裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ

文字の大きさ
13 / 24

姫。⑤

しおりを挟む
「君は………」

 君?
 実の娘に君?

 思わず陛下へ冷たい視線を向けてじっと見つめた。

 するとスッと陛下は視線を逸らした。

「わたしは……『君』と言う名なのでしょうか?誰もわたしのことを教えてくれません」

 冷たく笑った。

「ソ、ソフィ……」

 恐る恐るわたしに声をかけてきたソラさん。

 ソラさんはわたしが軟禁されている『姫』だとは知らない。

 不敬にも陛下に冷たい態度をとるわたしをなんとか諌めようとしていた。

 ソラさんの顔は青ざめ震えていた。
 そしてそばにいた庭師のおじちゃん達も動けずにわたしを心配そうに見つめていた。

 ソラさん達へ視線を向けると、緊張して張り詰めた顔の筋肉が和らいだ。

「ごめんなさい、ソラさん、みんな。大丈夫です、心配しないでください」

「だって………駄目だよ。目の前にいるお方は国王陛下様なのよ?そんな態度をとっては駄目」

「ソフィちゃん、すぐに謝った方がいいぞ」

「何もしていないのに?」

 陛下に聞こえるようにハッキリと声を出した。

「ああ………そうだな……君は何もしていない」

「あと少し、残りの仕事をやり終えないといけないわ」

 陛下を無視して花の植え替えの手を動かした。

 わたし自身はなぜか怒りが。
 別に何されたわけではないのに。あ……軟禁されて外に出してもらえないや。

 なのに心の奥にいる誰かが「やめて」と訴える。

 やめて?
 どうして?ハッキリ言ったらいいじゃない。

 貴方なんて知らない。
 貴方はわたしを軟禁してどうしたいの?
 わたしの名すら呼べないの?
 わたし『姫』は貴方の娘ではないの?

 だけど心の中の別の誰かがわたしを止める。

 あなたはソフィア姫なの?

 どうしてわたしが今この世界にいるの?

 わたしはずっとあなたを夢の中で見てきた。

 わたしがソフィア姫?それともわたしはあなたの中に無理やり入ってしまった異物なの?

 イライラする。

 こんな状態を受け入れているソフィア姫に対して。そしてその哀しい気持ちにどうしても同調してしまう自分にも。

 陛下はしばらくわたしをただ見つめていたようだ。

 そして静かに去って行った。

 声くらいかけなさいよ!

 わたしは陛下に、わたしの名を問うた。なのに彼は何も答えなかった。

 誰も何も教えてくれないと言ったのに眉を顰めることもなかった。

 それはわたしが記憶喪失だと知っていると言うこと。知っていて何も答えない。

 軟禁しているはずのわたしが使用人として働いていることにも何も言わない。

 あの人は娘を捨て、聖女だけを娘として扱っているのかもしれない。

「おい、ソフィちゃん、花が!」

 おじちゃんが慌てた声をかけてきた。

 ふと手元を見ると花を握りしめていた。

「うわ、ごめんなさい」

 手を緩めたので花はなんとか無事だった。

「花に罪はないぞ。あるのはあのお方だ」

「おじちゃん………」

「ソフィちゃんは何も悪くない」

「ああ、何も悪くないぞ」

 おじちゃん達はわたしの正体に気がついていたらしい。

 何も言わない、何も聞かないでただそばで見守ってくれていたのだ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

この幻が消えるまで

豆狸
恋愛
「君は自分が周りにどう見られているのかわかっているのかい? 幻に悋気を妬く頭のおかしい公爵令嬢だよ?」 なろう様でも公開中です。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

処理中です...