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離縁してください
【21】
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「ソニア」
「お腹が空いたわ」
部屋に毎日顔を出すお兄様。
力が入らない。一日一回の食事。始めはあまりにも美味しくないから食べなかった。
だけど本当にこれしかない。
食べなければ死んでしまう。仕方なく食べるようになった。それでもお腹は満たされない。
毎日入っていたお風呂も毎日何度も着替えていたドレスもここにはない。
宝石も化粧品もない。
あるのは眠るためのベッドとトイレだけ。
飲むのは水。紅茶もジュースもお酒も、おやつもない。
「お兄様、お願い、ここから出して……」
力なく訴えた。
お兄様はここに入れらてから初めてわたしを可哀想な目で見つめた。今まではただ反省しているのか?と聞くだけだったのに。
「もうすぐ君は結婚する。それまでにその蓄えてきた無駄な贅肉と共にソニアの我儘な考えを捨てないといけない」
「酷い!わたしが何をしたと言うの?それに贅肉って……ちょっとお肉があっただけじゃない!」
ーーもう!なんて言い方なの!
「………お前を甘やかしたのは両親と僕だ。多少の我儘も可愛いことだと思って聞いてしまった。でもソニア……君はしてはならない事を色々してしまっていた。アレックの妻の悪い噂を流したり男たちに襲わせたりしていたのは聞いた。それも十分悪質だった。しかし、それ以外にもシルビアを困らせるために大切な書類を失くさせたりしていたらしいね。その書類の重要性にも気遣いないで」
「重要性って?」
確かに書類をシルビアに回す前にわたしのところに何度か持って来させた。第二部隊の騎士に渡す前に外務部の事務官に書類を持ってくるように伝えたことがある。たまたま耳にしたから、シルビアを困らせようと思って。
『こ、これは、あの、大切な書類なんです』
『あら?大切なの?』
その言葉を聞いてニヤッと笑い、シルビアに行く前の書類を数枚紛失させた。
それはシルビアの所為になって叱られたのでは?
「君が紛失させた書類は、外国との合同演習についての取り決めの大切な書類だった。書類の何が不足しているのかわかった時には手遅れで向こうの国に手渡されてしまっていた。
おかげで我が国は何億という損失を被ることになったんだ」
「………えっ?」
「支払いを折半にすることが書かれた書類が失くなり、そのまま向こうの国へ渡されていた。何度も確かめてあとは第二部隊の団長から向こうの国に渡されるための大切な書類だった。もちろんシルビアが仕事上振れることはない書類だ。
君の部屋からその大切な書類が数枚出てきた。父上は君の部屋にある全てのものを売り払った。だがそれだけではまだ足りない。僕も売れるものは売った、母上も宝石類をかなり手放されてなんとか穴埋めはしたよ。父上がなぜ君を叱らないかわかるかい?」
「それでもわたしを愛しているから?」
「君の顔は二度と見たくないそうだ」
「そんなことお父様が思うはずないわ!」
「父上は昔から優しい。それは……国王という仮面を被るために作られた優しさだ。優しければ優しいほどあの人はその相手に対して、怒り見捨てているんだ。相手を想っている時はしっかりと叱るし厳しくしてくれる」
「えっ?お兄様に厳しいのはお兄様が……王太子としての才能がないからじゃないの?」
お兄様はよくお父様に叱られていた。だからいつも要領が悪い、馬鹿な人だと思っていた。もっと愛想良く可愛らしく甘えればなんでも買ってくれるし可愛がってもらえるのにと……
「君や母上の我儘を聞いていたのは父上からすれば面倒で煩わしいからだ。いちいち君たちの話なんてまともに聞いていられないから。君たちに当てられた予算内で贅沢をするなら別段どうでも良かったんだよ。
ただ今回の書類の件だけは父上としても見逃すことはできなかった。さらにアレックとのことも君があまりにもうるさくて煩わしくて仕方がなかったんだ」
「アレック?どうして?愛し合う私たちの邪魔をしたのはお父様よ?」
「アレックと君は半分血が繋がっているんだ、結婚なんてあり得ない」
「………血が繋がっている?親戚なの?従兄弟なら結婚できるわ」
ーーアレックの実の親がお父様と兄弟?誰の子?わかんないわ?
