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姫。③
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「姫様、お着替えをいたしましょう」
いつもお世話をしてくれる侍女の一人が急かすようにドレスを一枚持ってやってきた。
「どうしたの?」
「このドレスに着替えるようにと言われましたので」
目を逸らし理由を言わない侍女にため息をつく。
「あなたも雇われの身だものね」
理由を尋ねても言わないのではなく言えないのだろう。
わたしが何を聞いても答えてもらえないように。
ここで知りたいことを知るためには外へ出て自分で情報を集めるしかない。
わたしのところへやってくる侍女達は皆上からの命令でわたしには何も話すなと言われているようだし。
記憶喪失のわたしにあえて無駄な情報を与えずにこの部屋で静かに過ごさせる事が国王達にとっては煩わしくないのだろう。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
初めて隠れ通路からではなく堂々と部屋の扉から外に出た。
静かな通路を歩いた。
分かってはいたけど、ここは流石に王族のための居住地なのだろうと思われる。
人がどこにいるのかしら?と思うくらい人気がない。廊下は灯りで照らされ、重厚感のある絨毯の上を侍女の後ろをついて歩いた。
まるで姫様であるわたしの方が付き人のような気分だわ。
部屋に入ると明るい日差しが差していてキラキラして、まるでプリンセスのお部屋のようだ。
そこには大きな窓があり、バルコニーへ出入りするパティオドアに思わず目がいった。
なんて素敵な部屋なんだろう。
わたしの大人(おっさんのような)の重厚感のある部屋とは大違いだ。
淡いベージュであつらえた可愛い家具達。
クロスも小さな小花が描かれていて可愛らしい。カーテンも淡いピンクに可愛い花柄、レースまで施されている。
いやぁ、姫様とは大違いだわ。
そこにいたのは美しいドレスを着て、髪を可愛らしく結い上げ、ダイヤモンドのイヤリングに、ダイヤモンドのネックレス、腕にもダイヤモンドのブレスレットをつけたオリビア様だった。
オリビア様と初めての対面だった。
「あなたは誰ですか?」
記憶喪失のわたしはまず『あなた』を知らないと言う顔をして尋ねた。
だってこの部屋に誰がいるのか、どうしてここに来なければいけなかったのか、何も知らされていないのだもの。
わたしは「オリビア様を知っている」はずがないのだもの。
「わたし?わたしはオリビア・リシャ。この国の聖女であり王女よ」
「初めまして。わたしの名は……わかりません。わたしが誰なのか……ごめんなさい、記憶がありません」
うん、わたしは何も聞かされていないもの。
「本当に何も覚えていないの?」
「はい、王女様はわたしのことをご存知ですか?」
首を横に傾げ、可愛らしく質問してみる。この人の前で自分を貶めたくない。
だってわたしはこの国の唯一の『姫』なんだもの…一応……記憶はないし何も知らないけど。
「あなたは……この国の王女よ」
「ではあなたは……お姉様なのですか?」
いや、あなたがわたしと同じ歳の14歳って知ってるけどね?
「お姉様……違うわ。あなたとわたしは血は繋がってはいないのよ。わたしはお父様とお母様に選ばれた娘なの」
「選ばれた娘?」
「ええ、聖女として生まれ、この国のために生まれてきたの。だからお父様とお母様はわたしを心から愛しわたしを娘として選んでくれたの」
「……ではわたしは?」
「あなたは……そうね……わたしを羨んで心を壊し、記憶をなくしてしまったようなの」
「あなたを羨んだ?」
自分に問うてみた。
オリビア様が羨ましい?
ううん、全く。
両陛下に愛されたい?
全然。
心は壊れているの?
え?普通だけど?
