわざわと落ち着かなかった。
これが恋だと気がついたのは王命で結婚を命じられた時だった。
彼の顔を真正面で初めてちゃんと見ることになって……あのざわざわとした気持ちは……彼を好きなんだと気がついた。
顔が赤くなる恥ずかしくて彼の顔を直視できなかった。
伯爵令嬢なのにずっと貧しい生活で、恋なんてする余裕もなかったし、自分が誰かを好きになるなんて思ってもみなかった。
でも確かにアレックが事務室に来ることをいつも心待ちにしていだかもしれない……
だけど結婚してからもアレックはわたしに興味がない。いつも淡々と過ごしている彼。
屋敷のみんなはいつも仕事で忙しそうにしてわたしのことを顧みないアレックの代わりにとても気を遣ってくれる。
なんでも自分でしてきたわたしには、お世話されることはいまだに慣れないけど、みんないい人達ばかりで居心地はとてもいい。
馬車が王城内に着くとわたしはアレックの妻ではなくただの事務官の顔になる。
ーー今日も頑張ろう。
「いつもありがとうございます。では行ってきます!」
御者にお礼を言って事務室へと向かった。
廊下を歩いていると、少し離れた場所にいる談笑しながら歩くアレックを見かけた。
彼が笑っているのは珍しいけど、仲の良い騎士とは楽しそうにしている姿を見かける。
わたしには見せたことがない姿にまた胸がズキッと痛くなる。
少し離れた場所にいるアレック。わたしには気がつかないだろうけど、軽く頭だけ下げた。
彼からなんの反応もない。
当たり前よね?わたしになんて興味がないのだもの。結婚して一年、まともに夫婦とは言えない生活しか送ってこなかった。
彼がいる場所から離れるように別の廊下へと曲がり、遠回りで事務室へと向かった。
昨日のソニア殿下との姿を思い出し……泣きそうになりながら下を向いて歩いていたら誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
慌てて頭を上げて謝った。
「こら!下を向いていたら危ない!怪我をしたらどうするんだ!」
心配した声で叱られた。
「ミゼル、ごめんなさい」
「ったく、また泣きそうな顔をして!アレック、また帰ってこなかった?」
「夜勤……」
「それは仕方ないな……で、何があった?」
「別に………何もないよ……」
ーー何もない、そう何もないの……気がついてももらえないだけ……
「あぁ………俺も事務室に用事があるんだ……」
ミゼルはわたしの横に並んで歩いた。
特に話しかけられることもない。ただ黙ってそばにいてくれた。
ミゼルはいつもわたしが落ち込んだ時や困った時にこうしてそばにいてくれる。お兄ちゃんみたいな存在。
事務室に着く頃には気分も落ち着いて笑顔で挨拶できた。
「おはようございます!」
ミゼルは別の事務の人に書類を渡して何か話をしていた。
わたしに気を遣ったんじゃなくて本当に用事があったのか……
ーー気を遣わせてなくてよかった。
ホッとして席につき、すぐに仕事を始めた。
今日もアレックが何か書類を抱えて事務室へとやってきた。
ちょうど席を外していたわたしはアレックに対応できなかった。
団長の執務室に通されたと聞いて急いでお茶の準備を始めた。
実家ではわたしがお父様のお茶を淹れる係だった。伯爵家に昔から仕えてくれたメイドにお茶の淹れ方を教わり、かなりの腕前だと自負している。
これだけは他人に負けない。……と思っている。ここでの茶葉の管理もわたしが一手に引き受けている。
お茶を淹れるため執務室に入ろうとした時、どこからか視線を感じた。
たまに何処からともなく誰かに見られているような気配を感じることがある。
キョロキョロ見回すけど誰もわたしのことなんて見ていない。
ーーーーー
ーーシルビア……
シルビアの姿に気がついた俺は同僚に「すまない、先に行ってくれ」と言ってシルビアが曲がった廊下へと急いで向かった。
話しかけるわけにはいかない。だけど昨日のことが気になる。
一目顔だけでも見たかった。いや、声だけでも聞きたかった。
だけどそこにはシルビアと……またミゼルがいた。
ーーくそっ!なんでいつも二人でいるんだ?
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