「アレックは父上と侯爵夫人の間に産まれた子供だ。僕の弟で君の兄。このことはアレックも知っているし、母上もご存知だ」
「嘘!どうして?そんな酷い事を言うの?」
「アレックは王族の髪の色を幼い頃から隠して染めてる。父上の恋人だったアレックの母親、まあ、二人はいまだに恋人関係なんだろう」
「お母様は……ご存知なのにそれを受け入れているの?」
「………母上が愛しているのは侯爵夫人の夫の侯爵だから、お互いに都合がいいんだよ」
「気持ち悪い……そんなの……」
「俺たち王族や高位貴族に恋愛結婚なんてあり得ない。政略結婚が当たり前なんだ。たまたまお互いの恋人が交換されて結婚したんだ。離縁はしなくてもお互いおさまるところに収まってる。ただそれだけだよ」
「わたしだけ知らなかったの?」
「知らなかったじゃない、ソニアにも伝えたけど君はアレックが兄である事を拒否して聞き入れなかったんだ。父上に結婚はできない、アレックはソニアの兄だと言われて耳をふざき泣き喚いて現実から目を逸らした。そしてなかったことにして君はアレックに執着して妻であるシルビアに嫌がらせを始めたんだ。
流石に少しならヤキモチだと見逃していたが男に襲わせるなど人として許せない事をしただろう?
反省するかと思っていたけど、この1週間、ソニアは全くもって反省はしなかったね?まあ、いい感じで贅肉は落ちてスリムになって嫁に出すにはちょうどいいかな?向こうは細い体が好みらしいからね」
「わたし、やっぱり婚約者のところに嫁がされるの?」
「ああ、あの婚約はもうすでに解消されているよ。君の性格や行動を調べられて婚約はなかったことにと言われてしまった。だから新しい婚約者を見つけた。ここからは遠い北の国にある国の第三側妃としてね。まだ26歳の若い国王でかなりやり手だ、幸せに暮らしなさい」
「北の国?それはもしかして……」
ーー野蛮な国と言われているあの国?
あそこに嫁ぐのは無能な王族の女……と揶揄されているわ。あそこの国王はどんな女でも受け入れるから。
そして弄ぶだけ弄んだら、自分の側近たちに「あとは好きにしろ」と捨ててしまう。
王族の女のゴミ捨て場と言われている所……
「いや、嫌よ!あんなところには行かないわ!」
「もう決定したことだ」
「お父様ぁ」
嫁ぐ日、最後にお父様に挨拶をと、なんとか会うことができた。
ここでお父様に泣き落としするしかわたしには残されていない。
「お父様ぁ、わたしお嫁になんて行きたくない。お父様のそばにいたいの、お父様だってわたしがいなくなるのはお寂しいでしょう?」
泣きながらお父様に抱きついた。
お父様は優しくわたしを抱きしめ頭をいつものように撫でてくれた。
「ソニア……そうか、そうか、忙しいからまた時間があったら話を聞こう」
ーーえっ?このセリフ……いつもわたしが何かを言うと返ってくる言葉……『忙しいからまた…』
「お父…様…?」
「ソニア、また今度、わかったな?」
お父様の顔を見上げた。優しいいつもの笑顔、だけどそこには全く感情が見えない。そう、笑っている仮面をつけているような笑顔。
わたしはこんなに近くにいたのに気が付かなかったの?
ふと近くにいるお母様を見た。
目を逸らしわたしを見ようともしない。
お母様はいつも黙って私のわがままを聞いてはくれた。
でも何も言わない、何もしてはくれない。
それがお母様。
「お母様?」
声をかけたのにいつものように微笑んでいるだけ、私のことを見ていない。興味すらないのがわかる。
両親は……優しさを被っていただけ?私は気が付かなかったの?
お兄様は……
「ソニア、お前が嫁ぐ相手は……最悪だ、しかし、耐えれば、最後は解放されて皆幸せになっていると聞く。もしも耐えられなくなったらこの薬を飲め、楽になれるから」
お兄様がくれたのは………安楽死できる秘薬だった。
わたしのこの先にあるのは……
周囲を見回す。アレックはいない。
最後にアレックに会いたかった。
たとえ兄だとわかっても……ずっと好きだった。好きだったのに、それが我儘だと言われるの?シルビアに酷いことをしたけど……それくらいのことで……
だけど、知らない間に国に大きな損害を与えていたのはわたし。お父様はそれを責めることなくわたしを見捨てた。
わたしはこれから……噂だけはものすごく酷い国へと嫁ぐことになる。
アレック……
◆ ◆ ◆
次で最終話です。
そして……
新しい『離縁』の話が始まります。
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