「ごめんなさい……全く記憶がありません。でも今のわたしは全くあなたを羨んでもいません。だってたった今あなたに初めてお会いしたのですから」
にこりと微笑んだ。
「聖女様……素敵ですね?癒しの力があるのですか?」
「……癒しの力?……ないわ」
「じゃあ、結界を張るとか?回復魔法?豊穣の力?浄化能力?それとも……えっとぉ……」
「あ、あなたなんなの?そんなことできるわけがないじゃない?本の読み過ぎじゃないのかしら?」
「え?じゃあ聖女様ってどうして言われているのですか?」
指を手に添えてあざとくコテンと首を傾げた。
「わたしには聖女の力があるからよ」
「聖女の力?それはどんな力なんですかぁ?」
「そ、それは……形ではないわ。わたしがここにいる、それが力なの」
「ほぉ、へぇ!なるほど!あなたがいることが大切なのんですね?」
「ええ、そうよ」
「あなたがいれば災いからも逃れられるんですね?
すごい!
ではこの国はこれから先、災害や不作に見舞われることも、他国からの侵略もありませんね?とても素敵なことですね?
ここにいるみんなも良かったわね?この国は聖女様のお力で幸せになれるのよ?」
手を叩いてわたしは喜んだ。
「わたしは記憶もないし何もできないただの役立たずの姫だけど、こんな素晴らしい人が王女になったのだもの。素敵、安心だわ!」
そんな姿を傍にいた使用人や侍女、護衛騎士達が見ていた。
うん、これで、この話は城中に行き渡るだろう。
姫は記憶がない。
でも聖女様を讃え、聖女様をこの国の王女として自らが認めた。
これでわたしの立場は安泰かしら?
もう害を及ぼすこともないし、軟禁状態はやめてもらえるかしら?
オリビア様は顔を引きつらせながらも笑みを絶やさなかった。
ああ、これで将来ルワナ王国へと嫁ぐことも阻止できたかしら?
記憶もないしわたしなんかがルワナ王国へ嫁いでもなんの役にも立たないことが証明されたかしら?
以前のわたしは誠実で努力家、真面目でそれなりに優秀だったらしいけど、今はぐうたらして部屋に引きこもっている(軟禁)だけの役立たず。
早く噂が広まってくれることを祈ろう。
いつもお世話をしてくれる侍女の一人が急かすようにドレスを一枚持ってやってきた。
「どうしたの?」
「このドレスに着替えるようにと言われましたので」
目を逸らし理由を言わない侍女にため息をつく。
「あなたも雇われの身だものね」
理由を尋ねても言わないのではなく言えないのだろう。
わたしが何を聞いても答えてもらえないように。
ここで知りたいことを知るためには外へ出て自分で情報を集めるしかない。
わたしのところへやってくる侍女達は皆上からの命令でわたしには何も話すなと言われているようだし。
記憶喪失のわたしにあえて無駄な情報を与えずにこの部屋で静かに過ごさせる事が国王達にとっては煩わしくないのだろう。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
初めて隠れ通路からではなく堂々と部屋の扉から外に出た。
静かな通路を歩いた。
分かってはいたけど、ここは流石に王族のための居住地なのだろうと思われる。
人がどこにいるのかしら?と思うくらい人気がない。廊下は灯りで照らされ、重厚感のある絨毯の上を侍女の後ろをついて歩いた。
まるで姫様であるわたしの方が付き人のような気分だわ。
部屋に入ると明るい日差しが差していてキラキラして、まるでプリンセスのお部屋のようだ。
そこには大きな窓があり、バルコニーへ出入りするパティオドアに思わず目がいった。
なんて素敵な部屋なんだろう。
わたしの大人(おっさんのような)の重厚感のある部屋とは大違いだ。
淡いベージュであつらえた可愛い家具達。
クロスも小さな小花が描かれていて可愛らしい。カーテンも淡いピンクに可愛い花柄、レースまで施されている。
いやぁ、姫様とは大違いだわ。
そこにいたのは美しいドレスを着て、髪を可愛らしく結い上げ、ダイヤモンドのイヤリングに、ダイヤモンドのネックレス、腕にもダイヤモンドのブレスレットをつけたオリビア様だった。
オリビア様と初めての対面だった。
「あなたは誰ですか?」
記憶喪失のわたしはまず『あなた』を知らないと言う顔をして尋ねた。
だってこの部屋に誰がいるのか、どうしてここに来なければいけなかったのか、何も知らされていないのだもの。
わたしは「オリビア様を知っている」はずがないのだもの。
「わたし?わたしはオリビア・リシャ。この国の聖女であり王女よ」
「初めまして。わたしの名は……わかりません。わたしが誰なのか……ごめんなさい、記憶がありません」
うん、わたしは何も聞かされていないもの。
「本当に何も覚えていないの?」
「はい、王女様はわたしのことをご存知ですか?」
首を横に傾げ、可愛らしく質問してみる。この人の前で自分を貶めたくない。
だってわたしはこの国の唯一の『姫』なんだもの…一応……記憶はないし何も知らないけど。
「あなたは……この国の王女よ」
「ではあなたは……お姉様なのですか?」
いや、あなたがわたしと同じ歳の14歳って知ってるけどね?
「お姉様……違うわ。あなたとわたしは血は繋がってはいないのよ。わたしはお父様とお母様に選ばれた娘なの」
「選ばれた娘?」
「ええ、聖女として生まれ、この国のために生まれてきたの。だからお父様とお母様はわたしを心から愛しわたしを娘として選んでくれたの」
「……ではわたしは?」
「あなたは……そうね……わたしを羨んで心を壊し、記憶をなくしてしまったようなの」
「あなたを羨んだ?」
自分に問うてみた。
オリビア様が羨ましい?
ううん、全く。
両陛下に愛されたい?
全然。
心は壊れているの?
え?普通だけど?
「ごめんなさい……全く記憶がありません。でも今のわたしは全くあなたを羨んでもいません。だってたった今あなたに初めてお会いしたのですから」
にこりと微笑んだ。
「聖女様……素敵ですね?癒しの力があるのですか?」
「……癒しの力?……ないわ」
「じゃあ、結界を張るとか?回復魔法?豊穣の力?浄化能力?それとも……えっとぉ……」
「あ、あなたなんなの?そんなことできるわけがないじゃない?本の読み過ぎじゃないのかしら?」
「え?じゃあ聖女様ってどうして言われているのですか?」
指を手に添えてあざとくコテンと首を傾げた。
「わたしには聖女の力があるからよ」
「聖女の力?それはどんな力なんですかぁ?」
「そ、それは……形ではないわ。わたしがここにいる、それが力なの」
「ほぉ、へぇ!なるほど!あなたがいることが大切なのんですね?」
「ええ、そうよ」
「あなたがいれば災いからも逃れられるんですね?
すごい!
ではこの国はこれから先、災害や不作に見舞われることも、他国からの侵略もありませんね?とても素敵なことですね?
ここにいるみんなも良かったわね?この国は聖女様のお力で幸せになれるのよ?」
手を叩いてわたしは喜んだ。
「わたしは記憶もないし何もできないただの役立たずの姫だけど、こんな素晴らしい人が王女になったのだもの。素敵、安心だわ!」
そんな姿を傍にいた使用人や侍女、護衛騎士達が見ていた。
うん、これで、この話は城中に行き渡るだろう。
姫は記憶がない。
でも聖女様を讃え、聖女様をこの国の王女として自らが認めた。
これでわたしの立場は安泰かしら?
もう害を及ぼすこともないし、軟禁状態はやめてもらえるかしら?
オリビア様は顔を引きつらせながらも笑みを絶やさなかった。
ああ、これで将来ルワナ王国へと嫁ぐことも阻止できたかしら?
記憶もないしわたしなんかがルワナ王国へ嫁いでもなんの役にも立たないことが証明されたかしら?
以前のわたしは誠実で努力家、真面目でそれなりに優秀だったらしいけど、今はぐうたらして部屋に引きこもっている(軟禁)だけの役立たず。
早く噂が広まってくれることを祈ろう。
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